北朝鮮による核・ICBM開発問題、ならびに平昌オリンピックを利用しての南北対話の開始などによって、南沙諸島における中国の武装化が国際社会で目立たなくなってしまっている。そんな状況にますます危機感を強めるフィリピンは、中国人工島建設の進捗状況を物語る写真を数点公開した。それらには、人工島内に建設された“立派な”建造物やレーダーサイト、監視塔、灯台などが鮮明に映し出されている。

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「人工島建設は国際貢献」?

 今回フィリピンが公開した写真以外に、米シンクタンクや米国防総省なども南沙諸島の中国人工島建設状況に関する空中写真などを断続的に公表している。

 それらの写真情報によると、かねてより明らかになっていた3つの人工島に設置された3000メートル級滑走路の周辺には、格納整備施設をはじめとする建造物などが着々と整備され、航空基地が完成しつつある。それらの主要人工島だけでなく7つの人工島すべてにさまざまなレーダー設備や通信施設が設置されており、南沙諸島に点在した人工島をネットワーク化した中国人民解放軍の前進軍事拠点(南沙海洋基地群)が完成するのは間近と考えられる。

フィリピンが公開したファイアリークロス礁の状況


フィリピンが公開したジョンソンサウス礁の状況


 

 南沙諸島に地理的に最も近接しているフィリピンが、「中国が南沙諸島で人工島を建設し始めているらしい」との情報をいち早く国際社会に向かって発信したのは、2014年初頭のことであった。まもなく中国当局による人工島建設計画が明らかにされ、実際にいくつかの環礁で埋め立て作業が開始されていることが確認された。

 それからわずか4年足らずのうちに、7つもの環礁(それらの多くは満潮時には海面下に水没する暗礁である)が人工島へと生まれ変わってしまった。それら人工島は、本格的滑走路、ヘリポート、港湾施設、強固な(と思われる)建造物群、レーダーサイト、通信施設、監視塔、巨大な灯台などが林立する軍事拠点へと大きく変貌を遂げてしまったのだ。

 中国当局によると、南沙諸島にナビゲーション設備や気象観測施設を設置することによって、南シナ海での海上交通や航空交通の安全性が格段と高まり、漁業従事者などにとっても操業の安全が確保されるとしている。そして万一、事故や遭難などが発生した場合にも、それら人工島に設置された各種施設を拠点にしていち早い救難活動が展開することができることを強調している。南沙諸島での人工島建設は、まさに「中国による国際貢献の最たるものである」と胸を張っているのだ。

南沙諸島に中国が造成した人工島(黄色)


「軍事施設の設置」が実効支配の証拠に

 南沙諸島を巡って中国と領有権紛争係争中のフィリピンやベトナムをはじめとする南シナ海沿岸諸国や、公海航行自由原則の維持を国是とするアメリカなどは、南沙人工島での軍事施設建設をもちろん非難している。だが、中国側はそうした非難に対して、「中国固有の領土である南沙諸島に軍事的防衛施設を建設するのは、国家主権を守るために当然の権利であり、国家としての義務でもある」と反論している。

 確かに中国側の主張するように、大型灯台、通信施設、レーダーサイト、監視塔、3000メートル級滑走路、ヘリポート、港湾施設などは、ナビゲーション関連施設、気象観測施設、そして救難施設とも見なすことも可能である(そもそも軍事施設はナビゲーション、気象観測、救難行動に有用であり、区別することはできない)。

 そして、「南沙諸島が中国領なのかフィリピン領なのかベトナム領なのか」といった領有権問題に関する判断とは切り離した場合、「領有権を保持している国家が防衛設備を建設するのは権利であると共に義務である」という“理屈”も、それ自体は荒唐無稽な主張ではない(もちろんフィリピンやベトナムなど係争国にとっては「100%受け入れ難い」主張ではあるが)。

 中国の“理屈”を逆説的に言い換えるならば、中国が南沙諸島の領有権を名実ともに手にするためには、誰の目から見ても「中国が南沙諸島を実効支配している」という状況をつくり出し、維持しなければならない。すなわち、「国家主権がおよぶ領域に軍事的防衛施設が設置されている」ことこそ、「その領域を実効支配している」目に見える形での証拠ということになるのだ。

無力だったアメリカ

 中国が実際に暗礁を人工島に生まれ変わらせ、それらの人工島に様々な施設を建設して多くの人員を“居住”させてしまった場合、現実的問題として、それらの人工島を「元の状態に戻せ」あるいは「人工島を放棄して立ち去れ」といった要求を中国側に突きつけることは、不可能である。それは人工島建設開始当初から誰の目にも明白であった。

 しかしながら、海洋軍事力が中国とは比べることができないほど貧弱なフィリピンや、やはり海軍力が弱体であるベトナムなどは、軍事力を背景にした強硬姿勢をもって中国の南沙人工島建設に対抗することは、とてもできない相談であった。

 そして、フィリピンが軍事的に依存している同盟国アメリカとしても、人工島建設作業そのものは軍事行動とは見なせないため、海軍力を動員しての牽制には無理があった(もっとも、オバマ政権は中国を刺激しない政策をとっていたため、人工島建設作業を軍事的に阻止することなど思いもよらなかった)。

 とはいうものの、アメリカとしては、フィリピンだけでなく日本などアメリカに軍事的に依存している同盟諸国の手前、南シナ海での中国の覇権的拡張行動に対して、なんらかの軍事的牽制を加える姿勢を(たとえポーズであっても)示さないわけにはいかない。そこでオバマ政権およびトランプ政権が実施しているのが、南沙諸島や西沙諸島での「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)である。

 中国人工島建設を牽制する意図を持ったFONOPは、2015年10月27日の開始以来、合わせて9回(オバマ政権下で4回、トランプ政権になってこれまで5回)実施された。だが、中国による人工島建設そして軍事基地化はまったくFONOPの影響を受けることなく、着実に進んでいる。

 それどころか中国側は、「アメリカ海軍によるFONOPにより中国領域が軍事的脅威を受けている」と主張し、「軍事的脅威に対抗するために南沙諸島や西沙諸島の防備を強固にしなければならない」という論理により、対空ミサイルや対艦ミサイルを持ち込み、戦闘機部隊を配備するなどますます大っぴらに南沙人工島の軍備増強を加速している。

 結果だけを見れば、アメリカの実施している南シナ海でのFONOPは、中国側に対する牽制効果などゼロであり、逆に中国当局に対して南シナ海での軍備増強を実施する口実を与えているだけである。

腹をくくらねばならない日本

 アメリカ当局はこのような事実を無視して、戦略変更をすることなく惰性的にFONOPを続けており、まさに無策と言うしかない。

 南シナ海だけでなく東シナ海でも中国の軍事的脅威と直面している日本としては、アメリカに路線変更(もちろん日本による積極的関与も含めて)を迫る必要がある。それとともに、「尖閣諸島は日本固有の領土である」という事実を「誰の目から見ても日本が実効支配している」という状態を造り出すことによって担保しなければならない。

 南シナ海での現状は、「アメリカ軍事力への神頼み」あるいは「アメリカ軍事力の威を借る」ことが、中国の膨張主義的海洋進出戦略の前にはもはや無力であることを示しているのだ。

筆者:北村 淳