『図解でわかる 退職マニュアル』(島田弘樹著、ぱる出版)は、職業人生における大きなイベントである「退職」「転職」にスポットを当て、自分自身のライフステージを考えるにあたって必要な知識を紹介した書籍。著者は勤務社会保険労務士として、「サラリーマン目線」による人事労務の問題解決や経営者の労務管理サポートを行なう人物です。

本書では“退職”にまつわる社会保険や税金で必要となる、さまざまな手続きを紹介しています。

今まさに退職に向けてカウントダウンを始めている人はもちろん、間もなく定年を迎える方、なんとなく仕事を続けるか悩んでいる方、転職したいがその勇気が持てない方にも、きっとお役に立つノウハウを載せています。(「まえがき」より)

基本事項がまとめられた第1章「退職するときに必ず心得ておきたい11のこと」のなかから、いくつかのポイントを抜き出してみましょう。

退職するときに必ず心得ておきたいこと

「退職をする」、すなわち「長年勤め続けた会社を離れる」ということは、それまで受けていた「会社員ならではのメリット」から離れるということ。

そのため、以後の生活設計をきちんと築いていくうえでも、「自分に与えられてきたさまざまなメリットがどのように変化するのか」「引き続き同様のメリットを受けようとする場合には、どのような手続きが必要なのか」など、さまざまなノウハウをあらかじめ押さえておくことが必要だと著者は記しています。

さらにもうひとつ心得ておきたいのは、退職することは「会社との関係を永遠に切る」ことではないということ。なぜなら、その後のビジネスで、前職のネットワークが活きることも少なくないから。

そうしたことを考えた場合、退職に臨むうえでの「作法」をきちんと心得ておくことも重要。きちんと引き継ぎもしないまま会社からいなくなるとなれば、残された現場は混乱することになるでしょう。そうなれば、せっかくその職場で築き上げてきたネットワークは崩れ去ってしまうわけです。(20ページより)

会社員であることのメリットを、まずは確認

職業人であることは、「働くこと」に伴うさまざまな権利や義務ともつきあうということ。

働いて収入を得れば、税金を払ったり社会保険に加入しなければなりませんから、働けなくなったときにはどのような社会保障があるのかを知っておくことも必要。しかし会社員の場合、権利・義務にかかる手続きは、会社がやってくれます。そのため退職を考える際には、普段意識していない「会社員であることのメリット」を確認することから始めるべきだといいます。

たとえば自営業者とくらべた場合、会社員であることにより、1.基礎年金だけでなく厚生年金などの上乗せが期待できる、2.雇用保険や労災保険に加入できる、3.通勤手当や住宅手当など給与以外にもさまざまな手当が支給される、4.健康保険料や住民税が給与天引きされるため自分で納付しなくてよい、5.公的医療保険がきかない健康診断を会社の一部または全額負担で受けられる、6.会社の各種福利厚生制度を利用できる(健康保険の傷病手当金なども受け取れます)と、ざっと挙げてもこれだけのメリットがあるもの。

転職によって別の会社に移る場合でも、無職である間は一時的にこれらのメリットを受けられなくなるとか。雇用保険による「失業等給付」はあるものの、自ら申請することが必要で、会社がやってくれるものではありません。そのため、あらかじめノウハウをつかんでおく必要があるわけです。(22ページより)

退職までのスケジュールをきちんと立てる

先に触れたように、退職する以上は多くの仕組みが切り替わるため、身辺が慌ただしくなるでしょう。そこで、退職の日から逆算し、やるべきことの計画を立てておく必要があるといいます。

定年による退職以外は、会社に対して退職の意思を伝えることがスタートライン。「いつまでに意思表示をすればいいか」について民法上では「2週間」となっているものの、「やるべきこと」が立て込んでくることを考えれば、最低でも1カ月くらい前(管理職の場合はさらに1カ月前)には「退職する意思がある」ことを伝えるべき。あとになればなるほど、退職しにくい状況が生まれてしまうからです。

ここで大切なのは、自分の都合だけで勝手に退職日を設定すべきではないということ。会社の繁忙期などには後任者が引き継ぎなどに十分な時間を割けない場合もあるからです。また退職の意思については、まず直属の上司に伝え、しっかり話し合うことが重要。(24ページより)

退職が決まってからのダンドリは?

