不動の人気コミック『リバーズ・エッジ』が映画化され、2月16日に公開となりました。
岡崎京子といえば、80年代〜90年代のサブカルに欠かせない漫画家です。人気絶頂の96年に交通事故に遭い、現在はリハビリ中の彼女ですが、『ヘルタースケルター』に続き、『リバーズ・エッジ』の映画化が実現しました。
今回は、90年代のサブカルを振り返りながら、映画『リバーズ・エッジ』の世界を探っていきます。

1994年って、何があった?

『リバーズ・エッジ』は、都心近郊を流れる川沿いの工業地帯が舞台。高校生の若草ハルナ(二階堂ふみ)は、彼氏の観音崎(上杉柊平)がいじめる山田(吉沢亮)を助けたことをきっかけに、夜の河原へ誘われる。そこで目にしたのは腐りかけた「死体」だった。宝物として死体を共有しているモデルのこずえ(SUMIRE)が現れ、3人は恋愛に発展しない特異な友情で結ばれていきます。

『リバーズ・エッジ』2018年2月16日 T0HOシネマズ新宿ほかロードショー。配給:キノフィルムズ  監督:行定勲 出演:二階堂ふみ、吉沢亮、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨、森川葵   (C)2018「リバーズ・エッジ」制作委員会/岡崎京子・宝島社

ちなみに、主演の二階堂ふみと吉沢亮が生まれた94年は、『リバース・エッジ』の初版が発刊された年。94年は、プレイステーションやセガ・サターンが登場し、次世代テレビゲームとして大ヒット。この年の流行語大賞は「すったもんだがありました」(宝酒造のCM)、「同情するなら金をくれ」(安達祐実のTVドラマ)が受賞。

テレビ番組では『ウゴウゴルーガ』や『キテレツ大百科』が放送。『リバーズ・エッジ』の主人公・若草ハルナは、この2番組のファンで、セリフにちょこちょこと番組名が出てきます。

音楽業界は、小室哲哉がプロデュースの全盛期で、trfが大ヒット。また、ピチカート・ファイブやオリジナル・ラヴ、フリッパーズギターといった、渋谷系も人気を博していました。当時、渋谷のHMVは渋谷系の中心地で、HMV近くの中古レコード店やおしゃれカフェには、べレー帽を被った女子(通称:オリーブ少女)が溢れていました。

山田(吉沢亮)のダッフルコートがオザケンっぽくてナイス!山田の彼女、田島カンナ(森川葵)は、オリーブ少女ファッション! (C)2018「リバーズ・エッジ」制作委員会/岡崎京子・宝島社

ちなみに、原作者の岡崎京子はフリッパーズギターの元メンバー小沢健二の大ファン。彼を「王子様」と称し、自身のコラムでオザケン愛を語っていたのも印象的。当時から親交の深かったオザケンは、本作のエンディングで主題歌『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』を提供。岡崎さんに向けたエールとも読み取れるこの曲は必聴です。

そんな楽しげな94年ですが、バブルの象徴だったクラブ『ジュリアナ東京』が閉店。世の中に少しずつ閉塞感が広がってきた時代でもあります。

生きる実感が湧かない悲壮感と焦燥感

ハルナはリーバイスのオーバーサイズが定番ファッション。これも90年代に流行ったんです。 (C)2018「リバーズ・エッジ」制作委員会/岡崎京子・宝島社

本作に登場する高校生達は、どの子も皆、鬱屈した思いを抱えています。ハルナの彼・観音崎は山田をいじめることで鬱憤を晴らし、山田の彼女カンナは、山田への依存に走る。ハルナの友達、ルミはパパ活で欲を満たし、モデルのこずえはスリム体型を維持しつつも、異常な食欲で空腹を満たします。

ママと2人で暮らすハルナは、決して優等生ではないけれど、ワルでもない。かといって、他の子達のように気持ちを誰かや何かにぶつけることもない。すべての不安から逃れようと、感情を消しているように見えるハルナ。でも映画を見ていくうちに、彼女自身にも鬱屈した、凝り固まったシコリのようなものがあることがわかってきます。

