アメリカで500人以上を回復させた革命的なアルツハイマー病の治療法・予防法とは?(写真:SIphotography / iStock)

超高齢社会を迎えた日本。2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推定されている。しかし、これまで画期的な治療法はなく、認知症と診断された人は「現在のところ確実な治療法はありません」と医師から告げられるのが関の山だった。
ところが4年前、驚くべき研究結果が発表された。なんと認知症のうち6割強を占めるアルツハイマー病は、治療によって回復することが分かったのだ。
アメリカでアルツハイマー病から500人以上を回復させた革命的な「治療法」と「予防法」について、『アルツハイマー病 真実と終焉』(ソシム)を翻訳した医学ジャーナリスト、山口茜さんが2日連続で解説する。前編は「治療法」について。

今後ますます高齢者人口が増えていく日本にとって、認知症にまつわる経済的負担がこれ以上膨らめば、国の医療体制の存続にも影響しかねない。認知症は人生を奪われる患者自身だけでなく、介護にあたる家族の人生も巻き添えにする。

認知症を起こす原因の6割以上を占めるアルツハイマー病で有効な治療法があれば、日本にとって朗報となるだろう。

「炎症」「栄養不足」「毒素」の3つが原因

アルツハイマー病の回復がヒトで初めて論文報告されたのは2014年。「アルツハイマー病患者の回復が史上初めて発表された」とのニュースは、瞬く間に世界を駆け巡った。

アルツハイマー病の原因はこれまで、脳に「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質が蓄積することとされてきた。そして従来の治療は、脳に溜まった悪者として、アミロイドベータの除去に主眼が置かれてきた。

しかし、アミロイドベータを除去する薬剤は、症状を緩和させることはあっても、病気の進行を抑制させたり回復させたりしなかった。

アルツハイマー病でアミロイドベータがなぜ脳に溜まるのか――。研究の結果、「炎症」「栄養不足」「毒素」の3つが原因であることが分かった。

アミロイドベータが脳に蓄積する3つの原因
(1)炎症(感染、食事、その他さまざまな原因による)
(2)栄養素の不足(神経栄養因子、ホルモンなど)
(3)毒素(カビなどの生物毒や金属など)

さらに、アミロイドベータは単なる悪者ではなく、脳の防御反応による「脳細胞を守る兵隊」であったことも分かった。アミロイドベータが溜まる3つの原因は、脳にとって脅威だったのだ。

ところが、その脅威が払拭されないままだと、アミロイドベータが過剰になり、最終的に守るべき脳細胞を壊してしまう。

裏を返せば、アミロイドベータが溜まる原因(脳の脅威)を取り除いていけば、アルツハイマー病から回復でき、病気にかかるリスクも低減できる。新しい理論に基づく治療プログラムがこれを可能にする。

認知機能を回復させる新治療法


アルツハイマー型認知症の新しい治療法を確立したデール・ブレデセン医師(©Leigha Hodnet)

「リコード法」と呼ばれる新しい治療法を確立したのは、この分野で30年にわたり研究を続けてきたデール・ブレデセン医師。アルツハイマー病など神経変性疾患の世界的権威として知られる。

ブレデセン医師は2017年8月、リコード法についてまとめた書籍『アルツハイマー病 真実と終焉』を本国アメリカで一般向けに発売し、ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルでもすぐにベストセラー入りを果たした。

リコード法で治療すれば認知機能を回復でき、早期であれば完全回復も期待できるという。

その治療プログラムは、食事、運動、睡眠といった生活習慣の指導や、脳の栄養不足を補うサプリメント、脳トレーニング、ストレス対策など、実に多岐にわたる。

リコード法は、ひとりでは迷子になってしまうような状態だった患者が職場復帰を果たすなど、素晴らしい成果を挙げている。まさに、これまでの医療の常識を打ち破るものだった。

リコード法を始めるにあたっては、アミロイドベータが脳に溜まる3つの原因に対する脆弱性を的確に検査する必要がある。ブレデセン医師はこれを「認知機能検査」と呼ぶ。

実は、アルツハイマー病と診断される15〜20年前から、すでに病気は始まっている。年齢でいえば、ちょうど40歳を迎えた頃からが危なく、病気がひっそりと進行し始めている人が多い。

50代になったら腸の内視鏡検査を行うように、40代のうちに認知機能検査を受けるのが理想的だという。

恐ろしいことに、認知症は発症するまで、ほとんど何の症状もない。あったとしても、「些細な物忘れ」「夕方に疲れが出る」「人の顔を覚えにくい」など、“歳のせい”で片付けてしまうようなものばかりだ。

言葉がうまく思いつかない、会話に入れない、少し前の出来事もすぐに忘れてしまう、いつも通い慣れた高速道路でどの出口を出れば家に帰るかわからなくなってしまう……。放置したままだと、このようにいずれ認知機能の障害につながっていく。

そして、認知症と診断される頃には、病気自体はすでに末期を迎え、日常生活に介護が必要な状態になっている。

生活史を振り返ってみよう

認知機能が低下している原因を確かめる上では、これまでの生活史を振り返ってみることも大切だ。


頭のケガや過去に受けた全身麻酔、喫煙、飲酒、別の病気で処方されている治療薬、口腔内の不衛生、いびき、慢性副鼻腔炎、自宅・職場・車のカビ、ダニに噛まれたこと、化粧品やヘアスプレー、制汗剤の使用、便秘、あまり汗をかかない、といったことも手がかりになるという。

自分で認知機能の低下を自覚している段階であれば、リコード法で今のところ全ての人が回復しているという。しかし、症状がある程度進んでしまうと、100%の回復は望めなくなっていく。

このため、ブレデセン医師は「認知機能検査で目標値から外れている項目があれば、すぐにリコード法を始めてほしい」と力説している。

これは症状がない人も同じで、この時点からスタートすれば、一生アルツハイマー病を寄せ付けずに過ごすことも可能だ。つまり、予防できるわけである。後編では、この予防法について解説する。