2月5日、ダウ平均株価は過去最大の値下げとなった(写真:ロイター/アフロ)

史上最高値を続けていたニューヨークダウ株平均が、2月に入って歴史的な大暴落を記録した。2月5日には、1日の下落幅では史上最大となる1175ドル(終値ベース、-4.60%)の大暴落を記録。その3日後の8日にも1033ドル(同、-4.15%)と暴落した。

連日、史上最高値を更新し続けてきたものの金利が上昇しない「ゴルディロックス・マーケット(適温経済相場)」が、ここにきて大きく崩れ始めた。きっかけは、米国の長期金利急騰だと言われているが、むしろリーマン・ショック以来続いてきた中央銀行による金融緩和が招いた過剰流動性相場の崩壊シーンがいよいよ始まった、とみるべきなのかもしれない。

今回の世界同時株安の背景にあるもの、そしてこれからどうなるのかを検証してみたい。

金融引き締め観測+北朝鮮リスクか?

リーマン・ショック時の最大下落幅が777ドル(2008年9月29日、-6.98%)だったことを考えると今回のニューヨークダウの下落幅はいずれも1000ドルを超えている。下落率では、まだリーマン級とは言えないが、株価が大きく上昇しているため、どうしても変動幅(ボラティリティ)は大きくなってしまう。

今回の株価急落の原因をどう見るか。少なくとも株価だけを見るとトランプ大統領誕生以来、続いてきたトランプラリーが名実ともに終了したとみていいのではないだろうか。1月30日に行われたトランプ大統領の一般教書演説では、大型減税の実現とインフラ整備の拡大をアピールした。しかし、金融マーケットはこれを今後の「金利上昇」のシナリオととらえて、長期金利が上昇し株価が大きく下落した。

数値が高くなるほど投資家が相場の先行きに不安を持つと言われる「VIX(Volatility Index)指数」もハネ上がった。恐怖指数ともいわれるこの指数がハネ上がったことで、相場全体に悲観的な見方が多くなってきた。

金利上昇が株価暴落につながるケースはよくあることで、1987年の「ブラックマンデー」や2000年の「ITバブル崩壊」も金利上昇が株価暴落の直接原因となった。ブラックマンデーやITバブル崩壊も、共に直近の「金融引き締め観測」が原因で株価が急落している。

特に、ブラックマンデーは、米国の中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度理事会)議長にグリーンスパン氏が就任して2カ月の頃で、今回のパウエル新議長誕生直後のタイミングと似ている。さらに当時は、イランと米国の軍事衝突が懸念されていた時期でもある。

不安になるのは、「100年に1度」と言われたリーマン・ショック級の株価暴落が再び襲うかもしれない、という恐怖だ。今回の株価暴落を、単なる一時的な調整局面とみていいのか。それとももっと構造的なものなのか。その部分をきちんと見極める必要があるだろう。

ただでさえ、ITやAI(人工知能)、ロボティクス、フィンテック、仮想通貨といった時代の大きな変革期に差し掛かっている現在、そうした時代の変革を株式市場は取り込みながら、大きく株価を上げてきた。そんな時代の変化に対して、株価が大きく調整すれば変革のスピードも減速することになる。

問題はなぜ金利が上昇してきたのかだ。ただでさえ景気がいいところに、トランプ政権が打ち出してきた経済政策は、大型減税やインフラ投資、軍事力増強といったインフレを招くような景気政策が並んだ。景気過熱=金利上昇圧力の高まりに投資家が警戒して利益確定を早めた、とみるのがいいだろう。しかし、そんな単純でわかりやすい説明だけで本当にいいのか……。そこに疑問が残る。

本質は「債券バブル崩壊」の前兆現象か?

