HomePodのセットアップは、電源を接続してiPhoneに近づけるだけ。あとはSiriに音楽再生を指示すれば、高い品質の音楽再生が楽しめるようになる(筆者撮影)

アップルは2月9日、ホームスピーカーの新製品となる「HomePod」をアメリカ、イギリス、オーストラリアの英語圏3カ国で発売した。春までにフランス、ドイツなどの欧州で販売を拡大することが明らかになっているが、日本での発売についてはまだ発表がない。

HomePodを一言で言うと、「Siriに話しかけることで音楽ストリーミングサービスApple Musicから音楽を再生することができる、音質にこだわったスピーカー」だ。つまり、iPhoneやiPadなどのアップル製品を使っていて、かつApple Musicの会員である人が対象となる。

競合となるのは「スマートスピーカー」として拡大を続けているアマゾンのAmazon EchoシリーズやグーグルのGoogle Homeシリーズ、さらにLINEのClovaなどとなるが、アップルはあくまでオーディオ製品としてHomePodを紹介しており、マーケティング上の位置づけは異なっている。

HomePodは、iPhone 6に採用されていたA8プロセッサを搭載し、巨大な低音を出力するウーハーと、7つの高音スピーカー、そして6つのマイクを備え、1台で豊かなサラウンドを自動的に作り出す、“賢さ”を音質面に活用したホームスピーカーだ。

シンプルなデザインと初期設定

HomePodは、高さ172ミリ、直径142ミリの円筒形をしており、角は柔らかな丸みを帯び、製品全体がホワイトもしくはスペースグレイのメッシュで包まれている。

柔らかな印象とは裏腹に、2.5キロとずしりと重たい。製品からは電源ケーブルが伸びているだけだが、このケーブルもファブリック(布)で包まれており、オーディオ製品としての演出を存分に感じ取ることができる。


HomePodのパッケージを開けたところ。電源ケーブルの取り外しはできない(筆者撮影)

パッケージを開封すると、手元にiPhoneやiPadがあれば、3分以内にセットアップが終わる。拍子抜けするほど簡単だった。HomePod自体はWi-FiでApple Musicと接続するが、iPhoneの画面でWi-Fiの接続先を選んだり、Apple Musicへのログインを行う必要はなく、iPhoneの設定が自動的に読み込まれる仕組みだ。


電源を接続すれば、すぐにiPhoneが認識し、画面に設定のためのボタンが表示される。設定項目も、言語設定、利用するApple ID(iPhoneの設定がそのまま利用される)、個人情報活用についての確認程度で終わる(筆者撮影)

あとは「Hey Siri, play some music」と話しかければ、すぐに自分の好みの音楽をApple Musicから再生してくれる。ちなみに、発売国からわかるとおり、現在HomePodのSiriは英語にのみ対応している。ただし、iPhone側の設定画面はすでに日本語化されていた。

置き場所のポイントは「壁」

筆者の自宅のリビングルームにHomePodを設置する際、何カ所か置き場所を変えてみた結果、最も部屋全体に広がるサラウンドを楽しむことができたのは、食卓の壁際という位置だった。

その理由は周囲に何もなく、背後に壁があるという環境だったからだと考えられる。周りに壁がないキッチンのカウンターや、ごちゃごちゃしている棚の間などでは、音の広がりがいまいちだったのだ。

ちなみに、米国のApple Storeの店頭でも、広い空間のど真ん中にHomePodが設置してあり、さほど音の良さを感じることはなかった。HomePodを楽しむうえでのポイントは、「壁」かもしれない。

HomePodには全方位に向けて7つのツイーターが内蔵されており、マイクで自動的に補正しながら音場を作り出す仕組みを採用している。そのため、跳ね返りが利用できる壁際のほうが、サラウンド効果を得やすいのではないか、と考えられる。

ジャズ、クラシック、ポップスなど、普段よく聞く音楽をひととおり再生してみたが、いずれも豊かな低音とクリアな高音を楽しむことができた。

ただ、たとえば山下達郎さんのアルバムを再生しているときに、若干中音域が物足りなかった。音楽ソースによってはそうした印象を受ける場面もあったが、HomePodのソフトウエアはアップデート可能であるため、今後修正される可能性もある。