退職について上司と相談する場合は、直接口頭で話し合うことが基本。メールで伝えるなどはマナー違反だということです。そして退職が決まる前に、むやみに「退職する」と周囲にもらさないようにすべき。なぜなら退職すると噂になってしまうと、取引先からの信頼を失うなど、会社全体の信用問題になってしまうから。

退職日が決まったら、退職願を提出。それが受理されたのちに、担当業務の引き継ぎが行われます。引き継ぎはなにかとスムーズに進まないこともありうるので、できるだけ余裕を持ったスケジュール設定が大切。

内部的な引き継ぎがある程度進んだところで、退職日の1〜2週間前には後任者を連れて取引先などへ挨拶回り。日常的な交流がない会社などに対しても、最低限、退職する旨を記した挨拶状を出したほうがいいそうです。いうまでもなく、今後の職業人生において、どんな縁で誰に会うかわからないからです。(26ページより)

引き継ぎ時の心得は? 引き止められた場合は?

そもそも上司は、退職希望者が強い意思を示せば「引き止めても無駄」と考えているもの。ところが、もし退職希望者の気持ちが定まっていないのであれば、「引き止めの一言」で退職を思いとどまらせる可能性もあります。その可能性を頭に描いているからこそ、上司としては「まずは引き止めの言葉をかける」ことを相談のスタートラインとして設定するわけです。

こうした上司の立場を考えれば、1.なぜ退職希望に至ったか、2.退職したあとにどんな人生を歩むつもりなのか、を真摯に伝えることが必要。1.については「上司に言いにくい事情」もあるでしょうが、なんらかのかたちで自分の決意を示すことが大切だといいます。

そしてもうひとつ重要なのは、引き継ぎに際し、これ以上ないというほど真面目に取り組むことだといいます。退職希望者に対して、周囲は「職場が嫌だから逃げ出すのだろう」という視線を向けるもの。それが有形無形のプレッシャーになると、心理的に前向きな再出発がしにくくなるわけです。(28ページより)

退職金は必ずもらえるとは限らない

退職後の生計などを維持するために、退職金をあてにしている人は決して少なくないはず。しかし退職金は社員への給与とは異なり、会社側に法的な支払い義務はないのだそうです。退職金はあくまで、その会社と社員との間に交わされる「契約上のルール」であり、就業規則に規定が記されている場合に、初めて会社側の支払い義務が生じるというのです。

退職金がもらえるのかどうか、いくらもらえるのかについては、まず会社の就業規則に記された「退職金規定」で確認すべき。その際、チェックしたいのが次の項目だといいます。

1. 退職金が誰に対して支払われるか…一定の勤続年数がないと支払われないといった支給条件をまず確認しましょう。また、嘱託社員などが例外になっているケースもあるので注意してください。

2. 退職後何日以内に支払われるか…規定通りに支払われない場合は、会社に確認を。催促しても支払われない場合は、労働基準監督署などに就業規則を提示して相談してください。なお、退職金の請求時効は5年となっており、賃金請求時効の2年より長く設定されています(※賃金や有給の請求時効については見直しが検討されています)。

3. いくら支払われるのか…退職金の計算方法も会社によって異なります。基本給に勤続年数ごとに設定された数値を乗じるといったケースなど様々です。この場合、退職金として上乗せしてもらうほうが節税になることもあるので、会社側とよく相談してください。(38ページより)

未払いの賃金があった場合は、「立替払い」を受けられる

会社が倒産することによって職を失った場合、賃金の一部が未払いになるといったケースも生じます。こうした場合については、一定の範囲内で、国から労働者健康安全機構を通じた「立替払い」を受けられる制度があるのだそうです。なお、未払い賃金には退職金も含まれるといいます。ただし、この立替払いの制度を利用するうえでは、いくつかの要件があるのだとか。

まず、所属していた会社が、1.1年以上労災保険の適用事業で事業活動を行なっていること、2.破産法や会社法に基づく法律的な倒産に至ったこと(ただし、資本・出資総額が一定以下の中小企業の場合は、労働基準監督署長の認定による「事実上の倒産」も適用)が求められるといいます。

請求する側の要件に関しては、1.最初の破産申し立て(事実上の倒産の場合は労働基準監督署への認定申請)があった日から6カ月前にさかのぼり、そこから2年以内に退職をしていること。2.2万円以上の未払い賃金があることが必要だそうです。

この要件に合致していれば、正社員だけでなく、アルバイトやパートも請求することが可能。なお、立替払いを受けられるのは、未払い賃金の80%に相当する額。ただし年齢によって、以下のような立替金の限度額が設定されているそうです。

1. 30歳未満の場合 88万円 2. 30歳以上45歳未満 176万円 3. 45歳以上 296万円

(40ページより)

こうした基本的な心得を踏まえたうえで、以後の章では「雇用保険」「健康保険」「年金」「税金」の基礎知識と手続き、さらには「退職後の生き方・転職の知恵」までがわかりやすく解説されていきます。いままさに転職しようとしている人のみならず、いずれその日が訪れることを多少なりとも予感している方も、ぜひ読んでおきたい1冊です。

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Photo: 印南敦史