現代において「生産性」をどう計るべきなのでしょうか(写真:muu / PIXTA)

前回は、ダメな働き方改革の例について批判的に分析しました(部下に丸投げ、「時短ハラスメント」が蔓延中)。今回は、「働き方改革」という文脈でよく使われる言葉である「生産性」とは何かについて、誤解されている方が多いので、一歩掘り下げて考えてみたいと思います。

時間単位で生産性を測る考え方は適切なのか

そもそも、労働法は生産性をどう考えているのでしょうか。現在の日本の労働法(労働基準法)は、1日8時間、週40時間という「法定労働時間」を超えた分は残業代(時間外割増賃金)の支払いが必要とされています。この考え方は、明治時代の「工場法」(1911年成立)をベースとして形作られています。


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この時間単位で生産性を計る考え方は、まさに工場労働のように単純に物を生産する場合には、適切です。1時間多く労働すれば、1時間分多く製品が作れるわけですから妥当するといえるでしょう。また、戦前の劣悪な労働条件におかれた工場労働者を保護する観点からも、労働時間による規制は必要でした。戦後の高度経済成長期においても、同様に労働時間の「量」で測る考え方は合理的だったのでしょう。

しかし、現代はどうでしょうか。知的労働の割合は、以前に比べ爆発的に増えています。たとえば、「10時間悩んで書いた企画書」と「1時間で閃いた企画書」には9時間分の違いがあるでしょうか? アイデア次第では1時間で閃いた企画書のほうが優れていると評価すべき場面も多くあります。

それにもかかわらず、法律が変わっていないこともあり、われわれは時間単位で生産性を計る考え方にいまだに支配されています。しかし、現代においてホワイトカラーの生産性について考えるときは、業務の取捨選択、IT化、人事制度など、さまざまな視点を峻別して検討するべきなのです。

まず、「生産性を上げろ!」と叫ぶだけでは単なる精神論になってしまいます。重要なのは組織として効率よく働く環境を整え、個人として最大限パフォーマンスを発揮することです。前提として、業務量が多すぎたり、無駄な業務がある場合には生産性を上げることもできません。

たとえば、日本企業に勤めていると、隣の席の人が休んだ場合にその仕事を手伝うといったことを体験したことはないでしょうか。日本の働き方は、職務の範囲が不明確であるという特徴があります。しかし、「生産性向上」を考えるのであれば、まずは個人個人の業務の棚卸しを行い、「今、何をやっているのか、またやるべきなのか」を一人ひとり明確にする必要があります。たとえば、業務を以下の5種類に分けます。

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外注(アウトソース。非正規雇用を含む)する業務

5ヽにより自動化する業務

さヽにより効率化する業務

ダ擬勸として集中すべき業務

自分の業務を棚卸ししてみると、思いの外「こんなことで時間を使っていたのか!」(会議の日程調整や上司の承認待ちのための居残り、客先からの回答待ちなど)ということがわかることがあります。正社員として集中してやるべき業務とそうでないものを峻別して効率化することが重要になるでしょう。

オフィスインフラを整えるという基本

そして、「生産性向上」をうたうのであれば、そのためにできるIT投資を怠ってはなりません。最近はAIという言葉をさまざまなニュースで見ますが、AI・ビッグデータなどというレベルの高い話以前に、そもそもPCが古い、OSが「Windows Vista」のままになっている、プリンター・スキャナーの数が少ない、ネット環境が不十分、モバイル機器がそろっていない、必要なソフトウェアがないなど、IT投資で改善できる部分を放置している会社が散見されます。

まずはこれらのオフィスインフラを整えるのが優先です。リーマンショック以降の「コスト削減」によりIT投資を控えていた企業は多く見られますが、働き方改革を実行するうえでは、従業員に効率化を求める前に、まず企業のインフラに投資すべきでしょう。

その次の段階は機械により業務プロセスを自動化するRPA(Robotic Process Automationの略)の導入が考えられます。たとえば「このサーバーの中のこのファイルにあるこのデータを毎月取得して、○○に貼り付けて、足し算して、平均値を出す」という定型作業であれば、一度機械に覚えさせれば以後は自動化することができます。このような技術は日々更新されていますので、最新のテクノロジーに対する取り組みもつねに考えていく必要があります。

先端のテクノロジーでは、生産性を数値化することも可能になってきています。昨年行われた経済産業省主催の「HR-Solution Contest ―働き方改革×テクノロジー―」でグランプリを受賞した株式会社JINSでは「JINS MEME」というプロダクトを開発しています。これは、眼球の動きと瞬きにより集中力度合いを「%」で定量的に測定するメガネ型ウェアラブルデバイスです。今後は、こうしたデバイスの導入によって人間1人当たりの生産性も可視化されていき、人事の実務にも生かされる日も来るでしょう。

また、生産性向上を成し遂げるためには、最終的には「投資に資金を投入できるか」という問いもつねに突きつけられます。これは経営判断の問題ですから、判断ができるのは経営者しかいません。

そのため、働き方改革は現場に丸投げしてはならないのです。実際の例としても、働き方改革を率先して行うことを決定したある会社では、社長以下役員が取引先に対する説明行脚を行い、理解を求めたという例があります。働き方改革は、人事部門だけが考えるものではなく、経営層・現場と一体となって取り組む必要があるのです。

「時間×数字」の人事評価はやめる

そして、人事評価方法は「時間×数字」をベースとした長時間労働前提の評価制度だけではもう立ち行きません。それでは結局長時間働いた人が優遇されるため、労働時間を減らすインセンティブが働かないからです。

現代において意識すべきは「時間当たり生産性」という概念です。これは売り上げの総量で評価するのではなく1時間当たりにいくら売り上げたかという「時間当たり売上量」によって評価を行うというものです。現にこうした評価を導入している企業もすでにありますが、この方法であれば社員も生産性を上げれば評価が上がるわけですから、モチベーションアップにつながるでしょう。

現在国会では、「働き方改革法改正」として、時間に縛られない柔軟な働き方を後押しする、高度プロフェッショナル制度などの審議が予定されています。現代の働き方からして「生産性」をどう測るべきなのか、そして企業はどのように評価をすべきなのか、一人ひとりが改めて考えるべき時代にさしかかっているといえるでしょう。