シニア3年目の宇野昌磨は、いつもと変わらぬ様子で、ふだん出場している大会と同じようなアプローチで、初出場となる五輪の舞台に立った。

 平昌五輪を前に、宇野はあっけらかんとこんな言葉を発していた。「五輪は特別な大会ではなく、通過点の大会」「試合を楽しみたいけれど、楽しめなかったら楽しめないで、自分のいい経験ができるよう、悔いのない演技をするというのが目標です」……。自分の立ち位置をしっかりと把握して、あくまでも自然体で、気負いや優勝への渇望を表に見せることはほとんどなかった。

 そんな宇野は、ショートプログラム(SP)を滑り終えた後、「どんな試合ともあまり変わらずに、オリンピックだからという特別な意識はなかったです。でも、今シーズンの中で一番気持ちの高ぶりがあったんですが、何が理由かはわからない。(フリーでは)平常心で、自分のやってきたことを信じて頑張るだけ」と語っている。


フリーでハビエル・フェルナンデスを逆転、初出場の五輪で2位となった宇野昌磨

 4年に1度の五輪を特別視する選手やメディア、ファンが少なからずいることで、それまで感じることがなかった高揚感のようなものを感じ取ったのかもしれない。

 SPでは冒頭の4回転フリップの着氷が詰まってしまったが、大きなミスはせず、後半の4回転+3回転のトーループの連続ジャンプとトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をしっかりと跳んでみせ、それぞれ1.43点と1.14点、0.71点の出来栄え(GOE)加点がついた。

 合計得点104.17点はSP首位の羽生結弦とは7.51点差の3位。逆転できない点差ではなく、フリーの滑走順で宇野が最終滑走者となり、羽生の演技と得点を見た後で、戦略を立てて自分の演技ができるメリットもあった。実際、宇野はどの大会でも、自分よりも前の選手の演技をすべて見ている。気が散らないのだろうかと思うのだが、逆に闘志が湧くのかもしれない。

 完璧な演技をした羽生のSPの演技を見た宇野はこう言っていた。

「僕もいい演技をして終えられたらなと思った。羽生結弦選手という大きな存在の後ろで、僕も精いっぱい頑張りたい」

 そのフリーで、宇野は果敢に大技に挑んだ。冒頭の4回転ループで転倒する失敗を犯したが、その後の演技には影響させずにしっかりと立ち直った。4回転フリップはきれいなジャンプでGOE1.57がつき、1.1倍がつく演技後半のトリプルアクセルでもGOE加点1.86点をマークした。フィニッシュポーズを決めると、笑顔で「うん!うん!」と頭を上下に振って頷いた。

 リンクサイドでは、幼少時からコーチ・振付師として宇野を支えてきた樋口美穂子コーチと抱き合った。フリー202.73点で、合計は306.90点。得点が出た瞬間、その樋口コーチは笑顔を見せながら、きょとんとした表情を見せていた宇野の背中に顔を押しつけて喜びを表していた。

 フリーでは全体的にジャンプの着氷に難があり、今ひとつ精彩を欠いたことで得点が伸び悩んだ。もし、4回転ループが成功し、ジャンプにGOE加点がもう少しついていたら、ジャンプに小さなミスがあった王者・羽生を逆転できていただけに、宇野にとっては惜しまれる。ただ、それは本人もわかっていたが、演技中に技術的な修正ができるほどの領域にはまだ到達していなかったことを痛感したようだ。

「最終滑走は嫌でしたが、全員の演技を見て、全員の点数を見て、自分がどんな演技をしたら、どんな点数でどんな順位にいくのかという計算をしていました(笑)。点数的に考えると、もしノーミスして完璧な演技をしたら1位になるという計算をしていましたけれども、最初の4回転ループを失敗した時点で笑いました!

 もちろん(羽生選手に)勝ちたい気持ちはありましたけれども、あれだけの演技を見た後に、やはり僕もそれ以上の完璧な演技をしなければ上に立つことはできないと思いながら試合に挑みました。ですが、1個目のジャンプを失敗した時点で、もうあとは自分のことを考えようと思いました」

 羽生を追い越すことはできなかったが、SP2位の元世界王者・ハビエル・フェルナンデスには1.66点差をつけて逆転した。66年ぶりの五輪連覇を達成した羽生とのワンツーフィニッシュを飾った宇野は、勝てるチャンスを掴み損ねたものの、満足感が残っているという。

「最初から最後まで自分に負けることなくいい演技だったかな。ただ、練習してきた中での演技としてはあまりよくないほうではあるので、もっといい演技ができるようにして、ジャンプを、ただ跳ぶことだけではなく、加点のつくジャンプを跳ぶことが僕には足りないなと思ったので、今後はそこを頑張りたいなと思いました」

 試合後の宇野はもうすでに次なる課題と目標を見据えていた。そして、その課題を克服したときこそ、宇野は”万年2位”を卒業して、頂点に立つ真の実力者となるに違いない。

「最近ずっと2位だったので、1位になりたいと思うんですけども、ただ1位になりたいという思いだけでは1位になれないので、1位になるにはどうするのかを考えていきたいです」

 五輪という大会に最後まで特別な思いは感じなかったという宇野は、次なる北京五輪に向けても、自分なりの目指すテーマを掲げてスケートに取り組んでいくことになりそうだ。

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