音を使って物体を浮遊させる「Acoustic tractor beam(音響トラクタービーム)」の研究で、浮遊させられるサイズの限界を取り払う成果が上がっています。これによって、人間を浮遊させられる可能性が出てきています。

Phys. Rev. Lett. 120, 044301 (2018) - Acoustic Virtual Vortices with Tunable Orbital Angular Momentum for Trapping of Mie Particles

https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.120.044301

The world's most powerful acoustic tractor beam could pave the way for levitating humans

https://phys.org/news/2018-01-world-powerful-acoustic-tractor-pave.html

物を浮かせる技術としては磁気浮上が知られていますが、磁性を帯びた物にしか使えないというデメリットがあります。これに対して音を使う音響トラクタービームであれば、磁性の有無を問わず、固体だけでなく液体にも使えるという多いなメリットが挙げられます。しかし音響トラックビームによって小さな物体を浮遊させること自体はこれまでにも実現されていましたが、うまく制御できるのは小さな物体に限られていました。

音の渦で物体を包み込んで空中で姿勢を制御する様子は、以下のムービーで確認できます。

Video 1 - YouTube

ブリストル大学のAsier Marzo博士の研究チームは、音波の渦を制御することで空中の物体を保持することに成功しました。音響の渦を急激に変化させることで回転速度を制御してトラクタービームを安定させることが可能だとのこと。



大きな物体を浮遊させることに成功する様子は、以下のムービーで確認できます。

Acoustic Virtual Vortices with Tunable Orbital Angular Momentum for Trapping of Mie Particles - YouTube

音の渦で物体を包み込んで浮遊させられる音響トラクタービーム



しかし、物体が大きくなると、天体が軌道を回り始めるかのような動きが大きくなるため……



1mm程度の小さな物体しか、うまく制御できませんでした。



新たに開発されたのは、放射状に配置された音響スピーカーを制御する技術。



物体の動きの角速度をコントロールできます。



約1cmの発泡スチロール製の球を40kHzで浮遊させることに成功しています。



しっかりホールドしているので、スピーカーの器を動かしても球は動きません。



従来よりもはるかに大きな物体を空中で制御することに成功したことで、体内に小さな薬のカプセルを運んだり、極小サイズの手術器具を正確に操作したりといった応用が検討されているとのこと。Marzo博士は、「音響トラクタービームの研究者は、これまで何年もの間、サイズの限界に悩まされていました。それを克服する方法を見つけられたことに満足しています。将来、音響のパワーが増えれば、例えば人間のようなより大きな物体を保持できるようになります」と述べています。仮に人間を安全に浮かせて移動させられれば、介護の現場などで極めて有用な技術になりそうです。