今回は、横浜DeNAベイスターズの岡村信悟社長に球団経営について聞いた(撮影:大澤 誠)

サッカー・ワールドカップ・ロシア大会の開幕まで4カ月を切った。日本の初戦となるコロンビア戦は、6月19日にロシア西部のサランスクで行われる。現在開催中の平昌五輪が終われば、一気にワールドカップムードが高まるだろう。
国内サッカーに目を向けると、Jリーグ人気は近年右肩上がりだ。総入場者数は2017年に970万人となり、過去最高を更新した(J1、J2、J3のリーグ戦合計、カップ戦や入れ替え戦などは含まない)。また、Jリーグは動画配信サービスDAZNを運営する英・パフォームグループと放映権を10年総額2100億円で付与する契約を昨年結ぶなど、ビッグマネーが動いている。
一方で、サッカークラブ経営は儲からないと言われて久しい。Jリーグの全53チーム中、22チームが営業赤字に陥っているのだ(2016年度)(詳しくは2017年12月10日配信「Jリーグに『赤字クラブ』が多い本当の理由」参照)。
本連載では、サッカー関東リーグ2部(J6相当)のクラブチームで、Jリーグクラブとの経営連携も進めている「早稲田ユナイテッド」の代表を務める筆者が、サッカークラブ経営において何が本質的な問題となっているのか、分析する。

第2回は、スポーツビジネスにおける経営改革の成功例として知られる、プロ野球の横浜DeNAベイスターズの岡村信悟社長に話を聞いた。

野球とサッカー、競技は違うものの、チケット・スポンサー・放映権・グッズといった収入構造は重なる。しかし、サッカーは放映権収入をJリーグが管理し、各クラブに配分するという「社会主義的」な方式を採る一方、野球は各球団が放映権を独自に営業する「資本主義的」な方式を採用する、といった違いがある。これらが経営にどのような影響をもたらすのか探った。

――2011年12月にTBSから横浜ベイスターズの経営権を取得してから初めて、2016年度は黒字を達成しました。観客動員数の増加が大きな要因かと思いますが、どんな手を打ったのでしょうか。

そもそも横浜DeNAベイスターズはDeNAにおけるスポーツ事業セグメントの中核という位置づけなので、おカネを親企業から出してもらおうという概念がない。だから、自分たちでセグメントの収益を上げないといけない。


野球は正直言うと、昔は「負けないビジネス」だった。高度経済成長期の誰もが新聞を買う時代、ジャイアンツ戦のチケットは読売新聞の最大の販促ツールで、系列の日本テレビで放送される野球中継を世の中の人はみんな見ていた。

そうすると「放映権」収入がほかの球団にもジャイアンツ戦に付き合うときだけ入ってきた。その収入があれば、あとは赤字でもなんでも、そもそも事業という概念じゃなくても、オーナー企業の広告塔であれば良かった。

地上波での野球中継は激減

ただ、今は違う。地上波における野球中継は激減し、既存の放映権ビジネスは崩れた。そしてDeNAは放映権ビジネスの崩壊後に球団経営に参入している。放映権以外の収入には、チケットとグッズと広告があるが、どれも基本的にはスタジアムにお客さまが入ってくれないと収入にならない。なので、今ではリアルのスタジアムにお客さまを呼んで稼働率を上げることが経営課題になっている。

お客さんに来てもらうには、地域アイデンティティと結び付くのが大事だ。Jリーグは発足当時から地域性の強いかたちで始まったけれど、野球はもともとジャイアンツ戦に依存した、全国型のコンテンツだったわけです。


岡村信悟(おかむらしんご)/ディー・エヌ・エー 執行役員スポーツ事業本部長、横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長、横浜スタジアム代表取締役社長。1970年1月生まれ。 東京都出身。1995年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了後、 郵政省入省。2014年、総務省情報通信政策局郵政行政部企画課企画官(国際協力担当)。2016年4月ディー・エヌ・エー入社、横浜スタジアム代表取締役社長。同年10月横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長就任(撮影:大澤 誠)

