専守防衛というときの防衛力とはどんなものか(撮影:梅谷秀司)

緊迫する東アジア情勢の中で、日本の「安全保障」をどうとらえればいいのか。『戦争の大問題』を上梓した元・中国大使の丹羽宇一郎氏が、衆議院議員・石破茂氏との対談に臨んだ。その後編をお届けする。

前編:日本は今こそ「核問題」を真剣に議論すべきだ

私は防衛と安全保障は違うと考えている。防衛とは敵国がいて、その敵国の軍事力に対抗するために備える力である。防衛とは敵がいて成り立つ力対力の図式だ。

一方、安全保障とは、国民と国土の安全と平和の確保が目的である。国民と国土の安全と平和を守るための手段は、武力だけではない。最善の安全保障とは敵をつくらないことだ。平和条約のみならず、外交努力や経済・文化交流も有力な安全保障の手段となる。防衛が力対力であるのに対し、安全保障は話し合いが基本にある。

力対力の出口は戦争である。したがって、国家間の紛争については、できるだけ話し合いというものを前面におく――できるかどうかは別としても、トップはそういう方針を堅持すべきだ。それが世界の全体のためにもいいと思っている。

では、防衛力は無用かというと、必ずしもそうとは考えていない。やられたらやり返す力がなくて一方的にやられるようでも困る。日本は専守防衛であるが、専守防衛というときの防衛力とはどんなものかについても考えないといけない。安全保障とは、また別の切り口で議論すべき問題である。

そこで前回に続き、この方面で政界随一の石破さんにお話を聞いた。

石破茂(以下、石破):私は1回しか北朝鮮に行ったことはありません。今から25年前、まだ拉致問題も表に出ていなかったし、核実験も、ミサイル実験もしていない。


石破 茂(いしば しげる)/1957年2月4日生まれ。自民党衆議院議員(鳥取1区)。慶応義塾大学卒業後、1979年三井銀行入行。1986年、鳥取県知事だった父の死後から約5年後、28歳で衆議院議員初当選(当時最年少)。1993年自民党を離党するなどして新進党結党に参加、その後自民党に復党。2002年防衛庁長官(第1次小泉内閣第1次改造内閣)として初入閣。以来、防衛大臣、農林水産大臣、党政調会長、幹事長、地方創生担当大臣を歴任(撮影:梅谷秀司)

そんな時代に、金日成主席の80歳の生誕記念日ということで、自民党、社会党、公明党の3党で祝賀団を編成したことがありました。私はお祝いする気がないにもかかわらず、一度見たくて行ったんです。

私も感性の鈍い人間ですが、あんなに驚いたことはない。大スタジアムでマスゲームをやる。ストーリーは、日本兵が朝鮮の人たちをいじめている。そこへ白馬にまたがった金日成主席がさっそうと登場して、日本兵を撃ち殺す。夜は夜で、オペラ大会でまったく同じストーリー。徹頭徹尾、反日です。これで国民が反日にならないはずはない。

丹羽宇一郎(以下、丹羽):中国でもごく最近まで、日本兵をやっつけた、中国共産党バンザイとやっていたのとあまり変わらないですね。

石破:たぶん一緒だと思います。徹底した反日と個人崇拝で、国民をマインドコントロールしている。この国は怖いなと思って、私はそこから本格的に防衛や安全保障の仕事を始めたんです。

ロシアの国防大臣が分析した北朝鮮

石破:防衛庁長官の頃、当時のロシアのセルゲイ・イワノフ国防大臣と2人で話をしていて、なぜソ連は崩壊したかと尋ねたことがあります。イワノフ大臣は、「それは国民が、アメリカは自由だ、日本は豊かだ、クレムリンの言うことはみんなうそだと知ってしまったからだ。国民に本当のことを教えると独裁政権は倒れるものだ」と。

さらに、「ルーマニアのニコラエ・チャウシェスク政権が倒れたときは軍によって大統領夫妻が銃殺された。つまり、独裁政権は軍を大事にしなくても倒れる。イラクのサダム・フセイン政権が倒れたのは、核を持たなかったからだ」と。

まだ金正日時代でしたので「あの金正日は、それを全部学んでいるから倒れないぞ」と、こう言われたのをよく憶えています。

丹羽:金正恩も3代目として、2代目までの思想を受け継いでいるんでしょうね。

石破:そう考えるほうが普通じゃないでしょうか。

丹羽:国際政治を見ても長期政権は腐るんです。人間、どんなに立派でも、やっぱり権力というものは長く持つと自ずと腐っていくんです。これは現在の日本の政治も、習近平も、ウラジーミル・プーチンも、みんな一緒です。