今回の株価暴落の原因をもう一度整理してみよう。大きく挙げて3つある。

1. 長期金利の急騰……1月の米雇用統計の結果でもわかるように米国経済は好景気そのものだ。にもかかわらずトランプ政権が打ち出す大型減税やインフラ投資は、本来なら景気後退局面に打ち出す景気刺激策と言っていい。当然、インフレ懸念が出て金利が上昇。FRB理事の中には、2018年中にさらに3〜4回の利上げが必要という発言も出てきた。

金利上昇は債券価格の下落を意味するものだが、株式市場にとってはマイナス材料で、その目安は3%と言われる。長期金利が3%を超えると、資金が株式市場からより安全性の高い債券市場に移動を開始するために、株式は売られやすくなる。現在、10年物米国国債の金利は2.857%(2月9日現在)。株式市場が金利上昇によって売られやすくなる水準まであと一歩というところだ。

2. 北朝鮮による地政学リスクの高まり……トランプ大統領が読めない政治家であり、しかも気まぐれであることから「米朝開戦」のリスクが依然として続いている。平昌五輪で、韓国と北朝鮮が融和ムードを演出しているものの、北朝鮮が米国に届く核ミサイル開発を続けていることは事実だ。「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」という投資格言があるが、米国本土にも届く核ミサイルや潜水艦から発射されるミサイルの開発によって、北朝鮮リスクは米国市場にとって「近くの戦争」になってしまった。

3. 過剰流動性を招いた「緩和マネー」バブル……リーマン・ショック以降、各国の中央銀行は競ってゼロ金利、マイナス金利、量的緩和策を実行してきた。ここにきて米国が金利を引き上げ始め、欧州のECB(欧州中央銀行)やBOE(イングランド銀行)なども、量的緩和の縮小や金利引き上げの金融政策に転換を始めている。

「現在の金融緩和策を継続する」と言いながらも、実質的にはテーパリング(量的緩和の縮小)をこっそりやり始めている日本のような国もあるが、いずれにしても世界中にバラまかれた緩和マネーが縮小の方向に向かっている、と言っていい。

緩和マネーの過剰流動性が原因で、株式市場をはじめとして債券や原油、不動産、金、仮想通貨といった資産に資金がバラまかれて、大きなバブルをつくっていたと考えることもできる。リスクマネーと呼ばれる潤沢なマネーが、世界中の金融市場に流れ込んだわけだ。

そしていま、この緩和マネーバブルが弾けようとしている。株式市場はそうした大きな流れを、いち早く察知して株価下落に陥った、という見方もできる。

これら緩和マネーの縮小によっていったい何が起こるのか。

あらゆる金融市場が、ゴルディロックス経済の下で拡大したバブルが、ここにきて弾けようとしているわけだが、中でもとりわけ心配されているのが「債券バブルの崩壊」だ。緩和10年で膨れに膨れ上がった債券市場はここにきて大きく動き始めている。

グリーンスパン元FRB議長も、「本当のバブルは株ではなく債券」とコメントしているように、債券バブルがここ10年間の過剰流動性相場の最たる懸念材料と言っていいのかもしれない。いわゆる「緩和マネーバブル」は、株式よりもむしろ債券市場にある、というわけだ。

500年の歴史を持つ債券バブルの崩壊が招く悲劇か?

ブルームバーグTVは、2017年11月9日の番組で「債券には500年以上の歴史:市場規模は過去最大に」として、米国の債券市場がいまや40兆ドルに達し、株式市場の時価総額30兆ドルを10兆ドルも上回っており、史上最高になっていると指摘している。

ちなみに、リーマン・ショック翌年、2009年末の米国の債券残高総額は約31兆ドル(米国Asset Allocation Advisor社調べ、2009年末調査、以下同)、株式市場は時価総額で14兆ドルで、両市場を合わせた世界の合計は126兆ドルだった。

統一されたデータがないため、はっきりした数字はわからないが、2009年末の世界の債券残高総額は82兆ドル、2012年末には100兆ドルを超えて、2017年には170兆ドル前後に達しているという報道もある。この8年で2倍に拡大したことになる。

