東京都内の居抜き飲食店の買取りに的を絞った「店舗買取り.com」と、出店を計画しているテナント向けの「居抜き店舗.com」を運営するテンポイノベーションの原康雄代表取締役(写真:Signifiant)

中食・内食志向の高まりもあって、今まで以上に競争環境が熾烈になっている飲食業界。東京都内を中心に店舗の出店・撤退が繰り返されていますが、こうした動きをビジネスチャンスとして捉えるのがテンポイノベーションです。


当記事はシニフィアンスタイル(Signifiant Style)の提供記事です

不動産オーナーから賃借した店舗物件を飲食店テナントに転貸するという事業を展開し、不動産仲介業やプロパティマネジメント(不動産管理業)とは一線を画した事業を展開します。

建物を一括借り上げするサブリース事業とも異なり、この事業に特化したオンリーワンの存在です。2017年10月に上場した同社の強みと今後の可能性について、原康雄代表取締役から話を伺いました。事業の詳細については、「成長性に関する説明資料」をご参照ください。

2005年4月設立のテンポイノベーションは、東京都内の居抜き飲食店の買取りに的を絞った「店舗買取り.com」と、出店を計画しているテナント向けの「居抜き店舗.com」を運営。これらのサイトを通じて集めた情報をもとに、不動産オーナーに転貸を前提とした賃貸契約を提案。2017年12月末の時点で保有賃貸物件数は1181社、登録出店希望者数は48018社に上り、2016年度の年間成約実績数は307店舗に。2016年度(2017年3月期)売上高約58億円、営業利益約3億円。証券コードは3484。

「牛角」の内装施工を手掛ける子会社として発足

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):御社はオーナーが何度か交代する中で、しだいに現在のビジネスモデルを確立されていったと伺っていますが、簡単に経緯についてご説明いただけますか?

原康雄(テンポイノベーション代表取締役。以下、原):もともとテンポイノベーションは外食チェーンのフランチャイザーであるレインズインターナショナルの子会社として設立され、牛角の内装施工を手掛けていたので、当時の社名はテンポリノベーションでした。

各事業部を積極的に分社化していくというのがその頃のレインズインターナショナルの方針だったのです。また、コンビニのam/pmや高級スーパーの成城石井を傘下に収めるなど、M&Aによる多角展開にも積極的でした(注:am/pmは後にファミリーマートが子会社化。現在、成城石井はローソンの傘下に)。

村上:レインズインターナショナルは御社を設立した直後にレックス・ホールディングスに社名変更し、やがてMBO(経営陣による買収)に伴って非上場しましたね。2011年には同じく外食のコロワイドの傘下に入って、再びレインズインターナショナルに社名を戻しています。当時の同社を取り巻く環境変化はいろいろと大変だったように記憶しております。

:生々しい話ばかりで、とても記事に書けるような話ではありませんよ(笑)。私はレインズ出身ではなく、テンポリノベーションの設立直後の2005年11月に転職してきた人間です。

村上:では、なぜテンポリノベーションに転職したのですか?

:テンポリノベーションは設立初年度から35名程度の社員でレインズ傘下の「牛角」の内装を手がけ、35億円の売り上げを稼いでいました。当時の経営者は牛角の内装だけに依存していることに少なからず危機感を抱き、グループ外の案件を開拓し始めていたのですが、外食出身の社員ばかりで営業のノウハウがありませんでした。そこで、幹部候補の営業担当者を募集し、たまたまその求人広告を目にした私が採用された次第です。「幹部候補」というのが私が目を付けたポイントでした。

村上:その頃から、現在のビジネスモデルに近い形だったのでしょうか。


原康雄(はら やすお)/2005年11月にテンポイノベーションの前身に入社。2008年5月に同社取締役営業部長となり、現在のビジネスの原型となる事業の立ち上げを指揮。2011年6月に代表取締役に就任して現在に至る(写真:Signifiant)

:いえいえ。まだビジネスモデルは確立されておらず、当初は資産リースの形態でした。店舗物件はスケルトン(内装設備がない状態)で借りてスケルトンに戻して返すというのが常識の時代だったので、当社が飲食店の内装費を立て替え、家賃とは別にリース料を頂戴するという出店支援ビジネスです。年間220件程度の契約獲得を計画していたのですが、資金を立て替えるので1件当たり最低でも1000万円前後の持ち出しが発生します。つまり、22億円の資金が手元に必要となるわけですが、実はそのアテなんてなかった。それに、資産リースは金融系のビジネスですから、シロウトが手を出してそう簡単にうまくいくものではありません。当時のレックス・ホールディングスは威勢がよかったものの、勢いだけで突っ走って、細かい戦略が練られていなかったのです。