石破:そうでしょうね。金正恩に何か意見したら次の日はその人はいないのでしょうから。


丹羽宇一郎(にわ ういちろう)/元伊藤忠商事社長・元中国大使。1939年、愛知県生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。1998年、社長に就任。1999年、約4000億円の不良資産を一括処理し、翌年度の決算で同社史上最高益(当時)を記録。2004年、会長に就任。内閣府経済財政諮問会議議員、内閣府地方分権改革推進委員会委員長、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任し、2010年、民間出身では初の中国大使に就任。現在、公益社団法人日本中国友好協会会長、早稲田大学特命教授、福井県立大学客員教授、伊藤忠商事名誉理事(撮影:梅谷秀司)

丹羽:諫言の士がいないんですね。それが独裁政権が続いていく柱になっているんでしょう。そういう中で、諫言の士というのはなかなか出てきません。首になるか、死を覚悟しなきゃいけない。

石破:そうですね。

丹羽:それは個人個人の人間性の問題じゃなくて、やはり組織というものは、必ずそうなっていくというのが過去の歴史ですから。この人は賢明だとか、謙虚だとかというのを超えているんです。大体みんなそうなるんです。やむをえない。だから、アメリカは4年ごとに選挙をやりなさいとなっている。あるいは習近平も、やっぱり10年だということでやっている。あれを15年にするようだったら、これは大変です。中国は確実に壊れますよ。

石破:会社の会長さんとか、社長さんとかでも一緒だと思います。私はそんな偉い人になったことはないのですけれども、防衛庁長官のときも、防衛大臣のときも、農林大臣のときも、地方創生大臣のときも、秘書官は「大臣、それは間違いです」と言ってくれる人でした。

丹羽:それは正しい。権力は腐りますからね。

石破:防衛庁長官や防衛大臣には、秘書官と同時に、制服組の副官というのがつくんです。2等陸・海・空佐――昔でいう中佐、そのクラスがつくんですけれども、こういう人たちにも、「大臣、それは間違いです」と言ってくれる人をお願いしました。

最先端の軍事技術への備えはあるか

丹羽:原子力発電所に、普通の爆弾でもいいんですが、ミサイルを撃ち込まれたら大変な被害が出ると思うんですが、対策は十分なんでしょうか。

石破:原子力発電所は、ジャンボジェットが直接落ちても大丈夫なくらいの耐久性を持たせてつくってあるそうです。ですが、物理的な破壊力には当然耐えうる限界というのがありますし、そもそもわが国領土にミサイル攻撃ということであれば当然、ミサイル防衛システムが機能しますから、イージス艦で撃ち落とし、撃ち落とし損ねた場合には地上からパトリオット迎撃システムで落とすということになります。

丹羽:電磁波の攻撃とか、あるいはサイバーアタックとか、こちらのほうが核兵器よりも抑止力になるのではないか。というような議論もあるんですが、その辺はどうお考えですか。

石破:抑止力になるというよりも、現実的な脅威として認識し対処しなければならないということではないでしょうか。電磁波のみの攻撃が実現可能かどうかはまだわかりませんが、少なくとも核爆発に伴ってあらゆる電子機器がマヒしてしまう、という事態に備えることを考えなければなりません。たとえば、光ファイバー通信は、電磁波の影響をほぼ受けないと言われており、こういう対策は急いでやりたいと思っています。

そして、ミサイルというのは上昇している段階のブースト・フェーズがいちばん弱いですから、そこをたたく技術を開発すべきだと思います。まだ速度も遅く、姿勢制御もできず、妨害装置も有効化できないうちに迎撃できればいちばん効率がいいですから。アメリカはジャンボジェット機のいちばん先端部分にレーザービームを発射する装置をつけて、上昇段階のミサイルをレーザービームで落とすという研究を今でもやっています。

長射程のミサイルでも、北朝鮮の領土、領空の外にある無人機から発射し、ゆっくり上がるミサイルを迎撃することも技術的には可能と言われています。ブーストフェーズ・インターセプトと言いますが、この技術を日本とアメリカの共同で研究するべきじゃないかと。

上昇段階の迎撃ができると、それは打ち上げた相手国の領土に落下することになりますから、「ミサイルを撃てば、あんたの国の上空で爆発するよ」となり、これは大きな抑止力となりうると思っております。

丹羽:サイバー攻撃に対する備えはどうなんですか?

石破:サイバー攻撃については、警察関連も防衛省関連も個別の対策は進めています。考え方として、最初からすべてのサイバー攻撃を防ぐということには限界があるので、いかにして最小限のダメージで止めるかということが重要だと思っています。サイバー攻撃は相手の特定も難しく、また手段も時々刻々と巧妙になりますから、ファイアウォールのレベルを上げると同時に、入ってきたときの被害を最小限に止める技術とは何だというのも大切です。

圧力一辺倒の同盟から話し合いの同盟へ

丹羽:北朝鮮に対しても、われわれは力と力でやらなければいけないということで、特に日本は世界でも珍しくドナルド・トランプさんに追随するような形でやっていますが、国民の大部分は本当にアメリカ追随だけでいいのかと疑問を感じ、また欧米諸国のトップは今の日本のやり方について、うーんと思っているんじゃないですか。