債券バブルの崩壊は、簡単に言えば金利の急騰を招く。リーマン・ショックからの立ち直りを早めるあまり、この10年、世界は米国FRBの「非伝統的金融緩和」に始まり、日本銀行の「異次元緩和」など、やや強引と思えるような金融緩和を実施してきた。その緩和マネーの行き着く先で最も多かったのが債券と考えていい。

14世紀のイタリア・フィレンツェが発祥の地と言われる債券の歴史の中で、初めてマイナス金利や非伝統的、異次元の量的緩和が実施され、世界中で金利のほとんどつかない債券が発行され、流通したわけだ。

一部では「現在の経済は株ではなく債券が動かしている」とも評されている。この歴史ある債券市場を、景気後退を避けるために無理やりバブルをつくったのが、この10年の歴史だったと考えていいだろう。

そしていま、この債券バブルが弾けようとしている可能性がある。

問題は、この債券市場のバブルが崩壊したとき、どんな影響が出てくるのかだ。とりあえず、金利上昇によって、株式市場が暴落の危機にさらされることがわかったが、この程度の影響で済むのか。そのあたりの見極めを誤ると大変なことになるのかもしれない。

米国よりもっと怖い日本の債券バブル崩壊?

債券バブル崩壊によって何が起こるのか。最もわかりやすいのは、金利が高騰(債券価格は下落)して株式市場が下落する、というメカニズム。そのほかにも為替市場で金利が上昇する通貨の変動幅が大きくなるなど、さまざまな弊害がもたらされてくる。

たとえば、1994年のメキシコ危機は米国の利上げによって資金が米国に流失し、通貨のペソが暴落。通貨の暴落をきっかけにメキシコが急激なインフレや失業率の悪化に陥っている。

同様に、1997年に起きたアジア通貨危機も、米国の金利上昇と直接の関係はないが、米ドルとリンクしていた通貨が売り浴びせられて下落。タイ、インドネシア、マレーシア、韓国といったアジア諸国の通貨が売られて経済危機が起きた。

要するに、米国の株価が下落したのは「債券バブル崩壊」の前兆である可能性があるということだ。そういう意味では、今後起こることに注視する必要がある。もともとリーマン・ショックは米国が発生源であり、その対応も早かった。したがって、相場の歪みが現れるのも米国が真っ先になる可能性が高い。

そのシナリオとは何か。残念ながら、未来のことは誰にもわからないが、これまでの歴史を繰り返すとすれば、いくつかのシナリオは想定できる。たとえば――

➀米国の金利の引き上げが続く
➁ドル高傾向が強まる
3価は調整局面を繰り返す
た袈醜颪把眠濂射遒砲茲觀从儡躓,頻発する
ド堝飴魂然福∋餮参然福仮想通貨などの価格が低迷する
γ論学リスクがいま以上に高まる

債券バブルの崩壊によって日本に何がもたらされるか。日本の場合、世界的な規模で債券バブルが崩壊した場合、最も大きな影響を受けることになりそうだ。たとえば、株式市場と債券市場の比率を見ると、先進国の平均では株式、民間債券、政府債券の比率がほぼ同程度だが、日本の場合は全体の6割以上が政府債券によって占められている。

それだけ、日本国債の発行比率が高いことを意味しているわけだが、ある意味で日本は歪んだ証券市場と言っていい。言い換えれば、“政府債券バブル”がずっと続いてきたことを示している。

世界の債券バブルが崩壊すれば、日本の政府債券バブルも崩れる可能性が高まる。実際、このところの株価急落で、本来であればもっと円が買われて円高になるのが普通だが、為替市場があまり反応していない。さすがにここにきて1ドル=106円台にまで円高が進んできたが、米国の債券市場で起きていることの影響が、日本でも起きつつあるのかもしれない。

債券バブルの崩壊という事態が訪れないことを祈るばかりだ。