公明党の山口那津男代表は憲法をめぐっては慎重な姿勢を崩さない。写真は2月1日、2017年度補正予算が成立し、安倍晋三首相と握手(写真:共同通信)

安倍晋三首相が狙う憲法改正がジワリと動き出している。自民党内の議論が進み、安倍首相の求める「憲法9条に自衛隊の存在を書き加える」案などが焦点となってきた。ただ、改正実現には多くの壁が待ち受ける。

相互に関連する「4つの壁」

(1)自民党内の議論をどうまとめるか、(2)与党の一角である公明党が了解するか、(3)立憲民主党など野党が国会での話し合いに応じるか、(4)国民投票で否決される事態は回避できるか――。実は、この4つの壁は相互に関連している。次の壁が乗り越えられないとみられれば、前段階の動きが滞ってしまうのである。

自民党の憲法改正推進本部(細田博之本部長)は自衛隊、緊急事態、参議院の合区解消、教育の無償化の4項目を憲法にどう書き込むかをめぐる議論を進めている。このうち、自衛隊については、現在の9条1項(戦争放棄)、2項(戦力の不保持)を維持したうえで自衛隊を憲法に明記するという安倍首相の案と、2項を削除して自衛隊を国防軍などと位置づけるという従来の自民党の改正案が議論の軸となっている。

安倍首相は国会答弁で「自衛隊員たちに、君たちは、憲法違反かもしれないが、何かあれば命を張ってくれというのか」などと繰り返し、多くの憲法学者らが自衛隊=違憲論を唱えている現状を改めるべきだと主張している。

これに対しては、多くの反論がある。

まず、歴代の自民党政権は自衛隊を合憲と位置づけてきたし、共産党を除く与野党も自衛隊を合憲としている。「違憲」と主張する政治勢力が限られる中、安倍首相の「違憲解消論」は強引な憲法改正の理屈付けだという指摘である。

9条は戦力の不保持を明確にしているのだから、自衛隊は「戦力ではない」とわざわざ定義づける必要があるのかという批判もある。さらに、自衛隊を明文化することで、集団的自衛権の限定的な容認を盛り込んだ安全保障法制を追認するという見方も出ている。

従来の自民党案では公明党の賛同を得られない

自衛隊「追加」の背景には、安倍首相の政治的判断がある。2項削除で国防軍の新設という従来の自民党案に固執すれば、論理的整合性は取れるかもしれないが、公明党の賛同は得られない。

改憲には衆参両院で3分の2以上の賛成を得て発議しなければならないため、現状では公明党の同調が不可欠。その公明党への配慮から、2項を残したまま自衛隊を書き加える案を推進しているわけだ。

これには、安倍首相のライバルである石破茂元幹事長が強く反発。自民党の憲法改正草案にのっとり、「2項削除、国防軍新設」の方針を維持するよう訴えている。

石破氏にも政治的な狙いがある。自民党が長年議論してまとめた「2項削除、国防軍新設」案には、党内のベテラン議員の支持が多いうえ、安倍首相の案では自衛隊や自衛権の役割などをめぐって、再び論争が巻き起こり、収拾がつかなくなる可能性がある。そこで「原理原則」を唱え、安倍首相との「差異化」を図ろうという狙いだ。

さらに「異変」が起きている。公明党内で、憲法への自衛隊の明記に対する慎重論が高まってきたのである。

公明党はもともと、憲法については新たな項目を加える「加憲」の立場。太田昭宏元代表らも、自衛隊について9条に書き加える案は公明党内の理解が得られると安倍首相に説明してきた。

しかし、現在の山口那津男代表はもともと、憲法改正に慎重だ。「今の政治は、憲法改正より社会保障や教育など現実的な課題にエネルギーを注ぐべきだ」というのが持論。加えて、山口氏は最近の国政選挙の遊説などを通じて、公明党の支持母体である創価学会の婦人部から強く支持されている。山口氏の演説会場では、婦人部メンバーの「なっちゃん」コールが響き渡る。もともと婦人部では憲法改正に慎重論が強く、その影響が公明党に及んでいる。

こうした事情を踏まえて、安倍首相に近い政府高官は最近、憲法問題についてこう話した。「公明党は、2019年春の統一地方選と夏の参院選まで憲法論議は進めたくないのが本音だ。そうである以上、政権としても憲法改正を強引に進めるわけにはいかない」。

公明党の協力が見込めないと、党内論議もしぼむ

第2の壁である公明党の協力が見込めないという事情は、第1の壁の自民党内論議に跳ね返ってくる。「公明党が乗ってこないなら、自民党内の議論を進めても意味がない」(自民党憲法改正推進本部の有力メンバー)というわけだ。

立憲民主党など野党は、憲法は権力を縛るという「立憲主義」について安倍政権のスタンスが明確になっていないと問題提起を続けている。本格的な改憲論議に入るには程遠い状況だ。その後には国民投票での過半数の賛成という高い壁が待ち受けている。英国のEU(欧州連合)残留を問うた国民投票が否決され、当時のキャメロン政権が倒れたように、憲法改正国民投票は安倍政権の存続可否に直結する。

第2、第3、第4の壁の困難さを考え、自民党内の議論が失速してくるのか。それとも安倍首相がネジを巻いて議論を加速させるのか。政権の帰趨にも直結する憲法論議は、最初の山場を迎えつつある。