バージニア・コモンウェルス大学の大学院、ブランドセンター(VCU Brandcenter)の学生だったシィア・ドゥ氏とヤンチ・ウー氏は2016年、カンヌ・フューチャー・ライオンズ賞を受賞した。彼らが出品したのはAmazonエコーと人工知能を組み合わせて、高齢者の痴呆に対抗するアプリケーションのコンセプト「Amazon Emma(エマ)」だ。

自然言語処理とマシーンラーニングアルゴリズムを活用することで、Amazon Emmaは高齢者ユーザーと自然な会話を行う。その会話の目的は社会から孤立しているという感覚を減らすこと、そして知的な刺激を与えることだ。新しいテクノロジーを使ってユーザーたちのニーズに応えるという、まさにエージェンシーやブランドが常に抱えている目標を達成しているため、カンヌでの受賞となった。

ますます多様化する消費者とのつながりを発展させるため、エージェンシーやブランドはAIに可能性を見出している。Amazon Emmaが提供するような体験を生むことが、マーケターに求められているのだ。それを受けて、アメリカ中の広告ビジネスを教える学校が、新しくAIについての学習を取り入れた学位プログラム、ブートキャンプ、講座をローンチしている。カリキュラムに関して、ブランドのなかには学校にアドバイスを与えているところも出てきた。

新しいカリキュラム



前述のブランドセンターにおけるビジネスプログラムや、ジェネラルアッセンブリー(General Assembly)といった教育機関は、これまでも長年インタラクティブデザインのカリキュラムを抱えてきた。いま、彼らはAIをその教育課程に取り組むため、新しいコースを設置したり、古いコースを再活性化しようとしている。またセンターセンター(Center Centre)のような新しいUX(ユーザー体験)デザインの学校はその中心にAIのコースを据えている。

多くの場合、AIのコースはUXデザイン学位プログラムにおいて教えられる。そこでは学生たちは複数のチャンネルにおけるUXデザインについて学ぶ。単純にユーザー体験を改善するための技術だけでなく、拡張現実や仮想現実といったほかのテクノロジーも使われる。

ドゥ氏とウー氏はブランドセンターを2017年に卒業した。彼らはブランドセンターのUXデザイナー第1期生だ。ユーザーにフォーカスを当てたデザイン講座を、クリエイティブテクノロジープログラムにおいてブランドセンターが開設したのは、約10年ほど前だ。この点でマーケティング業界よりも先を進んでいたことがわかる。3年前にブランドセンターはクリエイティブテクノロジープログラムの再活性化を行った。名称をユーザーエクスペリエンスデザインとし、データトラッキングやユーザのエンゲージメントにまつわるクラスをローンチした。しかし、マーケティング業界においては、新しいテクノロジーが次々と導入されるため、プログラムはいまでも流動的な状態だ。

先を見据えた動き



2018年の秋学期では人間と機械のインタラクション関連、そしてAI関連のクラスをさらに増やす予定だ。ブランドセンターの体験デザイン教授であるアンドリュー・ラバサー氏は「このふたつの分野は大きく成長しており、我々は常に先を考えないといけない」と語る。

ジェネラルアッセンブリーもまたAI関連のコースを増やしつつある、と語ってくれたUXデザインの主任教官タイラー・ハートリッチ氏は、10週間のUXクラスを教えている。

「UXデザイナーが、自分の分野においてどうやって重要性を増すことができるのか。これが大きな意味での課題となっている。クリエイティブエージェンシーやプロダクトチームのすべてがAIに取り組もうとしている、とまではまだ至っていない。しかし、今後12カ月から15カ月のあいだにそれが実現したとして、いま我々が何もそれに対して教えていなければ、ウチの学生たちは時代から遅れてしまうのだ」と、ハートリッチ氏は語った。

UXデザイナーという役職



UXデザイナーたちが学校を卒業したあとにエージェンシーや大手テック企業、ブランドにおいて勤める仕事の種類は多岐にわたる。ラバサー氏によると、この1年間に誕生した新しい職種に「AIデザイナー」があるとのことだ。

UXデザイナーたちは会社のなかでトップレベルの役職まで上り詰めることもできる。リンクトイン(LinkedIn)が「2018年に台頭する職業トップ20」として発表したなかには、最高顧客体験責任者というポジションがある。顧客体験を管理する部門のトップだ。これはCEOやCMOといった、ほかのCレベルの役職に並ぶ。

ラバサー氏は言う。「従来の役職名がただ単に変わったというわけではない。ブランドが解決しなくてはいけない問題の種類に合わせて、あらゆる人材の役職が再定義されているのだ」。

どんどん高まるニーズ



AI関連の役職に対して業界におけるニーズが存在していることは確実だ。世界広告主連盟(WFA)が11月に発表した調査によると、予測モデルといったAIスキルの欠如を73%のマーケターが体験しているという。これはARやVRといった需要の高い、ほかのテクノロジーと比べても高い数字となっている。

業界全体で、UXデザイン人材には非常に高い需要が発生している。UXデザイナーたちが卒業後最初の仕事で得る給料の高さがそれを実証している。昨年12月に、ブランドセンターは1998年から2017年のあいだの卒業生を対象に調査を行った。その結果わかったのは、エントリーレベルのマーケティング関連の職種ではジュニアレベルの体験デザイナーが平均して、年6万8125ドル(約745万円)ともっとも給料が高いということだった。これはジュニアレベルのアートディレクターやコピーライター、ブランドマネージャーと比べても約1万ドル(約110万円)ほど高い数字となっている。

ラバサー氏は「過去3年間のあいだに、体験デザインの仕事がより目立ち、より価値を持つようになった。特にジュニアレベルの仕事に払われる給料を見ると明らかだ」と語る。

ブランドたちのサポート



しかし、常に業界のトレンドの先を学生たちに教えることは簡単ではない。広告/デザイン学校は最先端のテクノロジーに注意を払わなければいけない。学生たちが卒業するときに仕事で求められるスキルをちゃんと身に付けているように、こういったテクノロジーを有効にカリキュラムに組み込まなければいけないのだ。

その手助けとなるため、ブランドたちはAIやUXのトレーニングに関して学校にサポートを提供している。サバンナ芸術大学(SCAD)は2015年11月、Googleの助けのもと、UXの学士プログラムを開発した。ジェネラルアッセンブリーはIBMからカリキュラムのアドバイスを受け取っている。

「いまから5年後に、マーケターがAIを理解していなかったり、アナリティックスやデータの扱いに精通していなかったり、もしくはUXの専門家でもなければ、選択肢は非常に限られたものになってくるだろう」と、IBMの最高マーケティング責任者であるミシェル・ペルーソ氏は言った。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:塚本 紺)