地方チームといえば、せいぜい首都圏のジャイアンツさんに対抗するアンチジャイアンツという位置づけで、目立っていたのは名古屋とか近畿圏の阪神くらい。もちろん地域アイデンティティがまったくなかったわけではないが、基本的には全国みんな、ジャイアンツファンかアンチジャイアンツという構図だった。

でも、今は旧来のジャイアンツモデルじゃなくて、北海道や東北、福岡、横浜といった地元に支えられているというモデルに転換しつつある。僕たちも横浜に支えられて、スタジアムが盛り上がっている。

――ある意味、Jリーグに近付いているんですね。

そうだ。Jリーグは当初から放送というより観戦に重きを置いてきた印象がある。スタジアムで共感し合い、生の感動を味わう。応援している同士の連帯感とか、共感力というものがあって、さらに没入していける。個別の選手も重要だけど、鹿島が勝つとか、浦和が勝つとかいう、地域アイデンティティが大きな役割を果たしている。

――動員数の増加には、横浜スタジアムの子会社化も影響していますか。

球団と球場の経営が一緒だから、意思決定者も一緒で、球場の演出などすべて協力できる。いかにファンや地域とコミュニケーションを取るかが大事だが、その量をたくさん、タイミング良くできるのは球団と球場が一体だから。

もちろん一体経営前もお互いに協力していたと思うし、経営母体が一緒になったから急に協力できたわけではない。ただ、別の会社は別の論理で動き、別の社長が最終的な意思決定をする。スピードやできること幅が異なる。今は球団と球場の営業部隊も一体になっている。

ジャイアンツの場合は、(本拠地の)東京ドームは別会社なのでジャイアンツはまさにジャイアンツで儲け、東京ドームは東京ドームで儲けている。両方とも事業規模が巨大だから、両方とも収益を上げられる。僕らの場合は、それぞれの規模が小さいので、まだまだこれから伸びしろがある。神奈川県民は900万人もいるから。

――今後はどのように成長を維持するのでしょうか。

まず、徹底的この横浜の地盤を厚く堅くしなくてはいけない。具体的に言うと、今は横浜スタジアムには約2万9000人しか入れず、年間70試合ほどしかない。つまり、どんなに頑張っても、年間200万人しか入れない。しかも、その200万人はすでにほぼ達成している(編集部注:2017年の観客動員は198万人)。そのため、2020年完成に向けて、現在横浜スタジアムは大規模な増改修に入っている。完成時には約35000人収容できる規模のスタジアムになる。


横浜スタジアムは関内駅徒歩2分という立地も魅力(写真:gandhi / PIXTA)

――ほぼ100%なんですね。

なので、現在のキャパシティだとチケット収入は頭打ち。チケットをあまり高くするとお客様が入りにくくなる。

ただ、昨シーズンのように日本シリーズに出たり、今度はセ・リーグで優勝したり、日本一になったり、常勝軍団になったりすれば、横浜ファンが熱狂して独特の空間をつくり、全国コンテンツになる可能性もある。

お手本はバルサ

(スペインのプロリーグ、リーガ・エスパニョーラのクラブの)FCバルセロナがいいお手本だ。バルセロナという都市とバルサは切り離せないが、世界的コンテンツでもある。今のスポーツは、その地域のアイデンティティをしっかり持ってローカライズすることが、普遍性を持つコンテンツになると思っている。

そうすれば、チケット、グッズ、広告収入を最大化できる。ただグッズは、試合に来たお客様に買っていただくだけではなくて、全国から通販で買ってもらえるようにしたい。全国コンテンツになっているカープさんがいい例。

要は、売り上げとか営業利益が3倍になってほしいと思っている。なぜかというと、政府は現在5兆5000億円のスポーツ産業を、10年後に15兆円に拡大させる目標を掲げている。当然、わが球団のコンテンツの価値というのも3倍にならなきゃいけないので、売り上げは3倍を目指す。

