政治力を発揮しCEO続投を勝ち取ったゴーン氏

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 仏ルノーは15日の取締役会で、6月の株主総会にカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)の再任を提案する方針を決めた。任期は2022年までの4年間。同社のトップ人事をめぐって、ゴーン氏が退任する観測も浮上していた。

 一方、ルメール仏経済相はAFP通信の取材に対し、ゴーン氏が報酬の30%減額を受け入れたことを明らかにした。ルノー株式の15%を保有する仏政府はかねてゴーン氏の報酬が多過ぎると批判しており、ゴーン氏が譲歩した可能性がある。

過去にも介入たびたび
 仏ルノーと日産自動車が資本関係を見直す方向で検討していることが明らかになった。ルノーが保有する日産株の比率を下げて、日産のルノーに対する議決権を与える案が浮上しているようだ。フランス政府のルノーへの関与拡大に対抗するものと見られる。15年にわたって資本関係の均衡を保ってきた両社だが、かねてより指摘されていた親子逆転によるいびつな関係が改善されるかもしれない。

 「協議は以前から始まっていた」。日産幹部はこう明かす。6日のルノー取締役会で日産との資本関係を協議するという現地発の報道が流れた。それ以前から資本関係の見直しは水面下で進んでいたようだ。仏政府がルノーへの発言権を強めるのを抑えられないか。両社のCEOを兼務するカルロス・ゴーン氏がそんな思惑で、周到に対策を練っている様子がうかがえる。

 そのきっかけが、14年に仏で制定された「フロランジュ法」。2年以上保有する株主の議決権を2倍にするというもので、仏政府のルノーに対する議決権が16年4月に倍増する。EUの政治経済に詳しい国際貿易投資研究所の田中友義客員研究員は「フロランジュ法の狙いは仏政府の積年の課題である雇用問題の改善だ」と指摘する。仏政府がルノーの生産戦略に介入し、国内の雇用を確保しようとするとの見方だ。
 
 すでに前例がある。田中氏によれば、かつてルノーが仏国内からコストが低い東欧に工場を移転する計画があったが、政治的圧力で白紙となった。「雇用減に直結する工場の国外移転に政府は神経をとがらせている」(同)という。

 その影響が日産に及んでいるとの見方もある。昨年、日産がスペイン・バルセロナ工場で生産していた小型商用車「プリマスター(ルノー名トラフィック)」を、全面改良を機にルノーの仏サンドビル工場に移管した。16年には日産の主力小型車「マイクラ(日本名マーチ)」の欧州向けの新型車の生産を、両社で共同運営するインド・チェンナイ工場から、ルノーの仏ルマン工場とフラン工場に移す計画だ。

 マイクラの事例について「低コストで生産できるインドから高コストの仏に移管するのは日産のメリットがみえにくい」と、仏自動車産業に詳しい黒川文子獨協大学教授は指摘する。同氏によれば、ルノーの仏工場は稼働率の低迷が深刻化している。ルノーは国内に六つの完成車工場を持つが二つ分が過剰な状態だという。

 仮に資本構成が変わったらどうなるか。「(共同購買などの)業務上の協力関係と資本構成は明確に区別している」とゴーン氏は強調する。

 現に調達担当の日産幹部は「例え資本関係が変わってもルノーとの協力関係に影響はない」と話す。両社の業務上の協力関係はもはや一心同体に近く、簡単に切れるような間柄ではないと言っていいだろう。

 両社の資本構成を巡る今後の動向は、仏政府がどう出るかに左右されるだろうが、両社の資本構成が変わったところで、15年かけて構築した業務提携は崩れそうにない。むしろ、堅い業務提携の関係のおかげで事業への影響が出ないのであれば、資本関係の見直しは、不満を抱いてきた日産の株主や取引先にとっては歓迎すべきことになるだろう。
※肩書き、内容は当時のもの
日刊工業新聞2015年10月12日