#MeToo ハッシュタグのムーブメントはビジネスの世界全体で大きな波紋を呼び、職場での振る舞いが見直されるきっかけとなった。広告業界でも、ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)のグスターボ・マルチネス氏、マーティン・エージェンシー(The Martin Agency)のジョー・アレクザンダー氏、そしてつい最近ではVice Mediaにおけるキャロット・クリエイティブ(Carrot Creative)のマイク・ゲルマノ氏、そしてドローガ5(Droga5)のテッド・ローヤー氏といった大物も会社を去っており、社内恋愛に対する会社の指針が変化を見せはじめている。

米DIGIDAYは、23名のエージェンシーや人材リソースのコンサルタント、マーケターなどから話を聞いた。この繊細なトピックの性質上、何名かは匿名を条件に、現在の、またはこれまでの社内恋愛の指針について語ってくれた。その指針を実施するべきかどうか、またこれまでにセクシャルハラスメントの実態があったかどうかについて、米DIGYDAYが話を聞いた11社のアドエージェンシーの回答はさまざまだった。そのうちの5社では社内恋愛についての指針がある、または再検討中であり、残りの6社のエージェンシーは、そうした指針があったことは、いままでに一度もなく、その効果も疑わしいと回答している。

各社における取り組み



「社内恋愛の指針自体は新しいことではないが、昨今話題になっている職場でのセクハラ問題に伴い、新たな議論がはじまっている。そうした指針の必要性や、既存の指針の見直しについて検討をはじめているアドエージェンシーもいる」と、人材ソフトウェアのプラットフォームであり、企業の人材戦略のコンサルティングを行うネームリー(Namely)でディレクターを務めるアニック・ミラー氏は語る。

「私たちも社内恋愛に関する指針を追加することを検討してきた」と、独立系のアドエージェンシーの人材部門のディレクター(匿名を希望)は語る。「社内恋愛で大きな問題があるわけではないが、セクハラ問題に晒されるような事態になった場合に、私たち自身を守るためにできることはすべてやっておきたい」。

社内恋愛に関する指針がある別の独立系のエージェンシーは、その指針をセクハラに関する指針と合わせようとしている。

たとえば、2017年12月、ある人材ディレクターがセクハラに関する条項を追加するため社内恋愛の指針を変更したという。現在の指針には、「セクシャルハラスメントの指針の施行の妨げとなる可能性があるため、いかなる場合も、上司は部下と恋愛関係にあってはならない」と書かれているという。

別のエージェンシーは、社内恋愛に関する指針はそのまま残しているが、セクハラに関する指針は変更しようとしているという。ジュン・グループ(The Jun Group)では社員規則を改定し、セクハラとは何か、についての具体例を加えている(その具体例の内容については語ってはもらえなかったが)。

アドエージェンシーの職場環境は、社内恋愛が生まれることを促しているようにも見える。社員は小さなチームで長時間ともに仕事をし、アルコールがふるまわれるパーティに数多く参加しているのだ。多くの場合は健全な関係が生まれるが、ときにはこうした環境によって、あるエージェンシーの若手社員が「セスプール」と呼ぶ関係を生むこともある。この人物によると、なかには数名の同僚と付き合っている社員がいて、誰もがそれに気づいているということもあったという。また別のエージェンシンーの社員は、社内恋愛はドラマを生み、仕事の妨げになると語る。

上司と部下の恋愛関係



社内恋愛は仕事に支障が出ない限りOK、としているエージェンシーが多いなか、その対極には、社内恋愛を禁止する「交際禁止令」なる指針もあるという。

一番よくある心配の種は、上司と部下の恋愛関係だ。オムニコム(Omnicom)傘下のエージェンシーのBBDO、DDB、TBWAでは、業務上の上下関係がない場合に限り、社内恋愛が認められているというのも頷ける。

インターパブリック・グループ(Interpublic Group: 以下IPB)のスポークスマンによると、IPB傘下のマーティン・エージェンシー(The Martin Agency)、R/GA、マキャン(MacCann)などのエージェンシーでは、すべての社員は行動規範を守らなければならず、もし片方の当事者がもう片方の当事者に対して業務上の権限を有していながら恋愛関係にあることを報告しなかった場合、「懲戒処分」を受けることもあるという。このスポークスマンによると、この指針は「間違いなく」セクハラ問題に対する意識が関係しているという。

指針を設けない企業も



指針があるかどうかに関係なく、上司と部下の恋愛関係が生まれるのを避けることは難しい。ほとんどの持株会社で、傘下のエージェンシーにまでおよぶ社内恋愛の指針がある一方で、今回米DIGIDAYが話を聞いた独立系のエージェンシー8社のうち、6社がそうした指針はまったくないという。ロサンゼルスの独立系エージェンシーのデイリー(Dailey)では、「プロらしい、生産性のある振る舞いが求められている」と、デイリーの人材部門のディレクターでもあるシニア・バイスプレジデントのハイジ・ウィリアムズ氏は語る。

独立系のエージェンシー、RPAでも状況は同じだと、バイスプレジデントであり人材部門のディレクターでもあるローラ・スモール氏は語る。「社員は非常に長い間、とても密に仕事をしているので、交際に発展することも多い。個人的な関係は広告やコミュニケーションの一部だ」。スモール氏も、上司と部下の恋愛関係は「複雑な関係になりやすい」ことを認識してはいるが、指針を設けることは解決策にはならないという。

この考え方を裏付けるデータがある。キャリアビルダー(CareerBuilder)が2018年2月初旬に報告した年次のアンケートによると、複数の業界に渡って809名のうち、22%が上司と付き合ったことがあり、2017年の15%から上昇している。また41%が社内での恋愛関係を秘密にしていたという。

社内恋愛に関する指針が持株会者のエージェンシーで効果を発揮するかどうかは疑わしい。

指針を強いるのは難しい



「持ち株会社は、誰かが訴えていることをメディアが嗅ぎつけた瞬間に、こうした会社の指針を引っ張り出してくる」と、BBHの元チェアマンであり、メイク・ラブ・ノット・ポルノ(MakeLoveNotPorn)の創設者、そして男女の平等を支持するシンディ・ギャロップ氏は語る。「こうした指針は、自らの保身のために使われているにすぎない」。

社員は、社内恋愛に関する指針が存在していることに気づいてすらいないこともある。今回話を聞いた8名のエージェンシーの社員のうち6名が、そうした指針があるかどうかを人材部門のディレクターに確認する必要があったという。有名なエージェンシーのアカウントマネージャーによると、エージェンシー内で社内恋愛に関する指針を強いるのは難しいという。「誰もが、エージェンシーの世界は魅力的な若者に溢れていて、『なんでもアリ』な場所だと信じたがっている」と、その人物は語る。

「エージェンシーに必要なことは、そのエージェンシーの文化の一部として指針がしっかりと根付き、明確に伝えられることだ」と、ギャロップ氏は語る。

社内認知を広げる努力



スモール氏もそれには同意しており、エージェンシーは社内規定を書き上げるのではなく、そのメッセージを全社員に伝えるために努力する必要があると語る。バーバリアン(Barbarian)エージェンシーでは、社内恋愛の指針が全社員に知れ渡っているだけではなく、半年ごとに弁護士が来社して職場でのセクハラについての話や、いかに上司が部下と付き合うべきではないかを語っているという。

2018年2月5日の月曜日、RPAではセクハラに関わる社員向けの研修会が開かれ、社内恋愛における最良の実践法についての講義が行われた。「これは会社の指針とは関係ない」と、スモール氏は語る。「これは自分自身の振る舞い方であり、教育なのだ」。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:Conyac)