人材派遣会社の情報公開は不備だらけ?(写真はイメージ)


 筆者は毎年1月、派遣会社のマージン率に関する調査を独自に行っています(筆者のブログに詳しい調査報告書を掲載しています。本記事と併せてご覧ください)。派遣業界のマージン率は、各種法令によって各社サイト上で常時公開することが義務付けられています。しかし筆者が調べた限り、罰則がないことをいいことに、7割超の派遣会社が公開義務をきちんと果たしていませんでした。

 こうしたコンプライアンス違反は、業界団体によって「優良派遣事業者」として認定された派遣会社でもみられます。同認定企業においてすら、3割超の企業で非公開、または公開に不備があることが確認されました。

 今回は、こうした派遣会社の情報公開状況について紹介したいと思います。

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「派遣マージン率」とは?

 そもそも、派遣マージン率とは何なのか。まずは簡単にその内容を説明しましょう。

 厚生労働省のホームページ「派遣労働者・労働者の皆様」によると、「派遣料金(派遣先が派遣会社に支払う料金)」は「賃金(派遣会社が労働者に支払う賃金)」と 「マージン」を加えた額、ということになります(下図参照)。

人材派遣の「マージン」とは?


 派遣マージン率とは読んで字のごとく、派遣先の企業が派遣元(=派遣会社)へ支払う派遣料金と、派遣元が派遣労働者へ支払う賃金の差額の割合を指します。実質的に派遣会社の取分割合に当たり、やや品の悪い言い方をすれば、「ピンハネ率」と言っても過言ではないでしょう。

 具体例を出して説明すると、ある派遣先の企業が派遣会社へと支払う派遣料金が1日当たり1万円で、派遣労働者が派遣会社から受け取る賃金が同8000円だった場合、マージン率は「(1万-8000)÷1万=0.20」となり、20%ということとなります。

 いわばマージン率とは、派遣会社が労働者を派遣することによって得る取り分の割合といってもよく、派遣労働者の立場からすればマージン率が低ければ低いほど手取り収入は増えるということになります。

 ただ、ここで注意すべきなのは、マージン率分がすべて派遣会社の儲けとなるわけではないという点です。

 上記の通り、マージン率とはあくまで派遣料金に対する派遣賃金を差し引いた額の割合であり、派遣会社は実際にはこのマージンとして抜き取った金額から派遣労働者の研修費や交通費、有給取得費用などの福利費用を支払うため、一般取引での純利益に当たる割合は、ここからさらに小さくなります。極端な話、派遣労働者への福利厚生を手厚くすればするほどマージン率は高くなるため、マージン率が高いからといって、即座にその派遣会社が暴利をむさぼっているという判断はできないのです。従って、派遣料金や福利厚生費などといったその他のデータと合わせて見る必要があります

公開していない企業が大半

 このようにマージン率は取り扱いに注意すべき部分があります。ただし、派遣企業の経営効率や、各社の派遣労働者の賃金状況を見る上で中核となる指標であることには間違いありません。

 マージン率は労働者派遣法の平成24年度改正を受け、事業年度ごとの公開が派遣企業各社に義務付けられるようになりました。また、その後出された「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」では、「常時インターネットの利用により広く関係者とりわけ派遣労働者に必要な情報を提供すること」と明記されました。

 しかし公開義務に関する法整備が進んだにもかかわらず、冒頭で述べた通り、実際に公開へと転じる企業はいまだ低水準にとどまっています。また、ある年から公開情報を更新しなくなったり、対象事業年度を明記しなかったりと、公開の仕方に不備のある派遣会社も少なくないのが現状です。

7割超の派遣会社が公開義務を果たさず

 今回、筆者は一般社団法人・日本人材派遣協会(JASSA)の登録企業ほか大手数社、計695社の派遣会社をサンプルとして選び、マージン率の数値とその公開の有無を調べました。今年の調査結果一覧と2015年以降の諸データの推移は下の図の通りです。

2017年と2018年のマージン率調査結果の比較


マージン率に関する諸データ(2015〜2018年)


 調査した結果、今年の平均マージン率は前年比0.1ポイント増の30.7%、マージン率情報の公開率は同2.9ポイント増の27.5%という調査結果となりました。公開率は前年に引き続き増加しましたが、依然と公開している企業の割合は4社中1社程度にすぎません。実に7割超の派遣会社がきちんと公開義務を果たしていないという状況になります。

情報公開しなくても「優良」事業者?

 こうした公開義務を果たさない派遣会社の中には、「優良派遣事業者」に認定されている会社も数多く含まれています。

 優良派遣事業者とは、厚生労働省からの委託を受けた一般社団法人・人材サービス産業協議会(JHR)が運営している認定制度のことです。JHRは同制度について、≪指定認定機関の審査を通過した派遣会社を「優良派遣事業者」として認定・公布することで、派遣業界の健全な発展を推進し、派遣会社、派遣労働者の双方にとってメリットのある制度≫であると説明しています。

 しかし、同制度で「優良派遣事業者」と認定された派遣会社を調べたところ、全体の32.3%の会社で、マージン率を公開していなかったり、または公開していても適時に更新していないといった公開上の不備が見つかりました。中には、「見たければ事務所へ来るように」と、サイト上での公開義務を完全に無視するかのような告知をしている会社すら見受けられます。

 なお、これでも以前と比べれば大分改善はなされています。筆者が2年前に調べた際は、優良派遣事業者認定企業の7割超が情報公開を果たしていませんでした。改めて強調しておきますが、マージン率の情報公開は法令で定められた義務であり、果たさないということはコンプライアンスに反します。

今後は指導、改善を促すというが・・・

 こうした現状について優良派遣事業者推奨事業事務局へ取材したところ、「マージン率のサイト上の常時公開が義務付けられて以降、公開状況も審査基準に加えている。認定済み企業に対しても今年2月からフォローアップ調査を実施し、順次改善を促していく」との回答が得られました。

 なお筆者は昨年(2017年)1月にも、公開に不備のある派遣会社が多い現状を同事務局に伝えています。その後、具体的な対応を取ったかについて尋ねてみると、「昨年1月にフォローアップ調査を行い、その後も説明会で改善を指導している」という回答でした。

 とはいえ、昨年と同じ対策で、果たしてどれだけ改善が見込めるのかやや疑問です。特にこのマージン率の公開に関しては、最初に1回だけ公開してその後は更新しない派遣会社が非常に多いだけに、イタチごっこになってしまうのではという懸念があります。

 昨年、鉄鋼大手の神戸製鋼は、一連の検査データ改ざん事件によってJIS認証を取り消されました。認証の認定・更新時に検査の実態を見抜けなかったことも、そもそも問題ですが、これに限らず日本に数多くある認証は実体性がどこまで伴うのかかねてから疑問に感じています。「優良」であることを認定するのであれば、違反企業には即座に断固厳しい措置を取ることも必要なのではないでしょうか。

筆者:花園 祐