数年前、韓国の大学街で食事をしていると、私の席の近くに陣取った男女の会話が聞こえてきた。

 中年の男性1人と3人の女性の4人組だった。彼らの会話から男性が教授で女性は大学院生や助手のようだった。

 その男性は一番若く見える女性に対しボディタッチを繰り返し、最後にはトイレに行くと言う男性に女性が連れ去られていった。

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セクハラを受ける女性に目をつぶる女性たち

 どう見ても「教授とその弟子」なのに、2人を平気で見送っている残りの女性たちにも違和感を感じた。

 詳細な内容を聞いていなかったので、実際はどんな状況だったのか分からないが、何となく後味の悪い光景を見てしまった。

 さて、平昌五輪真っ盛りの韓国では、北朝鮮の応援団や金正恩の代わりに来館した金与正(キム・ヨジョン)のニュースが出ているが、それはさておき今回はジェンダー問題を抱える韓国の今をご紹介したい。

 今年1月29日、韓国法曹界に震撼が走った。韓国検察庁専用ウエブサイトに、現職の女性検事ソ・ジヒョン氏が元上司のセクハラ事件を告発したからである。

 「私は所望します」というタイトルで、8年前に某葬儀場で同僚や法務大臣がいる前で、元上司によってセクハラされ、それに対して抗議したところ、個人的に不利益を被ったという内容である。

 ソ検事の告発は、現職の検事という点や堅苦しそうなエリート集団の法曹界でのセクハラということでとてもセンセーショナルだった。

 しかし、なぜ当時は何も言わず、8年も経って話し始めたのかという疑問が生じる。

 そう思って彼女のインタビューを聞いてみると、実は当時、何度も抗議したけれど、結局男性社会でもみ消されてしまったというのが実情のようだ。

 挙句の果てには、セクハラされたのは自分なのに、男検事の出世を阻む魔物(韓国ではこんな女性を『花蛇』という。花蛇とは、金品目当てに男を誘惑する女のこと)というレッテルを貼られてしまった。明らかな男優先社会が存在していた。

朴槿恵大統領が失脚しなければ法務大臣にも

 特に、ソ検事をにセクハラをした人は、飛ぶ鳥を落とす勢いだった当時の「検察局長」で、朴槿恵前大統領の弾劾により政界からバッシングされ辞職に追い込まれた人だった。

 つまり、もしもう少し前朴大統領がそのまま権力を持っていたら、最終的に法務大臣も狙えるほど権力に近い人だったのだ。

 ソ検事は、ニュース番組で自分がインタビューに応じた理由について次のように述べた。

 まず、被害者が口をつぐんでいては改革は行われない。

 2つ目に、自分をセクハラした人が宗教に帰依して悔い改め、救われたと言っているが、被害者に直接言うべきことだと思う。

 それがないのは本当に悔い改めたことにならない。それを本人に知ってほしい。

 そして3つ目が、犯罪被害者や性暴力の被害を被った側に絶対に非はないことを知らせるためだという。

韓国でも盛り上がり始めたMe Too運動

 現在、米国でのMe Too運動と相重なって、韓国でもすでに昨年から女優が監督をセクハラで訴えることがあったが、ソ検事のほどの破壊力はなかった。

 なぜなら、芸能界は多少現実離れしているところという認識があったからだ。しかし、現職検事となれば勝手が違う。

 韓国の超エリート集団で最もモラルが守られるべき神聖な法曹界なのだから。

 とにかく、このような破壊力が今度は文学界に飛び火した。とりわけ、2017年12月に発表された女流詩人の作品「怪物」が俎上に載せられた。

 その詩の中に描写されている怪物は堂々とセクハラをする年取った詩人であった。それも毎年韓国ではノーベル賞候補に上るほどの重鎮である。

 「怪物」の詩を少し翻訳してみよう。

怪物

En先生の隣には座らないようにと
文壇の初年生であった私にK詩人が忠告した。

若い女性を見るといつも触るんだよ。

Kの忠告を忘れてEn先生の隣に座ってしまって
Me Too

妹に借りたシルクの上着がくしゃくしゃになった。

数年後、ある出版社の忘年会で
隣に座った人妻の編集者を揉みしだくEnを見て

私は叫んだ。「この狡猾な年寄りめ!」

(中略)

100冊の詩集を出した

「Enは蛇口みたいだ。ひねると出るんだよ、
でも、それは水じゃなくて汚水だけどね」

(仲間内では)彼を非難していた小説家の朴先生も
Enの体が大きくなり怪物になると黙ってしまった。

ノーベル賞候補としてEnの名前が挙がるたびに
Enが本当にノーベル賞を受賞することがあったら、
この国を離れよう。

(後略)

 Enというのは、どうやら韓国文学界の大御所である。実は、彼女とは親しくしていた時期があり、その時話していた内容が「怪物」に盛り込まれているので、筆者は怪物が誰を指しているのかは知っている。

 だが、彼女すら本名を出していないので、ここではノーベル賞候補者の1人とだけ言っておこう。

 彼女が言うには、いくらセクハラをしても誰もそれを咎めないし、それに文句を言うなれば文学界から干されてしまうという。

 実際、彼女は抗議をして文学界で食べていけないほど貧しくなった。彼女は詩人としては珍しくベストセラー作家であるにもかかわらずである。

 一方、 大学でも教授たちのセクハラに対してMe Too運動が出始めている。そこで大学では新入生を対象に人権教育を実施するなど、対策に乗り出している。

演劇界の大物もセクハラで活動中止

 また、演劇界の大御所イ・ユンテクはMe Too運動の拡散により、活動中止に追い込まれた。

 ソ検事は40代、チェ・ヨンミ詩人は50代である。その年齢になってやっと彼女たちは勇気を振り絞れるようになったのだ。

 しかも、もしかしたら自分が悪いのではないかという気持ちを何度も自問自答して、やっとそうじゃないという結論に達したのでMe Too運動に乗り出すことができた。

 ソ検事の勇気ある告発により、韓国では「セクハラ真相調査団」が調査に乗り出し、現職の部長検事は緊急逮捕された。

 しかし、それとは別に、セクハラを告発したソ検事はこれまでの疲労がたたり入院してしまった。その結果、検察は病気休暇を理由に彼女の執務室から彼女の荷物を出し、部下だった職員も他の検事のもとへ配置換えになった。

 この一報は、韓国の未熟さを見せつけられるようで、苦いニュースであった。

筆者:アン・ヨンヒ