「Thinkstock」より

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 ポテトチップス系菓子の市場で圧倒的なシェアを誇っているカルビーが、2018年3月期第3四半期(17年10月―12月)決算で不調の兆しを見せた。“プロ経営者”と呼ばれる松本晃会長兼CEO(最高経営責任者)が09年に着任して以来の快進撃にブレーキがかかったのか。松本会長が社内で呼びかけてきたといわれる「買って 作って 売る」という標語の3分野を検証すると、成長出口は海外にしかないようにみえる。

●松本会長就任以来の業績ブレーキ

 カルビーが2月1日に発表した同第3四半期累計(4―12月)の売上高は1,867億円(対前年同期比1.2%減)と微減だったが、営業利益は191億円(同13.7%減)と悪化した。対売上高営業利益率は10.2%となっている。同社は18年3月期通期の予想を売上高2,560億円(対前年比1.4%増)、営業利益275億円(同4.7%減)と今回は据え置いたが、昨年10月に一度下方修正している。

 松本会長がカルビーに着任したのが09年。ジョンソン・エンド・ジョンソンの社長、顧問を歴任したいわゆるプロ経営者として招聘された。以来、カルビーの業績はすばらしかった。09年のグループ連結売上高は1,373億円だったが、直近の17年3月期は同2,524億円だった。8年もの間、毎年平均して9.0%の成長を持続してきたことになる。多くの経営者ができることではない。

 営業利益の回復はさらに顕著だ。09年の対売上高営業利益率はほぼゼロだったのが、翌10年には早くも6%を超え、17年には11.4%と高い数値を実現した。17年度までの快進撃に比べ、18年3月期決算予想は松本カルビーにとって初めての足踏みの時期が来たことを示している。

●「買って 作って 売る」に何が起きた

 松本会長が就任以来掲げた経営哲学でもある社内号令が「買って 作って 売る」というシンプルなものだった。カルビーの主要製品、ポテトチップスの原料であるポテトは北海道で買い付けている。それをうまくやろう、そして鮮度を保つよう早く作ろう、小売の棚取り・面取りをしっかりやってたくさん売ろう、ということだった。

 この号令一下、業績の回復と成長は前述した通りだが、マーケット・シェア的にもカルビーの存在感は突出した。ポテトチップス市場(売上規模1,102億円、15年)における各社のシェアはカルビー71%、湖池屋22%、他7%とカルビーが圧倒的に強い(富士経済「食品マーケティング便覧2017年」より)。

 また、スナック菓子市場全体(売上規模3,188億円)のうちの各社のシェアは、カルビー50%、湖池屋12%、山崎製パン11%、おやつカンパニー6%、日本ケロッグ4%、森永製菓、明治、ハウス食品がおよそ2%となっていて、カルビーが突出したナンバーワンである。

 しかしカルビーの今期の不調というか足踏みは、私に言わせればその「巨大性」にある。まず、松本会長の「買って 作って 売る」のうち「買う」である。カルビーはポテトチップスに使うジャガイモを北海道で買い付けている。16年の天候不順のために北海道のジャガイモが大減産となり、ポテトチップスのメーカー各社は減産をしたりアイテム数の間引きをしたりという大きな影響をこうむった。カルビーもポテトチップスの本格的な生産体制に復帰できたのが17年6月以降ということで、今期の売上予想が伸びていないのもそれによるところが大きい。

 焼酎のトップブランド黒霧島を醸造している九州の霧島酒造も同様に、原料を特定種別(霧島の場合はサツマイモ)で特定地域での栽培と限ったりすると、その売上が急増したときに供給の確保の問題が起こり、ひいてはそれが商品ブランドや会社の成長限界を作り出すことがある。

 カルビーは前述の第3四半期業績発表会で、北海道での生産者支援に力を入れてジャガイモの調達を確保・増強する、とした。調達を担うカルビーポテト社が生産者への新品種の提案や栽培指導などをする、つまり生産者の囲い込みを図るということだ。

 その発表によると、それらの活動により18年に5,000トンの調達上積みを目指す、としている。しかし、17年に同社が実際に買い付けた加工用ジャガイモの総量は23万トンとされたので、増量を目指している分は2.1%の上積みでしかない。毎年9%の成長を7年間続けてきた同社の調達増量としてそろばんが合わないのだ。しかも、17年の買い付け実績としては不作の時期が含まれるので、その前年より少なかったのではないかと思われる。

