2月13日、金融庁に業務改善計画を提出した後、記者会見するコインチェックの幹部。だが、具体的な説明はほとんどなく、騒動はまったく収まらない(撮影:尾形文繁)

仮想通貨「NEM」の大量流出問題に揺れる仮想通貨取引所大手・コインチェック。同社は2月13日、金融庁に行政命令で求められた業務改善計画を提出した。しかし具体的な改善内容は明らかにされないままで、問題解決の道筋は依然見えない。

それと同じ日。金融庁はある業者に改正資金決済法に基づく警告書を出した。相手は、無登録で仮想通貨交換業を運営していた「ブロックチェーンラボラトリー」(本社マカオ)。仮想通貨交換業の登録を取らずに、日本国内で仮想通貨の売買の媒介を行っていたことが警告の理由だ。

ブロックチェーンラボとは一体どんな業者なのか。記者は昨年10月以降、都内で開かれた同社主催のセミナーに複数回参加した。セミナーでは、ベンチャー企業などが資金調達のために行うICO(イニシャル・コイン・オファリング)で発行される「トークン」が紹介されていた。

「ニュージーランド近くの島国で法的整備」

トークンとは、資金を調達したベンチャー企業がこれから開発するサービスにおいて何らかの形で使用できるようにした「サービスの引換券」だ。トークンに金銭的価値があると見なされると、仮想通貨取引所に上場されて売買も可能になる。

そこで、「取引所に上場された後は値段が上がるので今のうちに買っておきましょう」と勧めるわけだ。未公開株の投資勧誘に近い。

ブロックチェーンラボが勧めていたものの一つが、財布に余っている小銭をATM(現金自動出入機)に入れることでビットコインに両替できるという「CtC」と呼ばれるトークンだった。セミナーでは、CtCはニュージーランド北東にある島国のニウエで法的整備を行っているとアピールしていた。今回の金融庁の警告につながったのが、このトークンだ。

これまでICOで発行されるトークンは、取引所に上場されて不特定多数の間で売買される前であれば、資金決済法の規制対象となる「仮想通貨」には当たらないと考えられていた。だが昨年12月以降、仮想通貨の範囲を金融庁が広めに解釈するようになった。

言い換えれば、この時期に金融庁は投資家保護の姿勢を強めたということだ。実際、ブロックチェーンラボに対して金融庁が最初の照会状を送ったのは昨年12月半ばのこと。

CtCトークンは勧誘の時点において、取引所への上場を謳っていた。それらを勘案し、金融庁は同トークンが仮想通貨に当たると判断したようだ。

講師は「海外投資での成功者」

ブロックチェーンラボは、「BitPlus」(ビットプラス)という新設された海外取引所の利用も勧めていた。「アフィリエイト(成果報酬型広告)特化型」というのが売り文句で、知人を紹介すれば、その知人がビットプラスで取引した額の一定割合を報酬として継続的に受け取れる。紹介すれば紹介するほど、自分も儲かるわけだ。

日本国内で仮想通貨交換業の登録など取引所の整備が進められている一方で、ブロックチェーンラボはおかまいなしの動きをしていたといえる。


ブロックチェーンラボのセミナー風景。会場は満席だった(記者撮影)

セミナー会場にはブロックチェーンラボの従業員もいたが、その役割は基本的に裏方。前面に出て講師を務めていたのは、海外投資での成功者として一部では名の知られた男性である。彼はCtCやビットプラスについて、「マーケティングの部分でお手伝いをしています」と述べていた。

ただ、この男性についてはあまりよい評判を聞かない。タイやフィリピンなどの海外不動産や米国の油田開発ファンドの投資を勧めた顧客からは訴訟を起こされている。裁判は、海外に住む男性の所在地が不明のため、訴えた顧客側の請求がそのまま認められたという。

ブロックチェーンラボに対する警告書は、金融庁発表前の2月11日に日本経済新聞が第一報を伝えた。翌12日、ブロックチェーンラボは報道を受けて、「日本での活動は今後一切行いません」との内容で過去のセミナー参加者などにメールを送信した。

一方で同メールには、「金融庁の許認可を受けているところとも協議をし、日本のルールにのっとった形で(ICO案件を)紹介できるようになればと考えています」と記されている。警告を受けても日本での営業活動はあきらめていないということだろう。

金融庁によると、仮想通貨交換業として無登録であるほかの14社に対しても、「違法の恐れがある」など照会手続きをしているという。

昨年4月の改正資金決済法施行を受け、金融庁は9月に仮想通貨業者の登録制を開始した。騒動のさなかにいるコインチェックは登録申請中で、「みなし業者」の扱いだった。しかし、無登録の業者は「みなし業者」ですらない。

今回、金融庁が照会状を送った業者の中には、中国系のBINANCE(バイナンス)が含まれている可能性がある。同社は取引規模で世界最大級の仮想通貨取引所だが、日本では登録業者ではない。

にもかかわらず、一時日本語で情報を載せていたほか、現在も日本向けを含めたアフィリエイトプログラムを展開している。アフィリエイトに関しては、その報酬の厚遇ぶりが話題になっていた。バイナンスは取り扱い仮想通貨の種類が極端に多いという特徴もあって、口座を開設した日本人ユーザーが多い。

仮想通貨交換業の登録を得ている国内取引所からは、「無登録営業は大問題。金融庁は早くバイナンスを取り締まるべきだ」と指摘する声が上がっている。金融庁が同社を問題視していても不思議ではない。このほかロシア系のYoBit(ヨービット)、香港系のKuCoinなども無登録で日本向けの営業活動を行っているとして、取引所関係者の間で話題になっている。

フィリピンの国家プロジェクト?

照会状の送付など金融庁も努力していると思われるが、残念ながら監視の目は行き届いていないのが実状だ。

ブロックチェーンラボへの警告書発出が発表された、まさにその日。LINEを通じて「NOAH(ノア)コイン」というトークンの最終販売が行われていた。この最終販売で約1億ドルを集めたとされている。


NOAHコインの最終販売を行うサイト(記者撮影)

昨年1月から募集が順次開始されたノアコインは、フィリピンの都市開発を伴うもので、「政財官民が一体となって取り組んでいるプロジェクト」「国家プロジェクト」と喧伝されていた。ところが昨年3月、在日フィリピン大使館が「ノアコインを国家プロジェクトとして承認していない」とサイトで通知。これにより一部返金を迫られることになった、いわくつきのトークンである。

販売を行っていたサイト上には、「ノアコインはすでに上場が決定しています」と明記されており、同トークンは法律上の仮想通貨に当たると考えられる。販売業者のNoah Global innovation Services Limited(英領ヴァージン諸島)は、日本の仮想通貨交換業の登録を得てもいない。なお、このノアコインでも、ブロックチェーンラボの男性講師のようにマーケティングを主導している日本人男性がいる。

政府は仮想通貨について「イノベーションの促進と利用者保護のバランスに留意して、必要な取り組みを進める」というスタンスをとる。世界におけるビットコイン取引のうち約半分を日本円建てが占めており、確かに日本は「仮想通貨大国」といってふさわしい。しかし無登録業者の跋扈(ばっこ)をみると、その内実はあまりにもお寒い。