女同士の闘いなんて、くだらない?

美貌・財力・センスのすべてを手に入れた女たちが繰り広げる、ヒエラルキー争い。

男からは求められ、女からは妬まれ、そして羨望の的となるカリスマ読者モデルの世界。

己の自己顕示欲を隠すことなく曝け出す彼女たちは、時に結託し、時に競い合う。

くだらない、と思うならどうか覗かないで欲しい。

優雅で美しくも、水面下で死にもの狂いで闘う、女たちの醜い生き様をー。

真面目な会計士のあおいは、女性ファッション誌『GLORY』の読者モデルとなり、なぜか景子を始めとするカリスマ読者モデル達に気に入られる。

だが、一緒に行った食事会がきっかけで、女性ならではの特殊な世界に足を踏み入れてゆく。




「何コレ…。」

通勤途中の電車の中でスマホをチェックしていたあおいは驚愕した。

昨晩から、あおいのInstagramのフォロワーが50人近く増えていたのだ。こうしてチェックしている間にも、続々と増え続けている。

よく見てみると、この間の食事会の時に撮ったツーショット写真が景子のアカウントからタグ付けされていた。キャプションは「仲良しのGLORY読モ、あおいちゃんと♥」となっている。

コメント欄には、「お友達も可愛いですね」といったあおいに対する好意的な言葉が並ぶ。素直に嬉しくなった。

しかも、景子がそれらに対する返信に「彼女、才色兼備の美人さんなんです♪」と書いてくれている。

自分のページを見返すと、普段はあおいが投稿しても反応がないGLORY編集部の公式アカウントからも「いいね」が付いており、改めて景子の影響力を思い知った。

「やっぱり、斎藤さんとお食事に行くのはやめた方がいいかな…。」

だが、先週の食事会で出会った斎藤からは、連絡がひっきり無しに来ている。

景子が斎藤を気に入っているという意味深なリナからの密告は気がかりだが、斎藤が自分に好意を持っているのは明白だ。

それに彼の甘い笑顔を思い出すと、どうしても食事の誘いを断ることなど出来なかった。


何もかもが、絶好調...?


アッパーインフルエンサーの甘美な世界


あおいの勤める監査法人は閑散期と繁忙期がハッキリしている上に、昨今の過重労働撲滅の流れに沿って定時に帰宅できる日も多い。

土日祝日もきっちり休めるため、単位を取りながら資格習得に明け暮れていた大学時代よりもずっとプライベートの時間が確保できるのだ。

おかげでデートの約束もしやすい。斎藤とは、『ルメルシマン オカモト』で食事をすることになった。




高校生以来まともに恋愛をしてこなかったあおいにとって、斎藤は信じられないほど魅力的な男だった。

誇張ではなく、どこかの貴公子のような品のある佇まい。かといって固すぎるわけではなく、砕けた雰囲気もある。

恐る恐る景子のことも聞いてみると、以前何度か食事に行っただけだと教えてくれた。子供じみた嫉妬心が生まれたのは事実だが、それよりも斎藤への恋心が勝る。

自分を「可愛い」と褒めてくれる斎藤と食事に行くようになって、あおいはますます読者モデルとしての活動にのめり込んでいった。

もっと洗練されて、もっと可愛くなりたい。そう、景子よりも。

自分でもほぼ無意識に、カリスマ読者モデルの景子を模倣し始めていた。景子のようにハイブランドのアイテムを意識的に購入し、出かける前のヘアやメイクにも以前の数倍の時間をかける。

美容は、時間をかければかけた分だけ効果が出た。以前は自分の姿をインスタにアップすることに抵抗があったが、最近はそれも楽しい。

そんなあおいの変化を受けて、『GLORY』編集部からの扱いも劇的に変わった。

今までは月に1度の撮影だったのが、2度も3度も呼ばれるようになった。大きめのカットに採用されることも多くなり、雑誌の登場回数に比例してインスタのフォロワー数も驚異的な勢いで増えている。

以前は1000人程度しかいなかったフォロワーも、今や1万人を超えた。

もちろん景子の11.5万フォロワーという数字には到底敵わないが、いわゆる「インフルエンサー」としての依頼も毎日のように舞い込む。

高級化粧品のPRを頼まれたり、一流ホテルの女子会プランに泊まって欲しいと言われたりするのだ。

アパレルブランドの宣伝を頼まれることも増え、あおいはコーデ撮影用に大きな鏡を買わなくてはならなくなったほどである。

会社の事務職の女の子達があおいの真似をして服を買ったと聞いた時、「あぁ、自分はついにこのレベルまで来たのだ」と思った。

しかし。

それもこれも、すべて景子達と仲良くしているおかげだと認識している。

だからこそ、景子には絶対に嫌われてはならない。


自己顕示欲の、取り扱い説明書


誹謗中傷は当たり前


「あおいってば、そんなコメント気にしてるの。」

今夜は仕事終わりに、G3メンバーと『ザ・ラウンジ by アマン』に集っている。最近では「あおいちゃん」でなく「あおい」と呼ばれるようになっていた。




話題は、あおいのインスタのコメント欄に投稿される誹謗中傷コメントだ。

珠緒が、さも何でもないことかのように言う。

「私は大学生の時から読モしてるけど、そんなの日常茶飯事よ。昔はブログのコメント欄が荒れたり、2chにスレッドができて色々書かれるって流れがあったけど。今はそれがインスタになっただけって感じ。」

リナもシャンパンを飲みながら続けた。

「そうそう。ブスだとか整形だとか、書かれ放題。まぁ、あおいもアンチができるほど注目されてきたってことなんじゃない?」

しかし、「会計士のくせに遊びすぎでは?」「こいつが担当するクライアントが哀れ」などという罵詈雑言も多い。

大学生の時から読モをしてきたようなG3のメンバーと違って、アンチに対するストレス耐性のないあおいは思ったよりも誹謗中傷に傷ついていた。こんな思いをするくらいなら、インスタも読モも辞めてしまおうかと思うほどだ。

黙りこくるあおいを見て、景子が口を開く。

「匿名で批判してくる人間なんかの意見を真に受けて自分の生き方を変えるなんて、私には信じられないけど。」

まさに今の自分の考えを言い当てられたような気がして、ドキリとした。

「その程度の中途半端な気持ちなら、読モもインスタも辞めちゃえばいいと思う。人に嫌われたくない、って考えるイイ子の居る世界じゃないんだから。」

あおいは、景子の強い口調に思わず引き込まれる。そしてその凜とした眼差しに、この世界で頂点に留まり続ける女の強さを垣間見たような気がした。

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徐々に明らかになる、女王・景子の本性とは?