新潟でも屈指の豪雪地である津南町。車庫には様々な除雪車が並ぶ(記者撮影)

「今年もこの季節が来たか」――。

しんしんと降る雪に窓越しに目をやると、新潟県津南(つなん)町の建設会社「高橋工務所」の村山義徳氏は襟を正した。

雪国新潟の中でも屈指の豪雪地である津南町では、積雪量が3メートルに達することも珍しくない。2月初旬、記者が町を訪れた際も、道路の両脇に背丈ほどの雪の壁ができていた。

この町の建設業者にとって、雪が降れば工事は止まってしまう。代わりに舞い込んでくるのが除雪作業の依頼で、高橋工務所の車庫にも複数の除雪車やブルドーザーが待機する。こうした車両の運転には、車種にもよるが大型特殊自動車免許や建設機械施工技士といった資格が必要。そのため、日頃から重機を扱う建設業者が除雪作業の担い手となる。

「除雪作業」の1日に密着

夕方、高橋工務所に一枚のファクスが送られてくる。「津南:18時〜6時、15〜20」。差出人は新潟県の出先機関で、用紙には地域別の天気予報や降雪量が並ぶ。


11月頃から、自治体が降雪予報や待機の有無を建設業者に連絡する(記者撮影)

予報によれば、翌朝の津南町は15〜20センチメートルほど雪が積もるようだ。天気予報の隣には「除雪待機『有』」の文字。10センチメートル以上の積雪が見込まれる地域の建設業者は、除雪準備に取りかかる。

日付が変わった0時。人々の寝静まった町中を高橋工務所の車が走る。運転するのは土木事業部の富井晶氏だ。

事前に降雪状況を確認すべく、担当する国道や県道を回る。通勤・通学の時間までに除雪を終わらせるため、真夜中から準備にとりかかる。

ところが予報に反して雪は降らず、時計の針が深夜3時を指しても、道路にはうっすらと雪が積もる程度。結局その日は除雪をすることはなかった。「よくあること」と富井氏はさらりと受け流す。

今年に入り、全国で豪雪被害が相次いだ。首都圏では雪で交通機関がマヒしたほか、北陸地方でも記録的な豪雪に見舞われた。除雪はますます重要になっている一方で、肝心の除雪を担うはずの建設業者が不足している。

背景にあるのは、「除雪作業は儲からない」という事情だ。全国建設業協会は2016年8月、豪雪地帯を中心とする24道府県建設業協会及びその会員企業434社を対象に除雪作業に関する実態調査を行った。


人件費や機械の維持管理費の負担に加えて、降雪が少ない年は稼動率が高まらないことを理由に、回答企業の半数以上が「利益が出ない」「赤字」と回答。

これに人手不足などが重なった結果、約7割が「5年後(2021年度)までには除雪が続けられなくなる」と答えた。

除雪作業に対する費用は、出動した時間だけ支払われる。だが記者が訪れた時のように、出動せずに終わる場合も多々ある。その場合でも、オペレーターの人件費や除雪車の維持管理費・リース料は重くのしかかる。雪が降れば儲かるが、降らなければ経費だけがかさむ。

津南町のように、稼働時間が規定に達しなければ「待機費用」を支払う自治体もある。だが、前述の調査では多くの企業が「待機費用だけでは人件費や重機の維持費を賄えない」と答えている。

業者の切実な声を前にしても、自治体はおいそれと除雪費用を増やす訳にはいかない。除雪費用は毎年度予算に計上しているが、降雪が想定よりも多ければ除雪車の出動回数が増え、とたんに予算が枯渇する。

福井県は1月18日時点で、県と市町合計で除雪予算が約18億円不足する見通しを公表、福井県知事が国に財政支援を要請する事態となった。県内ではその後も降雪が続き「不足額はさらに増えるだろう」(県財務企画課)。

除雪の担い手も不足している

オペレーターの高齢化も深刻だ。津南町の隣に位置する十日町市が行った調査では、市内のオペレーターの4分の1がすでに還暦を迎えていた。新潟県建設業協会は「現状でも60代以上のオペレーターがたくさんいる中、今後も担い手が確保できるかわからない」と危機感をあらわにする。

業者に対しては津南町のように日々待機指示が出るだけでなく、雪が降る度に出動しなければならない。だが、北関東のある建設業者社長は「建設需要が落ち込んだ時期に、多くの業者が人員整理や重機の売却を余儀なくされた。急に除雪の要請が来ても対応できない」とこぼす。

一部の自治体では、すでに業者不足の影響が出ている。山梨県丹波山(たばやま)村はかつて村内に建設業者が3社あったが、現在は1社のみ。村中の除雪を一手に担うことはできない。そこで村役場が自前で除雪車を購入し、役場職員が除雪を行っている。「雪が降ると仕事が止まってしまう」と、自身も免許を取得したという職員は話す。

千葉県山武(さんむ)市や東金(とうがね)市では、2014年に記録的な大雪に見舞われた。ところが除雪に対応できる建設業者が足りず、当時談合で指名停止処分を受けていた建設業者22社にまで応援を要請するという苦渋の決断を余儀なくされた。

現場の窮状を受け、国も対応に乗り出している。国土交通省は今冬から高速道路での除雪車の自動運転の実験を進めており、来年度からは一般道でも実験を行うという。運転手と周囲の状況を知らせる助手の2人体制が一般的な除雪車では、自動運転の恩恵は大きい。

厳しい冷え込みが続く日本列島。しんと冷えた除雪業者の懐が温まる日は来るのか。