●伸びしろのないマーケット・シェア

 主要製品であるポテトチップスでマーケット・シェア71%を叩き出した、というのは同社にとって危機的な状況が来ているということでもある。ランチェスター戦略によれば、マーケット・シェアが70%を超えればほぼ市場を制圧、その地位は磐石ということだが、どうか。一企業が70%を超えてさらにシェアを伸ばしていったケースはあまり聞かない。アメリカなら独占禁止法が介入してくるような事態でもある。

 ポテトチップスだけのシェアの推移を見ると、カルビーの70%はここ10年間ほど変わっていない。ところが2位の湖池屋は当初10%ほどだったシェアを最近では22%までに伸張している(富士経済「食品マーケティング便覧2017年」より)。

 カルビーは日本国内で本当にこれ以上ポテトチップスの売上を、16年までのような破竹の勢いで伸ばすことは可能なのだろうか。そもそも日本人はこれ以上ポテトチップスを食べ続けていくのだろうか。

 もちろんカルビーは踊り場を迎えた国内市場のてこ入れを図ろうとしている。今年に入り、「浜松餃子味」「芋けんぴ味(高知県)」「奥大和柿の葉すし味(奈良県)」「せいだのたまじ味(山梨県)」などをたて続けに発表している。47都道府県をカバーする“ご当地ポテトチップス”を展開しているのだ。どれだけの増収効果があるか、見ものである。

 ついでにいえば、伸び続けてきたカルビーの営業利益率も16年3月期に11.4%を記録したが17年3月もほぼ同様な率となり、足踏みの季節を迎えている。

●海外勝負が残された成長への隘路

 数年来の業績好調を受けて、次の段階の飛躍のために松本会長が力を入れてきた2つのプロジェクトがある。

 ひとつは、通称「フルグラ」、フルーツグラノーラだ。朝食で食べられることの多いシリアルの一種だ。1991年に発売、2000年代の10年間、年間売上高は30億円程度で推移していたが、それが今や約300億円と10倍もの規模になっている。

 カルビーはこの商品の海外投入を広げていく。フルグラの中国内販売といえば、国内で業者や個人が買い付けて中国に持ち込む、輸出するという状況から、昨年ようやく中国の電子商取引最大手のアリババ・グループと提携して、アリババが運営するECサイト「天猫国際(Tmall Global)」で発売を開始した。今年は実際に中国の小売店での販売を始め、3月末までにはアジア諸国に販売先を広げるとしている。20年度にはフルグラの海外売上高300億円を目指すそうだ。

 また製造に関しては国内生産を続ける、ということだ。中国市場では日本製でアピールできるから、ということだ。主要な原料がオーツ麦と玄米ということで、調達の問題は大きくはならないだろう。しかし、総売上高が約2,500億円のカルビーにとって、フルグラだけでは救世主にはなりそうもないビジネス・ボリュームだ。

 松本会長が打とうとしたもうひとつの大きな一手は、後退してしまった。それは北米事業だ。松本会長が着任する前、06年にカルビーは現地でのジャガイモ生産会社大手であるR. D. Offutt Companyと合弁でCalbee North America ,LLCを立ち上げていたが、17年初頭にこの合弁を解消した。15年にミシシッピ州に工場を立ち上げていたのだが、そのキャパシティを埋めるだけの売上が確保できず、苦戦していた。18年3月期の通年では営業赤字となる見込みだ。

 北米での蹉跌は、日本のブランド食品は中国やアジアでは人気が出る、あるいは受け入れられるが、欧米では難しいということだろう。単純に文化や食文化の違いがあるため、それを乗り越えるのは難しいということだ。

 それでは、そのハンデを克服してカルビーがどう打って出るのか。北米に現地人による開発チームを組成し、北米に合った新商品を投入するということだろう。さらにもうひとつ、北米での材料調達、つまりジャガイモの買い付けだ。何しろ北海道での調達や契約栽培の確保が天井感を増してきている現在、北米、特にアイダホ州からのポテト買い付けに動くべきだろう。もちろん、品種の問題があるが、カルビーが改良して開発したと報じられている新種のジャガイモ種を提供して生産させるという手がある。

 私も経験したことだが、外から乗り込んだプロ経営者も数年すると、改革のカードを切り終わってしまって、手詰まりになることがある。松本会長が活躍するステージを変えることも有用なこととなるのではないか。新天地でさらなるトラック・レコードを積み上げるのはどうだろう。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)