平成30(2018)年度予算では脅威を増している北朝鮮の弾道ミサイル対処関連の装備が計上されている。外国製で、航空機搭載のスタンド・オフ・ミサイルと地上配備のイージス・アショアである。

 現在の専守防衛は「武力攻撃を受けて、初めて防衛力を行使する」ものであるが、今日の進んだ装備システムの下では、相手の最初の一撃で甚大な被害が出ないとも限らない。

 専守防衛では日本が決して先に手を出さないことを相手は知っているため、自衛隊機や艦船への異常接近、火器管制レーダーの照射、さらには領海への公船の断続的侵入や領空侵犯など、勝手放題を許してきた面も否めない。

 これでは人質奨励も同然であり、対処する自衛隊員にとっては耐え難い。科学技術の進歩による状況の変化も著しく、新装備の導入を機に専守防衛を見直し、敵基地攻撃も行う積極防衛への転換が望ましいのではなかろうか。

 なお、導入する装備の部品も生産国から補給されるのが通常である。

 しかし、高価で先進的な装備が肝心な時に機能しない、あるいは故障部位が迅速に入手できないとなればことは重大である。このためにも、特に重要な部品などは国産化を追求する必要がある。

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当面の兵器は外国から購入

 北朝鮮が大陸間弾道ミサイルの最終的な開発と搭載する核弾頭の小型化に注力している。国連は相次いで制裁決議を行っているが、制裁の目を潜り抜けるようにして完成を目指している。

 日本に拡大核抑止力を提供することになっている米国も、どこまで北朝鮮の開発状況を把握しているか定かでなく、レッドラインも揺れ動いている感がしないでもない。

 北朝鮮がワシントンやニューヨークを覆域に入れるICBM(大陸間弾道ミサイル)を配備した暁には、米国の拡大抑止が機能しなくなる危険性がある。その状況下では、日本は直接的に北朝鮮の大量破壊兵器の脅威下に置かれることになる。

 日本が急遽、スタンド・オフの巡航ミサイルと地上配備型のイージス・アショアの導入を決意したのは、そうした危険に対処するためである。専守防衛の立場から、この種兵器をもち得なかった日本としては、外国からの導入も致し方ないであろう。

 スタンド・オフ・ミサイルは敵艦隊の侵攻阻止、上陸部隊の排除、BMDイージス艦の防護といった任務に従事する隊員の安全を可能なかぎり確保する観点から、相手の脅威圏外から対処するためで、3種が計画されている。

 F-35A搭載用JSM(ノルウェー製で射程500キロ)、並びにF-15等搭載用LRASMおよびJASSM(共に米国製で射程900キロ)で、ステルス性能のF-35AはF-15等に比し相手に接近できるため、ミサイルの射程は短くて済む。平成33(2021)年度納入が予定されている。

 また、イージス・アショアは平成30年度予算では「整備に着手(基本設計、地質測量調査等の実施)する」としており、順調に推移しても実働は35(2023)年度とされる。

 また、すでに装備しているイージス艦用のSM-3ブロックAおよびペトリオット用の改良型PAC-3MSEの取得も計上している。

緊要部品は国産が不可欠

 装備品は肝心な時に稼働しなければ意味がない。そのために、普段から稼働率が重視されている。特に重要な装備は高い稼働率を維持するため、故障発生時は設定された時間(許容時間)内に修復または補充することとされている。

 敵の航空機やミサイルなどの防御に当っては、索敵レーダーや火器管制レーダーなどが重要であり、心臓部は強力な電波やレーザー光などを発信する機器である。

 焦点となっている弾道ミサイル防御(BMD)用ではないが、陸上自衛隊は対航空機用にホーク・システムを装備している。ホーク自体は米国生まれで、射場の関係から年次訓練射撃を米国で実施する。

 日本がライセンス生産しているが、筆者が関係していた当時、捜索レーダー用マグネトロン(初期型、今日はクライストロン)はライセンス生産が許されず、米国から購入する以外になかった。

 米国で訓練射撃をするためには発射装置や整備機器など、すべてを事前に米国へ発送する必要があった。生憎、発射中隊のマグネトロンが故障したが、日本に展開しているどの部隊には予備がなかった。

 肝心な部品も稼働率や費用対効果を見定めて普段から保有していることが多いし、通常は順調に輸入できる。しかし、有事や事態が緊張した状況下では普段の様にはいかない。

 当時は、今日と同じように朝鮮半島が緊張状態にあり、米韓同盟によって緊要な部品は優先的に韓国へ補充される方向にあったからである。

 今後も半島有事では米国の目は自然と韓国へ向くであろうから、どうしても日本への補給等は優先順が低下する。この教訓から、たとえ輸入装備品であっても、心臓部は自国で補充できる体制が不可欠である。