――売上高3倍はかなり意欲的な目標です。

興行だけでは難しい。ホームゲームは1年に約70日しかないから。だから、興行のない300日弱も、イベントなどを開催してスタジアムがあるこの街の交流人口を増やし、余暇消費をしていただきにぎわいをつくる必要がある。これはわれわれがスタジアムを持っているからこそできることだ。

われわれは「都市空間創造球団」になりたい。これはアメリカではすでに起こっている話だ。ニューヨークのブライアントパークなんかも、公園を民間が運営することによって、いろんなイベントを開催してにぎわっている。同じように、プロバスケのNBLのアリーナと野球のスタジアムが隣接していて街全体がスポーツのにぎわいをつくっているところもある。

僕らが夢見ているのは、横浜スタジアムに隣接して魅力的な商業ビルがあって、そこにビアホールがあってパブリックビューイングでにぎわう街。現在、すでにスタジアムの約2万9000席はほぼ満員なので、毎試合3000人ほどが、公園のパブリックビューイングでビールを飲みながら観戦している。野毛の飲み屋にいるおじさんたちも、お酒を飲みながらベイスターズの試合を見ているかもしれないけれど、そのにぎわいが横浜スタジアムを中心に広がればいい。街自体をエンタメ空間にしたい。

市役所移転が転機に


関内の街を「エンタメ空間」にしたい(撮影:大澤 誠)

われわれが勝手にそう考えているのではなく、横浜市もこの関内の街のにぎわいをつくってほしいと思っている。なぜなら、(関内駅前にある)横浜市役所が移転するから。市役所にはだいたい5000〜6000人働いていて、この街は実は、平日は市役所の職員で成り立っている街。それがごそっと抜けっちゃったら、空洞化してしまう。それを埋める可能性のあるものとして、横浜スタジアムと周辺開発がある。

だから、われわれがもっと積極的に街づくりにも関与して、より魅力的な空間をつくりましょうと言っている。公共の磁場をスポーツで作っていきましょうと。横浜、神奈川を基盤とした、スポーツ産業の拠点ができる。そこはエンタメ、ビジネス、観光空間にもなりうる。

――市役所はいつごろ移転するのですか

2020年。この横浜スタジアムの大改築が終わるのと同じ年だ。

――市役所跡地はどうなるのでしょうか

主導が横浜市なので、まだ跡地が何になるかという決定はされていないが、われわれはそれらの計画に積極的に参加したいという意思は持っている。

――話は変わりますが、野球はサッカーに比して、プロ参入の障壁が高くなっています(編集部注:サッカーの場合、Jリーグ参入はJFLで昇格圏の順位を獲得し、施設基準等をクリアすれば参入可能である一方、野球は高額な加盟料の納付のほか、オーナー会議等の審査に通る必要があります)。プロを目指すチームの少なさが、野球人口の減少にも影響しているという見方もありますが、その点どうお考えでしょうか。

野球人口の減少については、危機感は持っている。だから、われわれは子どもたちに野球を好きになってもらう取り組みを強化している。幼稚園児に「ティーボール」という簡単な野球をアレンジした競技をつくり、親しむ機会を提供するほか、スペシャルアドバイザーとして三浦大輔さんにも参加してもらっている。ベイスターズの帽子を子ども対象に約70万個を配ったり、選手が寮で食べている「青星寮カレー」を学校給食として横浜市で約20万食提供するということもやっている。

ただ、何も全人口が野球をやる必要はないと思っている。多様な社会で、いろんな価値観で得意不得意がある。僕自身は野球が大好きだけど、子どものころの自分の運動能力から言ったら、野球なんて無理。やっぱり自分に合ったスポーツを楽しめるのが重要で、猫も杓子も野球が一番という世界は、僕はいらない。野球は魅力あるスポーツなので、取り組むきっかけさえあれば、未来の筒香(嘉智選手)みたいな子は生まれると思う。