今年に入り、FCフローニンゲンの堂安律はコンディションのよさを感じている。

 現在、彼の体重は75kg。日本にいたころより、3kgほど増えたのだ。堂安のことをよく知る者は「律、お前、筋トレしすぎと違うか?」と言う。しかし「筋トレ嫌い」と公言する彼は、「フィジカルコンタクトの激しい試合と練習によって、自然と筋肉がついた」と理解している。


強豪フェイエノールト相手にマッチアップを「楽しんだ」堂安律

「やっぱり試合が一番、鍛えられると思います。次の日に筋肉痛が残って、ほどよい疲労感があるのが好きなんです。筋肉痛があると『ああ、もう筋トレをしないでいいな』という感じになります」

 フローニンゲンのトレーナーからは「あと2kg増やして、77kgまで持っていきたい」と言われている。

 堂安本人は「(自分のフィジカルは)通用しているから(それまでの体重に対して)ネガティブに感じてない。今は重たくなってキレがなくなるのが心配」と意見を述べたが、「プレミアリーグにステップアップしても負けない身体を作ってあげる。体重が増えても、筋肉量を上げれば問題ない」という説明が返ってきた。ただ、急に筋肉を増やすのもよくないから、月々、少しずつ上げていこうという結論に至った。

 チームは今年に入って、2敗2分と調子が悪い。2月2日のフィテッセ戦(0-2)、8日のフェイエノールト戦(0-3)は防戦一方のまま、無抵抗に試合を終えてしまった印象だ。自ずと堂安のボールタッチは少なくなる。それでも堂安は、後ろ向きの姿勢で受けたボールを、相手のマークを一枚剥がしながら前に向き、前線に何とかパスを供給しようとしていた。

 フィテッセ戦でトップ下を務めた堂安は、2点ビハインドで迎えた67分、ベンチに下げられてしまった。アーネスト・ファーバー監督の狙いは、馬力のあるストライカーFWラルス・フェルトワイクを投入して2トップにすることによって、縦へのダイレクトプレーで攻撃の迫力を増すことだった。

 堂安はベンチに向かって歩きながら「自分が代えられたのは、何でやろ……」と考えていた。

「チームに火が入っていないような感じだった。だからこそ自分もイライラしていたが、なんとかチームを変えようと思ってプレーして、それができた自信があった。『いい感じだな』と思っていたので、代えられたのは本当にわからないですね」(フィテッセ戦後の堂安)

 チームバスがフィテッセのホームスタジアム「ヘルレドーム」から175km北のフローニンゲンへ戻る道すがら、ファーバー監督に向かって「自分が代えられたのはなぜか?」と問うた。

「やっぱり高さがほしかったので、トップ下のお前を削って大きい選手(フェルトワイク)を入れた」

 そう答えたファーバー監督に、堂安は「正直に言えば、俺はサイドハーフもできる。だから、俺をピッチに残してサイドハーフにする考えでもよかったと思う。それぐらい、今日の自分はよかったと思う」と訴えた。

 ファーバー監督は「お前の言うこともわかる。しかし、違う戦術でいきたかった」と説明した。

 そして翌日、ファーバー監督が堂安に向かってこう言った。

「英語がうまくなくても、自分の思いを伝えてくれたことはすごくよかった。日本の監督に対してはありえないことだと思うけど、オランダのサッカーやヨーロッパのサッカーでは普通のことだから、これからもどんどん話しかけてきてほしい」

 その言葉に堂安は「評価してもらえた。いい話し合いができた」と感じていた。

 2月8日、フェイエノールト相手に1点ビハインドで迎えた63分、ファーバー監督はやはり高さのあるフェルトワイクを投入して、FWトム・ファン・ウェールトと2トップを組ませた。しかし今回、ベンチに下がったのは、右サイドハーフのMFウリエル・アントゥナだった。

 その1分後、GKセルジオ・パットのロングフィードを2トップが前線でつなぎ、ペナルティエリア中央へ走り込んだ堂安にボールが通る。狙いどおりの連係だったが、後方からフェイエノールトのMFカリム・エル・アフマディが粘り強く堂安を追ってきて、シュートを撃つ寸前にボールをカットされた。

 エル・アフマディは昨季優勝したフェイエノールトのキャプテンで、『アルヘメーン・ダッハブラット』紙が選ぶベストプレーヤーに輝いた選手だ。卓越したポゼッション能力と闘志あふれるプレーで、弱点の得点力不足を補っている。モロッコ代表の主力としてロシアW杯にも出るだろう。

 まだオランダに来て間もない堂安が昨年11月、フェイエノールトと試合をしたあと、エル・アフマディから「お前はこのチームでもっと中心になってやれよ」と声をかけてもらい、「とてもうれしかった」という。

 今回の試合前もエル・アフマディが堂安のことを意識していることを感じ、お互いに「がんばろうぜ」と声を掛け合った。そして、タイムアップの笛が鳴ると「(足もとを)蹴ってゴメンな。強くいってゴメン。フットボールだから仕方がないんだ」と話しかけられ、文字どおりのノーサイドで健闘を称え合った。

 チームの実力に差があるからこそ、フェイエノールト戦の堂安は多くのマッチアップを楽しんだという。

 フェイエノールトの右サイドにはリーグ得点王争いでトップを走るウインガーのFWスティーヴン・ベルフハイスと、縦へのラッシュでペナルティエリア内の右45度からのシュートを果敢に狙ってくるサイドバックのDFジェリー・シン・ジュステがいる。堂安が中に絞ってプレーすれば、そこにはパワーと戦術眼に秀でたオランダ代表レフティのMFトニー・ヴィリェナ、そしてエル・アフマディともクラッシュした。

「率直に楽しかったです。ストレスの溜まる試合でしたが、充実してました。個人のところだけ見ればすごく楽しめた。この前も言いましたが、1試合のなかで成長した感じが自分のなかでありました。チームとしてではなく、個人として充実していた90分間でした」

 堂安のキックオフで始まったフェイエノールトvs.フローニンゲンだったが、次に堂安がボールをさばいたのは何と11分後。14分には左サイドライン際にプレスをかけられ、堂安はあっさりボールを失ってしまった。

 ただ、そんな苦しい時間帯を乗り越えると、堂安のボディーバランスと左足のテクニックが通用し始める。アディショナルタイムには左タッチライン際でヴィリェナからの激しいチャージを受けて倒れそうになりながらも、踏ん張って突破して味方にスルーパスを出した。

「あそこでコケなくなったし、耐え切れるようになったし、抜き切る力が出てきた。いつもならキープしてパスやバックパスとかだった。それが、縦に抜き切ったプレーが出てきた。すごい成長していると感じます」

 オランダリーグはこれからが終盤戦だ。今季の堂安はリーグ戦で4ゴール、カップ戦で1ゴールを決めている。リーグ戦残り12試合で5ゴールを上積みし、公式戦得点数をふたケタに乗せることが堂安の目標である。 

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