村上:店舗数や業態の拡大も急ピッチでしたからね。

:その矢先にレックス・ホールディングス本体の経営が傾き始め、財務体質は悪化の一途をたどりました。そこで、MBO(経営陣による買収)によって立て直しを図ろうとしたわけですが、そのタイミングでファンドの資金が入り、不採算部門の整理(売却)を求められました。私としては、まさに神風が吹いたと思いましたね。

むしろ、売却されたことが好都合だった!?

村上:つまり、レックス・ホールディングスから切り離されたほうがよかったと?

:レックス・ホールディングスの傘下に入っているかぎり、私たちのビジネスはなかなか発展していかないと思っていたからです。なぜなら、たとえば牛角と競合する他社の焼き肉店には営業を展開できないといった具合に、あれやこれやと制約が多すぎたからです。しかも、レックス・ホールディングスにとってはメインのビジネスではないだけに、なかなか決裁が下りなくてお金も使えない。

村上:大手企業の傘下ならではの典型的な悩みですね。

:そんな中、実は、とあるIT関連企業が買収に関心を示したのですが、メインのビジネスで非常に強い存在感を示しているところだったので、その傘下に入っても環境にあまり変化はなさそうでした。だから、「もしもその会社に売るなら、私を含めた全社員が辞める」と言って断固反対し、自分たちで売却先を探すことにしたのです。

村上:それで、今のオーナーを見つけてきたということですか?

:いいえ。まだその手前の話です。全部で3回の奇跡が起きていますから(笑)。最初に身を置こうと決めたのはテレウェイヴ(現アイフラッグ)という会社です。私たちと同じようなビジネスを手掛けている事業部をもっていたので、それと合体させればマンパワーも増えると思いました。

村上:ようやく事業の成長の制約から解放されるオーナーを見つけてこられたのですね。それで順風満帆とならず、次の奇跡が必要になったのはなぜでしょう?

:ところが、テレウェイヴも経営上の不祥事が発覚したうえに業績不振に陥り、またしても子会社を売却するという話になったのです。なので、やはり自分たちで次の売却先を探すことにしました。

村上:短期間で2度目の売却、それを親会社ではなく子会社自身で探してくるとは、なかなかない事例ですね。ちなみに、原さんはまだ代表取締役に就任される前のことですよね?

:まだ営業担当部長のままです(笑)。私はこの会社に入ったときから、会社の大きな資本を動かして大きなビジネスをやりたいと思っていました。言わば、「おカネのリスクを背負っていない創業者」のような感覚で取り組んできたわけです。

村上:だから転職の際に「幹部候補」に拘られていたのですね。結果、売却先はどのように見つけられたのでしょう?

「迷走」の時期

:実際に当社の3代目代表取締役を務めていたのは当時のテレウェイヴの役員の1人で、たまたま彼が現在のオーナー企業であるクロップスを探し出してきました。そして、クロップス代表取締役会長の前田さんに私たちのことを気に入っていただいて、わずか1カ月で話がまとまり、売却額も前回よりも高額になりました。

村上:それが2009年7月のことですね。前年には金融危機があり、マクロ経済的には厳しい状況下にもかかわらず、よく良い条件で売却がまとまりましたね。その逆境下でもビジネスが拡大していたということなのでしょうか?

:いや、まったく拡大していませんでした(笑)。M&Aの度に社員も辞めていって、当初は35名だったのが一時は6名にまで減り、クロップスに移ったときも10人前後しかいませんでしたから、売却できたのは奇跡ですね。当社の「成長可能性に関する説明資料」では「迷走」と表現されている時期ですが、本音を言えば、自分たちとしては度重なる親会社の変更も含め、おおむね計画どおりの展開になってくれました。まあ、会社の継続のためになりふり構わず動いていた時期だったことは確かですが。想定外だったことは、強いて言えば、ここまで来るのに13年もかかったことですかね。しかしそれは、自分で身銭を投じて創業したわけではないのでやむをえません。


テンポイノベーション「成長可能性に関する説明資料」より

村上:原さん主導の現経営体制が本格的に始動した2011年7月から、居抜き物件転貸という現在の事業に一本化するわけですね。このフェーズは、「成長可能性に関する説明資料」で「第2の創業」と位置づけられています。

