つらい生理痛は、月経困難症という病気のサインかもしれない(写真:mits/PIXTA)

女性が輝く社会、女性の登用を、という政策目標はすばらしいが、注目が集まるのは女性管理職の数や役員登用などトップレベルの話ばかり。女性の就労人口が正規・非正規合わせて2445万人(2016年総務省統計局調べ、男女合計5372万人)と前年比57万人増、2006年比250万人増となる中で、女性のライフスタイル、働き方は大きく変化している。

女性が長期にわたって健康に働くことのできる環境は十分に整っているといえるだろうか。

女子休暇は職場の迷惑?

大手企業であれば産休、育児休業、原職復帰と、女性が働きやすい制度はおおむね整っている。だが、こういった特別なシーン以外の、働く女性の日常的な健康問題は軽視されがちだ。

企業の福利厚生の1つ、女子休暇(生理休暇)の制度は母性保護を目的として労働基準法に定められているが、現実には男性上司に対して申請しづらい、会社によっては医師の診断書が必要、忙しいときに迷惑をかけるのではないか、などを理由になかなか取得しづらい実情がある。

女性の多い職場であっても「月経は病気ではない」という固定観念があったり、女性の上司から「その程度のこと、自分たちは我慢してきた」などと言われたりして、かえって休みにくいケースもある。結局、市販の鎮痛剤でだましだまし働いている女性は多い。

だが、日常生活に支障を来すほどの症状があるなら、月経困難症というれっきとした病気だ。日本子宮内膜症啓発会議(JECIE)によると、日本には800万人以上の月経困難症患者がいると推定されているが、医療機関で治療を受けているのはたった10%という。

年齢を重ねるとともに増えてくる月経困難症は、働く女性にとって大きな問題だ。単にそのときにつらいというだけでなく、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などの病気が隠れているかもしれないからだ。

特に子宮内膜症は、月経困難症に悩む人の半数近くが罹患(りかん)しているともいわれる疾患。卵巣に発症すると、チョコレート嚢胞(のうほう)と呼ばれる腫れができる。チョコレート嚢胞の患者は卵巣がんに至るリスクが一般に比べて非常に高く、一説には8倍というデータもあるほどだ。

「子宮内膜症が進行して、チョコレート嚢胞が大きくなり、おなかが癒着でガチガチの状態になってからやっと病院に来る。そうなってからでは薬が効きにくく、手術も非常に大変になる」と東京大学産婦人科学講座の甲賀かをり准教授は警告する。

重大疾患のリスクが高い30代


東京大学の甲賀かをり准教授は、25歳になったら産婦人科で検診を受けることを勧める(撮影:今井康一)

痛みが改善せず、子どもを授かりにくくなることも多い。子宮内膜症の発症が増える30代は、妊娠・出産、子育てに忙しいうえ、キャリア形成の点でも重要な時期で、自分の健康は後回しになりがちだ。このため、治療が十分に行えず中途半端になるケースも多いという。

月経困難症は子宮内膜症の予備軍ともいえ、この段階のうちに治療することが肝心だ。昔は治療法の選択肢が少ないうえ治療薬による副作用も多く、病院に行っても仕方がないと考える女性が多かった。だが、現在では治療薬の種類も増え、患者に適した薬が処方される。

もう1つ、あまり知られていないが、子宮頸がんも30代に発症ピークを迎える、働く女性を襲う深刻な病気だ。

子宮頸がんの原因であるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を防ぐワクチンはあるが、現在の働く女性でワクチン接種済みの人はほとんどいない。

この病気の怖いところは、早期発見で手術しても流産や早産をしやすくなること、進行がんの場合は子宮と周辺の臓器を摘出することも多く、妊娠・出産をあきらめざるをえなくなるだけでなく生活の質も低下することだ。また、手術後もがん治療は続くため、子育てと仕事と治療の同時並行で、体力的にも精神的にもたいへんな負担になる。負担に耐えられず離職する人も多い。

「ワクチンで感染は防げる。接種が先行している海外では、ワクチンで前がん病変が大きく減ることがわかっている」と日本産科婦人科学会の藤井知行理事長は説明する。

検診との併用も重要だが、検診はあくまで早期発見のために行うもので、予防という観点からは十分ではない。そうはいってもワクチン定期接種の推奨年齢は12〜16歳。遅くとも25歳くらいまでには打っておくほうがいい。多くの働く女性にとって次善の策は、きちんと検診を受けておくことだろう。

ただ、若い女性にとって産婦人科受診の心理的ハードルは高い。妊娠して初めて産婦人科を訪れるくらいで、子宮頸がんの検診でさえ受診率は40%程度と低く、20〜30代はもっと低い。

健康診断に婦人科系の問診項目がない

そこで甲賀准教授は、産婦人科の「かかりつけ医」を持って定期的に検査を受けることを提案している。

まず25歳になったら何もなくても一度行ってみる。次に子宮内膜症を発症しやすい年齢、30歳、35歳。40歳は子宮筋腫を発症しやすい年齢だ。定期的に検査することで時系列での変化を追え、いつ発症したかわからない状態を防ぎ、大ごとにならないうちに対処しやすくなる。「もしその年齢で行きそびれても、ブライダル検診など、何かきっかけを作って来てほしい」(甲賀准教授)。

最近では産婦人科という名称を変えてハードルを下げようという努力も始まっている。東大医学部附属病院や日本医科大学付属病院などでは近年、女性診療科・産科と名称が変更されているし、開業医ではレディスクリニックという名称も一般的になっている。不安があるなら、日本子宮内膜症啓発会議のウェブサイトのセルフチェックをやってみる。1つでも引っ掛かったら迷わず診察を受けるべきだ。

甲賀准教授は「女性の勤労者が増えているにもかかわらず、労働安全衛生法に基づく健康診断に、婦人科系の問診項目が1つもない。問診があること自体が啓発になり、不調なら病院に行ってみようという動機づけにもなる」と指摘する。

「多くの産業医は、生活習慣病や精神疾患などには関心を持っているが、婦人科の病気には理解が少ないのではないか。今の時代、女性の健康への無関心は労働力の損失につながる。重症化しないうちに治療できれば医療経済的にもプラスとなるはず」(同)。そろそろ、行政や企業も意識を変えるべき時期に来ている。