両用性技術の時代

 2017年4月、日本学術会議は総会を開いて、昭和42年以来とってきた「軍事目的の科学研究は行わない」方針を追認した。純粋な科学研究と思っていても最終的な用途は軍事利用に繋がる両用性(デュアル・ユース)も多いので、慎重な検討が不可欠などの意見があったからである。

 特に米国の学界などとの共同研究では米軍の資金が入っているものが多いなどの意見もあったが、従来の方針を転換させるまでには至らなかった。

 防衛省は「防衛技術にも応用可能な先進的な民生技術を積極的に活用することが重要」との認識から、平成27(2015)年度に「安全保障技術研究推進制度」を立ち上げた。従来の防衛産業界との協力から学界まで間口を広げたのである。

 予算措置も27年度は3億円、28年度は6億円であったが、29年度は一気に110億円と拡大した。30年度も101億円が計上されている。

 技術の両用性化が進んでいるばかりでなく、大学への交付金が減少傾向(平成16年度:1兆2415億円、同29年度:1兆970億円)にあることも推進制度創設の一因とされる。

 しかし、日本学術会議の方針決定で、当初応募を考えていた大学も再考を表明し、また応募を禁止した大学もある。その結果、総会時点で応募を容認したのは1大学、審査して判断するとした大学が15、未定は47大学で、応募を認めない大学も16に上った。

 そうした中で大学から22件の応募があったことは、研究の必要性・重要性を理解している証左で心強い。

 防衛技術研究は攻撃兵器、さらに言えば殺傷兵器の研究と短絡的に受け取られがちである。

 しかし、今日のように大量破壊兵器(核・生物・化学兵器)が存在する状況下においては、使用されれば甚大な被害をもたらすため、むしろ抑止兵器としての意味合いが強くなっているのも確かである。

 北朝鮮が核弾頭付ICBMの開発に注力するのも、米国などの核兵器に対する抑止効果を狙ってのことであるとみられる。

 特に日本は専守防衛も掲げている観点からも、基本的には抑止力を意図した装備品開発が重要視されるとみた方がいいであろう。

 こうした装備の展開で戦争や紛争を抑止できれば、国家として、また国民としてこれほど有益なことはないであろう。

抑止力の技術開発こそ平和貢献

 湾岸戦争(1990年)では米国側が勝利したが、戦費は611億ドル(約7兆円)で、その88%(約538億ドル)は湾岸諸国などが負担したといわれる。

 また、1994年の朝鮮半島危機における米軍の試算では湾岸戦争とほぼ同額の610億ドルとされた。今日では装備も人的コストも各段に違い、さらに膨らむとみられる。

 ましてや朝鮮半島有事ともなれば、日本の負担は戦費に加えて戦後処理まで及ぶ可能性もあると予想される。

 万一、戦後処理で韓国と北朝鮮の統一などとなれば、その経費は400億〜1400億ドルともいわれる(以上「産経新聞」平成29年10月12日付)。

 そうした経費も含めて、湾岸戦争同様に周辺諸国が88%を負担するとなれば、その額は880億〜1760億ドル(約9兆〜18兆円)である。

 統一する半島(主として韓国)が相当部分を負担すべきであろうが、現状からは韓国がそうした負担に耐え得ないであろう。

 熾烈な外交折衝の結果、日本がかなりの負担を強いられかねず、湾岸戦争時の130億ドル(約1兆3000億円)とは比較にならないことも覚悟する必要があろう。

 他方、抑止力向上に例えば現防衛関係費を2割増強(すなわち対GDP比を約1%から1.2%にする)を仮定したとしても、経費は約1兆円の増大である。

 こうしたことからも、半島(およびその他)で戦争が起きないように抑止力の向上を図ったほうがはるかに得策であるといえる。

 抑止力としては、脅威の発見・防止にかかわるシステム構築、さらに広義には国際公共財としての海洋・宇宙・サイバー空間の安定的利用に資するシステム開発などが考えられる。

おわりに

 こう見てくると、防衛省が募集する技術研究ではあるが、自衛隊の装備に直接繋がるというよりは、日本の安全向上策の技術研究であり、まわりまわって研究者たちの静謐な研究環境の維持に貢献する技術でもあるということであろう。

 コンピューター、インターネット、GPSは米国防予算による軍事技術としてのイノベーションであっが、今では民生技術や純科学研究分野に拡大している。

 また、巡航ミサイル用に開発されたデジタルマップは自動車のナビ・システムとして普及し、戦車の不整地走行システムは大型バスのニーリングなどに多用されている。

 軍事技術では酷寒酷暑、砂漠などでの運用に堪える信頼性が求められる。こうした厳しい条件下で開発された技術の民生への伝搬は上述の例に見るまでもなく広範に及び、経済効果は投資の幾倍にもなって還元されよう。

 防衛省が進める研究に関わらないのが平和に貢献し、関わることは戦争につながるという平板的な見方では済まされない今日的状況である。

 積極的平和のために、産官学が知恵を結集することこそが抑止力の向上につながる道である。

筆者:森 清勇