:実は、前任者が任期満了で辞めた後、クロップスの前田さんに呼ばれて社長就任の要請を受けました。でも、「人望があって聡明な志村(現常務)が社長になったほうがいい」と私は返答しました。純粋に、そのほうが会社としてうまく機能すると考えたからです。すると、前田さんから「社長を務める自信がないのか?」と聞き返されました。その言葉が私の中のスイッチを押しましたね。「自信がないわけがないでしょ!」と。こうしてトップに立つ決心がついた途端、自分の中で霧が晴れたようにパラダイム転換が起きました。会社とは、社長がビジョンと理念を示さなければ前進しないものです。就任を決めてから1時間後には、サービス業ではなく不動産業こそ当社がめざしていることだという方針が私の中で明確になり、店舗転貸事業へと大きく舵を切っていきました。

アパマンのサブリースとは似て非なるビジネス

村上:原さんは代表取締役就任を引き受けたわずか1時間後には、東京周辺での居抜き店舗物件転貸に事業を一本化することを決意したとのことですが、そこに至るまでにはどのような思考の積み重ねがあったのでしょうか?

:この会社に入ってから代表取締役になるまでの約5年半で、とにかく考えられることはすべてやり尽くしたという自負がありました。そのうえで選択と集中を行うとすれば、東京周辺の居抜き店舗物件の転売に的を絞るのが一番だという結論しか出ませんでした。

村上:いろいろ試行錯誤したことで感覚が研ぎ澄まされていったわけですね。では、決断した後にはもう選択の変更ということは一度もなかったということですか?

:一度もありません。ただ、「何のために私たちが存在しているのか」という理念と、「そのために何をやるのか」というビジョンを社内でしっかりと共有することに3年程度の歳月を必要としました。つまり、社内で人を育てるのにそれだけの時間がかかったということです。

村上:非常にユニークで、他に例を見ないビジネスモデルだと思いますが、御社以外にも同じような事業を展開している会社はあるのでしょうか?

:存在するかしないかで言えば、山ほど存在しています。いわゆる又貸し屋がもっと小さな規模で転貸を営んでいます。また、サブリースの手法にも似ていると言われます。しかし、そもそもサブリースがアパートやマンションといった住宅に用いられるスキームであるのに対し、私たちは店舗に特化しています。それに、契約形態は同じでも、物件を貸す側の安心感はまったく異なってきます。私たちが個別に複数のオーナーと賃貸契約を結んでいるのに対し、サブリースの場合は建物単位の一括借り上げです。一括借り上げだと、不動産オーナーは個々にどういった人に貸しているのかを知る由がありません。その点、当社の場合は個別の契約ですべての案件においてオーナーから承諾を得ていますから、どんな人が入居してどういった商売を営んでいるのかをきちんと把握できるのです。

村上:そうすると、貸す側にとっては大きな安心感につながりますね。特に飲食店に貸す場合は、不安材料が多い分、それは大きな強みになりますね。そして、「店を出したいが、いい物件がなかなか見つからない」という人たちもたくさんいますから、御社が窓口になることでそういった借りる側のニーズにも広く応えられるわけですね。

:実際に街の不動産屋を回ってみればわかることですが、「○○屋をやりたいから居抜きの物件を紹介してほしい」と頼んで1年間にわたって通い続けたとしても、まず見つかるものではありません。しかし、当社なら毎月20〜30件のペースで契約していて、つねに新規の情報が豊富に入ってくるのです。

着実に利益が積み上がるストック型の収益構造

村上:ストック型の収益構造で売り上げと経常利益も順調に拡大しているようですが、その一方で売上の75%程度を物件調達コストが占めていますね。どういったかたちでマージンコントロールを行っているのでしょうか?


テンポイノベーション「成長可能性に関する説明資料」より

:住宅と比べて店舗物件は相場の形成がブラックボックス化していて、目の前で提示されている価格が適正かどうかを判断しづらいのが実情です。しかし、私たちは13年間、このビジネスにひたすら取り組んできており、5万件、6万件といった規模のデータベースを蓄積しています。だからこそ、物件調達時に適正価格を見極めることができます。これが結果として物件調達コストのマージンを一定に保つ経営につながっています。これがわれわれ独自の強みですね。店舗の転貸しかやっていない会社は、日本中を見渡しても当社しかありませんから。

村上:希望の物件が見つかりやすく、価格の適正性が担保されるなら、借りる側は自然と御社を選ぶようになり、貸す側も御社に任せるのが一番だと考えるような流れになりそうですね。

:まだまだ当社は無名で、そのような流れにまでは至っていません。当社の契約物件数1029件に対し、ターゲットとしている一都三県の飲食店舗数は約16万件に達しているとの調査データもあります。つまり、私たちはまだ0.6%しか開拓していないわけです。

村上:0.6%をもっと拡大させていくためには、何が求められているとお考えですか?

