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text:Jesse Crosse(ジェシ・クロス)

EVにためらってしまう?

バッテリー電気自動車(BEV)は少しずつ人気が出てきたが、それが普及するにはまだまだ時間がかかる。

2017年に英国で登録されたすべての自動車のうち、純粋なバッテリー電気自動車はたった0.54%、総数13597台だ。

AUTOCAR読者からの反応では、電気自動車に興味はあるものの、実際の航続距離、バッテリー寿命と交換費用、利用可能な充電ステーション、減価償却、充電方法などがよくわからないので、買うのをためらっているようだ。

そこで、多くのユーザーがもっている疑問について回答してみたいと思う。

素朴な疑問1 EVバッテリーの寿命は?

実のところ、自動車メーカーにもよくわからないのだ。

現代の量産EVは発売されてから日も浅く、すべての自動車メーカーが長い保証期間を設けている。

24kWhの日産リーフの場合、5年間/96500kmの保証。30kWhと新しい40kWhのモデルでは8年間/16万kmの保証となっている。

他の自動車メーカーもバッテリーの初期故障や容量(キロワット・アワーkWhで表示される)の大幅な低下(70%以下)に対して同様の保証を設けている。

リーフは英国で最もよく売れているBEVだ。日産では、バッテリーの寿命はクルマ自体の寿命より長く設計されており、「交換費用は従来のエンジン交換と同じ程度だが、ユーザーが交換をする必要はないと考えている」といっている。

日産によれは、欧州でリーフを発売した2011年から2014年までに、バッテリーを交換したリーフはたった0.01%、つまり3万台のうち3台ということだ。また、英国ではバッテリー交換は発生していない。

ルノーでは月49ポンド(7500円)から110ポンド(1万6900円)でバッテリーのリースを行っている。価格はバッテリー容量と年間の走行距離に依存する。

テスラはバッテリーを含む駆動系に8年間/走行距離無制限の保証を付けているが、2008年に販売されたロードスターのバッテリーはまだまだ元気だといっている。

素朴な疑問2 新品のバッテリーの値段は?

これはEVメーカーがもっとも嫌がる質問だ。

バッテリー・パックは独立したセルからなる多数のモジュールからできている。モジュールは交換可能だが、例えば新型日産リーフのバッテリー価格は4100.04ポンド(約62万8000円)プラス工賃(2〜3時間)と消費税だ。

古いバッテリーのキャッシュバック820ポンド(約12万6000円)込みの価格である。また日産では、何台かのリーフは最初のバッテリーのまま32万kmあまりを走行しているが、バッテリ容量計の表示は12レベルのうち1レベル減っただけだといっている。4レベル減らなければ保証は受けられない。

BMWi3のバッテリーは消費税込みで9926.40ポンド(約152万円)。8つあるモジュールはひとつ1240.80ポンド(約19万円)になる。バッテリーの価格は容量と電力が大きくなるほど高くなる。従って、テスラのバッテリーはもっとずっと高いだろう。

ルノー・ゾエを即金で買うと(ほとんど買わないが)、ルノーのバッテリー・リースを利用した場合に比べ5600ポンド(約85万8000円)余計にかかる。

これでバッテリー価格が大体わかる。小型の22kWhのバッテリーを3年間14500kmでリースするとこの額の半分の価格になり、バッテリーの信頼性に関する疑問も払しょくされる。

ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスによると、リチウム・イオン電池パックの価格は、過去12カ月で24%下がってkWhあたり156ポンド(23900円)となった。2025年までにはkWhあたり75ポンド(11500円)まで下がると予想されている。

そうなると、現在5000ポンド(76万6000円)から6000ポンド(91万9000円)している40kWhのバッテリーの小売り価格は、3000ポンド(46万円)から4000ポンド(61万3000円)になる計算だ。

素朴な疑問3 航続距離の表示は信用できるか?

常に信用できるわけではない。通常のクルマの場合、EVの航続距離はみな欧州のNEDC試験規格によって計測されている(ただしこの試験規格はWLTPという新しい試験に置き換わる予定だ)。

はっきりいってNEDCに基づく距離表示はエンジン自動車の場合と比べて不正確である。リチウム・イオン電池の性能が環境の温度に大きく影響されるからだ。

たとえばルノーは独自の試験に基づいて夏と冬とでそれぞれNEDCの数値を補正している。冬では実際の航続距離はNEDCの数字の半分となっている。

従って公称400kmとなっているゾエ・シグネチャーNav R90ZEの航続距離は200kmに低下する。すべてのEVメーカーがこのような数値を公表しているわけではない。

素朴な疑問4 なぜEVのリセール・バリューは急激に下がるのか?

市場規模が小さくバッテリー交換の費用も不透明なので、保証期間が残り少ないと中古車を買おうと思っても不安である。

新車を購入する場合もリセール・バリューがどのくらい下がるかわからないと心配だが、最近自動車メーカーが提供しはじめたアプルーブドEVプログラムによって状況は改善されるかもしれない。

素朴な疑問5 EVは従来のクルマに置き換わるのか?

