ジェフリー・カッツェンバーグ氏は、Huluの元CEOのジェイソン・カイラー氏やベライゾン(Verizon)でさえ良策を見い出すことができなかった、モバイル動画のプラットフォームや周辺ビジネスの構築に向けて、大きな賭けに出ようとしている。

ドリームワークス・アニメーション(DreamWorks Animation)の前CEOであるカッツェンバーグ氏は、大がかりなプロジェクトである、持ち株会社のWndrCoの売り込みを行うため、2017年からハリウッドで大規模な業界イベントを開催してきた。ライバルのHBOやNetflixに対抗すべく、WndrCoは、ハリウッドのトップクラスの俳優が出演する番組を主体とした短・中編動画コンテンツを配信できるような、グローバルな動画プラットフォームの構築に特に力を注いでいる。

2018年1月24日、まだ正式な名称や商品のないまま、WndrCoが「New TV」と呼ぶ、自社開発のサブスクリプションベースのプラットフォームベンチャーのCEOとして、ヒューレット・パッカード(HP)の前CEOのメグ・ホイットマン氏が任命された。この会社の計画に通じている情報筋によると、ホイットマン氏はそのNew TVのためのベンチャーとしてチームを形成し、商品のローンチに向けて資金調達を行う予定だ。eBay(イーベイ)やヒューレット・パッカード(HP)などの巨大テック系企業でのホイットマン氏の功績が、カッツェンバーグ氏のコンテンツ分野でのバックグラウンドを補い、理想的に機能することが期待されているのではないかと、その情報筋は語る。

カッツェンバーグ氏とホイットマン氏がNew TVにいくら投資するかについては、具体的には明らかになっていないが、カッツェンバーグ氏は2017年、New TVには20億ドル(約2175億円)の投資を検討中だと公式コメントで語っている。テック系ニュースサイト、リコード(Recode)によると、それ以来、WndrCoは5億9500万ドル(約646億4200万円)の資金を調達したが、最近になってカッツェンバーグ氏は、業界の幹部に対しておよそ10億ドル(約1086億円)の資金が必要だと語っているという。だが情報筋によれば、WndrCoの社内では、New TV全体で今後数年間に必要な資金は数十億ドルにのぼると予測されている。

New TVの勝ち筋



エンタメやテック関連の内通者は、短編・中編の動画コンテンツ向けのプレミアムなプラットフォームが実現できるかどうかについて懐疑的な見解を示している。ベライゾンのゴー90(Go90)や、ドリームワークス・アニメーションを率いるジェイソン・キラー氏のベッセル(Vessel)も失敗に終わっている。

複数の情報筋によると、カーツェンバーグ氏の売り込み文句は、これまでの取り組みは規模も小さくうまくいかなかったというもので、彼は、New TVとこれまでのモバイル動画プラットフォームと比べる意味すら感じていないという。カッツェンバーグ氏によると、ゴー90やFacebookのWatch(ウォッチ)、そしてベッセルが作ろうとしていたのは「YouTubeを洗練させたもの」程度のものであり、一方でNew TVの狙いは10分以下の長さのエピソード、しかもゴールデンタイムのテレビ番組級のクオリティの番組を制作することだという。

情報筋によると、New TVのコンテンツ戦略の中心には、こうした「ミニシリーズ」と社内で呼ばれる主力の番組があるという。WndrCoによると、典型的なミニシリーズは全体で120分から240分程度の長さだが、New TVのプラットフォームでの配信にあたって8〜10分のチャプターに分けられるという。また、New TVは1分あたりの制作費が10万ドル〜15万ドル(約1100万円〜1600万円)の番組をターゲットにしているという。金額だけの比較では、昨今のゴー90やFacebookのWatch番組の多くは、1分あたりおよそ2万ドル(約200万円)以下だという(2017年のカンヌ国際映画祭でカッツェンバーグ氏にNew TVへの意気込みを聞いた際に、彼はHBOやNetflixでの1分あたりの制作費は20〜30万ドル[約2200万円〜3300万円]だったことを明かしている)。

「2時間、または1時間という長さの動画にもあったこうした類のリソースを、(カッツェンバーグ氏とNew TVは)ストーリーテリングの新たな形として見せたいと考えているようだ」と、New TVの計画を知る情報筋は語る。

Huluと似たモデル



WndrCoとNew TVへの投資が増えるにつれ、その資金の大部分は、こうしたハイプロファイルな計画のマーケティングに費やされるようになるだろう。そして、それこそがゴー90やベライゾンが欠いていた部分だと情報筋は語る。