観音崎(上杉柊平)のロン毛&ネルシャツファッションも懐かしい。 (C)2018「リバーズ・エッジ」制作委員会/岡崎京子・宝島社

行定監督は「登場人物のハルナや山田たちは過ぎ去った時代の子ども達。”平坦な戦場”という何と闘っているかもわからない時間=青春の中にいる。原作が発売された直後95年にサリン事件は起こり、世の中の価値観は大きく変わった。そこから世界では日常的にテロが起こり、悲惨な事件が報道されても驚かなくなってしまった。『リバーズ・エッジ』はそのぎりぎりの岐路に立っていることを予見しているような物語」と語っています。

本作は原作にとても忠実に作られていますが、今は94年から20年以上経過しています。あのときとは違うけれど、今も同じように悲壮感や焦燥感を感じる10代はいるのではないか。自分の10代ってどんな感情を抱いていたかな。そんなことを考えながら見ると深みが増すことでしょう。

キレイの裏にあるドロドロと淀んだモノ

そして、忘れてはいけないのが、岡崎京子の作風です。
いわゆる、男女の恋愛を「壁ドン」だの「胸きゅん」だので片付ける作品では決してありません。彼女の作品は、恋愛を描いているものがほとんどですが、中には暴力もあるし、強烈なベッドシーンもあります。なぜならそれが、リアルだから。

(C)2018「リバーズ・エッジ」制作委員会/岡崎京子・宝島社

CHARAと浅野忠信の娘SUMIREはモデルのこずえ役で登場。 (C)2018「リバーズ・エッジ」制作委員会/岡崎京子・宝島社

『リバーズ・エッジ』以降、彼女の作風は徐々にダークなものへと変わっていきます。死体と高校生という対照的なものを描きながら、美しいものの裏にある淀んだものを引き出す。
この閉塞的な世界感は、整形を繰り返す女優を描いた『ヘルタースケルター』にも通じるものがあります。
除菌・滅菌が行き届いた世の中の裏に潜む沈殿したもの、これに光を当てるのが岡崎京子のスゴイところです。さらにその淀みが20年以上経過した今でも十分に通じる。その表現力も彼女ならではのものです。

原作を忠実に再現した、こだわりの演出

川沿いの町に暮らすハルナ(二階堂ふみ)。(C)2018「リバーズ・エッジ」制作委員会/岡崎京子・宝島社

本作では、岡崎京子の持ち味を行定監督は忠実に再現しています。
教師や親など、大人がほとんど登場してこない点も原作のまま。ファッションに至っては、当時人気だった服装を参考に今でも通じるものをセレクト。新宿駅のシーンではエキストラに90年代の服を着てもらい、今の時代とわかるものは映さないようにしたのだそう。

そして、ロケ地にはかなり難航したそうです。学校や東京周辺の河川敷は住民がいるため夜間の撮影は禁止。学校はストーリーの内容の関係でNGになることが多かったようです。 
結果、関東近郊のエリアでの撮影許可を取り撮影に挑んだそうです。ロケハンをしていて分かったのが、岡崎京子は東京各地のイメージを引っ張ってきているという点。映画も各地で撮影して組み合わせて編集、結局、ロケ地の選定に2か月半もかかったのだとか……いやはや、スタッフの皆さん、お疲れ様です。

苦労の甲斐があってか、本作は原作に本当に似ている風景がたくさん登場します。大きな鉄橋、雑草が生い茂る河原、廃校舎のある学校、屋上から見える校庭、ハルナが暮らす団地など。原作ファンの人は風景もしっかり見て下さい!

もちろん、若いキャストの熱演にも注目。二階堂ふみは、惜しげも無くヌードを披露。吉沢亮の目力や、恋に依存する女の子の心理を狂気的に演じた森川葵も必見。SUMIREは、透明感のある美貌でモデルこずえのツンとした役柄を好演。さらに、本作で一番難しい役柄でもある、ハルナの友達ルミを演じた土居志央梨は、要チェック!彼女は今後、どんな役にチャレンジするのか、伸びしろのある女優さんなので期待大ですよ。

吉沢くんはシーンのほとんどで怪我してます。(C)2018「リバーズ・エッジ」制作委員会/岡崎京子・宝島社

94年に描かれた岡崎京子の世界を、今を代表する若手スターが演じる。さらには岡崎京子が大ファンの小沢健二が曲を提供する。原作をリアルタイムで読み、90年代に青春を過ごした人からすれば感慨深い本作。原作を知らない人も、新鮮な気持ちで10代のストーリーに目をこらして下さい。