:たかだか30人程度で展開しているので、リーチが足りていません。せめて100人規模までは営業体制を拡大させて月々50件、年間で600件といったペースで新規契約を獲得していく必要があります。

村上:「新株式並びに株式売出届出目論見書」では大手不動産会社の参入をリスクの1つに挙げていましたが、実際に競合することになった場合はどの程度の脅威を感じますか?

:本音を言えば、まったく脅威には感じませんね。たとえば、飲食店がひしめくモンスタータウンの東京新橋でどこの不動産屋が最も豊富に情報を持っているのかについて、しっかりと把握している大手は存在するでしょうか? このビジネスには、相応の仕入れノウハウが求められるのです。

村上:なるほど、大規模物件とはノウハウは違いますし、資本力にものを言わせるだけではうまくいかないということですね。

:そのとおりです。

村上:物件を借りて転貸するという御社のビジネスの場合、借りたい人がたくさん存在している環境下においては確かにリカーリング(繰延収益)が発生しやすいですね。しかし、マーケットがクラッシュするなどして新規店舗の出店が滞った場合には、なかなか転貸先を見つけられず、ある種の逆ザヤが発生するというリスクが生じるのではないでしょうか?

:理屈のうえではありうる話ですが、現実にはありえません。なぜなら、借り手がいなければ賃貸契約を解約すればいいだけのことだからです。しかも、私たちが貸し出す際の契約期間や保証金額などの条件面は、そういった事態をあらかじめ想定した設定になっています。

村上:なるほど期間などで逆ザヤリスクをコントロールされているのですね。事業自体はマクロ要因の影響を受けやすいでしょうから、このあたりの財務的なリスクコントロールがうまくされているのは、拡大戦略を推進するうえで非常に大きいですね。

:そのとおりですね(笑)

自社開発を手掛けることも視野に入れている

村上:お話を伺っていて、御社のビジネスは成長の余地が非常に大きいということを痛感しました。さらに先を展望すれば、自社で土地を取得して開発まで手掛けることも視野に入れていらっしゃいます。事業ノウハウやリスクが大きく異なりますが、これはどこまで本気なのですか?

:私個人としては、めちゃくちゃ本気ですよ。

村上:しかし、そうなるとせっかくバランスシートをうまく活用し、効率的な事業モデルを組んでこられたのに、一気に所謂不動産事業者のように、バランシートのリスクを大きく抱えるアセットヘビーな経営に変わっていってしまわないでしょうか?

:実際に自社開発に取り組んだとしても、すぐに転売することが大前提です。建物所有者になるつもりはありません。なおかつ、私たちはその物件を賃貸して転貸するので、ずっと収益を得ることが可能です。

村上:そういった自社開発まで手掛けるようになれば、御社の評判がさらに上がって、プッシュ型からプル型の営業にシフトしていく可能性も出てきそうですね。ただ、そのステージに向かううえでは、今まで以上に幅広い人材の採用とその教育がボトルネックとなってきませんか?

:人材については、新卒から育てていくことが前提となっていきますね。やはり、社内のみんなが同じ志でビジネスを進めていくことが肝心だと思います。計画どおりに事が運べば5年後には100名体制も整っているはすですし、年間1000件という受注目標も視界に入ってくるでしょう。

村上:着実にフローが生じるビジネスですし、少なくとも資金調達という側面ではIPOの必要性がなかったようにも思われますが、その点はいかがでしょうか?

:確かにご指摘のとおりですが、私たちとしては当社の知名度をもっと高めたかった。そして「私たちはこんなにすごいビジネスをやっています」ということを、より多くの人々に伝えたいのです。個人的にも、当社のビジネスのことを説明して理解していただくことが楽しくてたまりません。

村上:本日はありがとうございました。今日お話しさせて頂いただけでも、原社長がご自身のビジョンを伝えることに情熱をお持ちだということが伝わってきました。また、入社当初から経営者マインドで、かつ長期的な計画をもって行動されているというお話、大変感銘を受けました。原社長の計画が実現するのを楽しみにしております。

(ライター:大西洋平)