必要な資金を集め、このプラットフォームで大規模なメディア企業との協働でも利益を出し、そしてトップクラスのタレントを起用した番組を制作できるということを確かなものとするうえで、カッツェンバーグ氏のこれまでの実績は十分だろう。リコードによると、カッツェンバーグ氏は最近、ディズニー(Disney)やフォックス(Fox)、ビアコム(Viacom)といった巨大メディアもNew TVに投資を行えるような、Huluと似たモデルの売り込みをかけている一方、このプラットフォームで独自のコンテンツを配信する予定もあるという。

業界内では、カーツェンバーグ氏とホイットマン氏が大きなビジネスパートナーを獲得し、最終的にNew TV上で高品質なコンテンツが配信されるのは間違いないだろうと言われている。

情報筋によると、New TVのプロジェクトはどれも公開にはいたっていないが、数十個の検討中のアイデアがあり、2017年以降、脚本化済みの番組や脚本化されていない番組を含め、200名以上の番組制作の総指揮者が目を通しているという。2017年のカンヌ国際映画祭の期間中、カッツェンバーグ氏は、J.J. エイブラムスやロン・ハワードなどの監督だけでなく、そしてジェリー・ブラッカイマーなどの著名な役者と会ったと語っている。

「全員失敗している」



結局のところ、新しい動画プラットフォームで番組をダウンロードしたり購入させたりすることができるかどうかは疑問として残っている。人々は低予算の短編・中編動画はすでにYouTubeやFacebook上で見ることができるし、大規模予算の長編番組を見たければNetflix、Hulu、AmazonやHBOを利用すればよいのだ。この2つをあいだを埋めるような商品の市場は果たしてあるだろうか?

情報筋によると、カーツェンバーグ氏には、毎日のように短編動画をたくさん見ている人々の興味を惹きつけることができるという確信がある。その主張の根拠は、ほかにも音楽を無料で簡単に手に入れられる手段があるにも関わらず、Spotify(スポティファイ)に金銭を支払う人がいるならば、同じように短編動画向けの市場を開拓することができるはずだ(もちろん、適切に進める必要はあるが)というところにある。

「市場があるかどうかは分からない。ここに挑戦した者は全員失敗している」と、ハリウッドのエージェントのひとりは語る。「(ゴー90やベッセルなどは)必要十分な投資をしていなかっただけだという反論もあるだろう。また、これこそがWndrCoとNew TVが資金調達に時間がかかっている原因かもしれない。相当な金額が必要になるのは明らかだ」。

2017年、ハイエンドの短編動画番組の市場は干上がっていた。Spotifyやコムキャスト(Comcast)のウオッチャブル(Watchable)などのプラットフォームは、独自のデジタル番組への投資、または運営自体を完全に停止しており、ゴー90は自身のコンテンツ戦略を再考中だ。Facebookは、Watch向けの初期投資で莫大な数の短編動画を買い取ったが、現在はYouTube同様に、テレビ番組と同等の金額の長編動画に注力している。

「あのカッツェンバーグだ」



情報筋によると、New TVの番組の核となるのは大規模予算の作品になる見込みだが、カッツェンバーグ氏は、モバイルアプリを運用していくうえで必要な、音楽・ニュース・ライフスタイルやエンタメの分野の小規模なエピソード単位の作品を排除しようとはしていない。このことで、消費者向けの短編・中編動画プラットフォームを構築しようとしている企業に辟易するデジタルコンテンツのプロデューサーが出てくるとしても、販売先を探しているデジタル動画の制作元にとっては、New TVが大きな希望となる可能性がある。

「こうした鳴り物入りのサービスが現れては消えていく様子を、嫌というほど見てきた」と、あるベテランのデジタルプロデューサーは語る。「カッツェンバーグ氏は非常に有能な人物だが、それでも、同じようにすぐに消えてしまうのではという不安を拭うことはできない」。

一方、WndrCoはすでにデジタルメディアクリエイターとの協働に関心を示しており、クリーク(Clique)やヤング・タークス・ネットワーク(Young Turks Network)、ホイッスルスポーツ(Whistle Sports)などのデジタルメディア会社に少額ながら投資を行なっている。

「あのジェフリー・カッツェンバーグだ」と、WndrCoから投資を受けた会社の幹部は語った。「『この人の逆に賭けることなどありえない』人物のひとりだ」。

Sahil Patel(原文 / 訳:Conyac)