2016年の国民移動調査によると、英国でのクルマによる平均往復距離はたった27km。お手頃なEVにぴったりだ。毎日充電する必要もないだろう。7万ポンド(1076万円)を超えるテスラSは別として、小型のお手頃なEVで長距離旅行をすることが便利かどうかは、バッテリー容量と定期的な休憩の有無に依存する。

例えばミドル・イングランドからエディンバラまで560kmを走る場合、フォード・フィエスタ・ゼテック1.0エコブーストだと5時間程度かかる。高速道路を113km/hで走行し、給油も必要ない。

22kWhバッテリーのルノー・ゾエだと、もっとゆっくり走っても3回の急速充電が必要で、少なくとも2倍の時間がかかる。長距離旅行にはもっとバッテリー容量が大きいEVのほうがいい。

しかし、新しい大容量バッテリーが登場すると話は全く違ってくるはずだ。新型のゾエ40(バッテリーは41kWh)や最新の日産リーフ(同40kWh)だと充電が必要となるまでの距離は伸びるが、大容量バッテリーだと充電時間も長くなる。

日産は80%までの急速充電に40分かかるといっている。ルノーは1時間以上だ。購入価格も高くなる。フィエスタが1万5245ポンド(235万円)なのに対してリーフは2万6490ポンド(408万円)だ。

素朴な疑問6 充電設備の種類は? 充電のコストは?

英国では大きく分けて3つのタイプがある。急速、高速、そして低速だ。公共の充電ポイントを調べる最も簡単な方法はネットのzap-map.comだ。高速道路網はEcotricityがカバーしており、同じくオンライン・マップもある。公共の充電設備は無料だが、その他はほとんど有料である。

Ecotricityの場合、従来の顧客に対しては1kWhあたり15ペンス(23円)。従って40kWhのバッテリーを持つ航続距離320kmのEVだと満タンで5ポンド(770円)程度になる。一方、燃費が19.5l/kmのスーパーミニだと燃料代は20ポンド(3080円)程度だ。

低速充電

通常、家庭の3ピン・コンセントあるいは充電ポイントで供給できる電力は3kWだ(電気ストーブと同程度)。充電時間は6から12時間。家庭で一晩オフピーク・エコノミー7で充電すると、1kWhあたり7.1ペンス(10.9円)なので、ルノー・ゾエZE40をフル充電するのに2.85ポンド(439円)かかる計算だ。これで冬なら240km、夏なら290km走れる。

高速充電

エアコンのように32アンペア回路に接続すれば、家庭の充電ポイントでも7kWまで供給できる。ただし、これが使えるためにはクルマ側に適合する充電器が必要だ。充電時間は3から5時間程度。充電場所で工業用の3相回路が使えるなら、高速充電器は22kWまで供給電力を高められるので、通常のEVなら充電時間は1、2時間まで短くなる。

急速充電

供給電力は交流なら43kW、直流なら50kWだ。平均的な現代のEVなら80%まで充電するのに30分程度かかる。通常、供給業者に事前申し込みが必要だ。業者によって、支払いはRFIDカード、スマホ・アプリ、クレジット・カード、または会費で行うことができる。現在のところ交流急速充電を使うのはルノー・ゾエだけである。

スーパーチャージャー

テスラのクルマだけだが、120kWのスーパーチャージャーなら大容量のバッテリーを30分で80%まで充電できる。モデルSとXのオーナーなら、1600kmに相当するエネルギー(400kWh)を毎年無料で手に入れることができる。充電料金は1kWhあたり20ペンス(31円)なので、2400km走ると90ポンド(14000円)かかる。一方、同じ距離を従来燃料で走ると240ポンド(37000円)程度になる。

素朴な疑問7 たくさんのケーブルが必要?

必要ない。充電ポイントにはケーブル付きのもの(充電ポイント側にケーブルが付きっぱなしになっている)とケーブルなしのもの(ソケットだけ。この場合は自前のケーブルが必要)がある。急速充電ではケーブルは常に充電ポイント側に備え付けられており、EV側のソケット形状に合わせるため複数のケーブルが用意されている。まだ規格が統一されていないのだ。

充電ケーブルが用意されていない場合に備えて、EVには通常2種類のケーブルがついている。ひとつは家庭の壁コンセントにつなぐものだが、単なる延長コードではなくて、バッテリーに供給される電力を制御するために欠かせない電子回路が組み込まれている。もうひとつは、公共の充電設備につなぐものだ。

素朴な疑問8 急速充電はバッテリー寿命に影響するか?

専門家は、頻繁に急速充電を行うとリチウム・イオン電池を痛める恐れがあると警告している。高いエネルギー密度を実現するため専用設計になっているのだ(航続距離が延びるよう、より多くのエネルギーをため込む)。実際には、ほとんどのEVは家庭ないし職場で低速充電され、急速充電の頻度は高くない。

最も高速の急速充電では、バッテリーへのダメージを防ぐため、バッテリー容量が80%を超えると充電速度(=供給電力)は遅くなり、90%を超えるとさらに遅くなる。BMWによると、定期的に急速充電を行っているクルマでも明らかなバッテリーの劣化は見つかっていないそうだ。

テスラはソフトウエア制御によって可能な限りバッテリーを保護していると言う。すべての主要なEVメーカーも同様だ。

EVの航続距離の進歩 NEDC距離表示