石破:欧米はそれでもNATOというものを持っていて、ああいう集団安全保障のシステムがあるわけですが、日本はアメリカしかないわけですね。集団的自衛権も、安倍晋三内閣で限定的に認めたということになりましたが、私は日米関係は本質的に何も変わっていないと思っているんですね。

石破:日本が頼るのはアメリカしかない、私はこれを変えたいんですけど、現状では厳然たる事実であってね。そうすると、安倍さんとトランプさんが、トランプタワーで食事をしたり、ゴルフをしたり、やっぱり仲良しというのは大事なことで、それを何のために生かすかということを考えたときに、前回、丹羽さんがご指摘になった、核の傘って大丈夫なのか?という確認をするためにも生かしてほしいと思うんです。

総理はおそらく、日米同盟の強固さを示されようということで、「日米は100%ともにある」とおっしゃったんですね。

丹羽:そんなことはありえないですね。

石破:総理のお気持ちとして、ということなんでしょう。実際には日本とアメリカの国益が100%一致することはない。むしろ一致しないけれども、国益は違うんだけれども、あいつとなら話したいよね、話していて本当に有意義だよねという関係はつくるべきだと思っております。そして、韓国や中国とも同様の関係をつくるべきと思います。

丹羽:信頼関係ですね。

石破:圧力ももちろん必要ですが、それだけでは行き着く先は戦争になってしまう。それを回避するために、前回から申し上げている核の傘、ミサイル防衛、国民避難と同時に、多国間での信頼関係の構築という、いろいろな手段を使っていく必要があると思います。

国会で自衛官が答弁しない理由

石破:この国は不思議な国で、国会で制服自衛官が答弁したことが一度もないんです。アメリカではよく軍人が証言をいたしますね。

丹羽:日本もしたらいいじゃないですかね。

石破:これが不文律みたいなもので、絶対やらない。

丹羽:変えたらいいじゃないですか。

石破:そうなんです。私はそう思って、相当な幹部自衛官の皆さんに「本来は皆さんが国会で答弁するべきなんじゃないですか?」と聞いたんです。そうしたら「そうなったら、私はその日のうちに自衛官を辞めます」と言われたことがあります。私はそのとき結構愕然としました。

丹羽:それっておかしいよね。質問は事前に出てくるんだから、本当のこと、答えられる範囲のときだけ、自衛官が出てくればいいじゃないですか。

石破:野党がどれだけ意地悪な質問をするかを彼らは肌身にしみて知っていますから、言を左右にするというのが最も不得手な自分たちにはできないということなんですね。

丹羽:いろいろな国会答弁を聞いていると、平気でうそをついていますがね。

石破:いや、うそはついていないと思いますが、あいまいにしたりはするでしょう。自衛官はそれができないから、国会に出ては政府にご迷惑がかかりますと、そう思っているんですね。

ですけど、それが何を生んでいるかというと、国会の場で軍事について、おっしゃるように防衛力って何なんだ、この飛行機は、この艦は、この戦車は、どういう抑止力の意味を持っているんだという突き詰めた議論がないわけですね。私はこれは決していいことだと思っていません。技術的なこと、専門的なことは専門家が答えるべきだと私は今でも思います。

国会はタブーなき議論の場であるべき

丹羽:石破さんがおっしゃるように、あらゆる問題についてタブーをつくらないで、たとえば核の問題にしても、サイバーの問題にしても、国会の中でいろいろ議論されるべきじゃないですかね。


石破:太平洋戦争でも、きちんと総力戦研究所でシミュレーションをやって、絶対に勝てない、何をやっても勝てない、だからこの戦争はどんな理由があってもやっちゃいかんという結論が出ていたにもかかわらず、それは言うな、今さらそんなことは言えないということで開戦してしまった。

ましてや議論がないとすれば、どんなことが起こるか、ということを、丹羽会長のような偉い方や、マスコミが言っていただかないと、どんどん現実とかけ離れた方向に行きかねない。私はあまりそういう日本は見たくないなと思っております。

丹羽:そうですね。僕もマスコミにも一回言おうかと思っているんです。最後に、石破さんは日本をどういう国にしたいか、日本の将来像についてどうお考えですか。

石破:私は、日本を自立した持続可能性ある国家にしたいと思っているんです。日本は冷戦後、自立して物事を考えなきゃいけなくなりました。でも本当にそうなっているかというと、実はあまり考えていない。日米安保体制にすがっていれば大丈夫、という思考停止が、最近とみに強くなっている気がするんですね。

円安、株高によって、何となくよくなったような気がしているんだけれども、何か変わったのかというと、実は本質的なものは変わっていないと思っています。今やらないと、この国に自立性も、持続可能性もなくなっちゃう。

丹羽:その点は私もまったく同感です。安全保障の具体的な防衛体制については考えの違いはありますが大部分、私の申し上げたいことを本当に言っていただいた。国民の思いをうまく整理して述べていただいたと思います。長時間どうもありがとうございました。

(インタビュー構成:亀谷敏朗)