HomePodで音楽を再生する方法は、HomePodのSiriに直接話しかける方法と、iPhoneのミュージックアプリの出力先としてHomePodを選ぶ方法がある。

ただし、後者には盲点があった。

HomePodのSiriに話しかける方法は、前述のように「Hey Siri, play some music」と言えば、Apple Musicが自動的に自分の好みの音楽を選曲する“ステーション”の再生が始まる。あるいは「Hey Siri, play jazz」「Hey Siri, play Mozart」とジャンルやアーティスト名を指定してもいい。この方法は、iPhoneやiPad、Apple TV、MacのSiriと同じなので、普段からSiriに音楽再生を指示していた人は違和感なく、音楽を声だけで操ることができるだろう。

もう1つの方法は、iPhoneの「ミュージック」アプリなどで再生している音楽を、HomePodを出力先として指定する方法だ。ワイヤレス再生の仕組みをアップルは「AirPlay」と呼んでいる。iPhoneの画面で操作するため、聞きたい音楽をより素早く確実に選択できる。


AirPlayで再生する場合、iPhoneに着信があったり、ビデオ撮影のためにカメラを立ち上げたりすると、音楽再生がストップしてしまう(筆者撮影)

ただし、AirPlayを用いたHomePodでの再生には盲点がある。iPhoneを操作している際、マイクを利用するビデオ撮影などの操作をしようとしたり、ほかの音声が再生されるYouTubeなどのアプリを利用しようとすると、iPhoneのミュージックアプリの再生が止まるため、HomePodの音楽も止まってしまう。

同様にApple MusicをWi-Fi経由で直接再生できるスピーカー「SONOS」では、iPhoneから音楽を選択するが、ミュージックアプリを使わないため、iPhoneの操作に左右されず部屋の音楽を再生し続けてくれる。

部屋のBGMを快適に楽しむには、Siriから音楽再生する必要がある。そうでなければ、たびたび音楽が中断される不快さを味わうことになるだろう。

スマートスピーカーとしても優秀

HomePodには6つのマイクが内蔵されており、音楽を大きな音で再生していても、部屋の離れたところからの「Hey Siri」との呼びかけにきちんと反応してくれる。

これは、筆者の自宅に設置しているAmazon EchoやGoogle Homeよりも、きちんと声を拾ってくれる印象だ。人工知能アシスタントの競争で出遅れ感が目立つアップルのSiriだが、スマートスピーカーとしてHomePodを評価するなら、より機敏に声に反応してくれる点で、優秀と言える。

HomePodの価格は349ドル(約3万8000円)で、50ドル前後から手に入る競合スマートスピーカーと比較すると大幅に高い。しかも、iPhoneやiPad、Macからの利用に限られ、Apple Musicの契約も必須だ。

比較的多くの音楽ストリーミングサービスやアプリが利用できるアマゾンやグーグルのスマートスピーカー、あるいは前述のSONOSのようにAmazon Alexaをサポートしたうえで80以上の音楽サービスを利用できる製品との比較で、自由度、価格の面で不利な戦いを強いられることになる。

アップルのエコシステムの力が試される

アップルはiPhone専用のスマートウォッチ、Apple Watchを成功させており、アップルのエコシステムに閉じているからといって、それが敗因にはなりえないことを証明している。

また米国市場において、Apple Musicは音楽ストリーミング市場最大勢力であるSpotifyの加入者数を今夏までに追い越す見通しだ。HomePodの成否は、アップル製品を利用するユーザーが、より豊かな音楽体験を求めるかどうかにかかっている。

それでも、難しさは残る。若い人にとってはどこでも音楽が楽しめるワイヤレスオーディオのほうが大きな関心事となっており、オーディオにこだわる人はすでにSONOSを含め別のオーディオ機器を自宅にそろえているからだ。

たとえば筆者は1年半前に、書斎、ベッドルーム、そしてテレビ用にSONOSのスピーカーをそろえており、残念ながらHomePodを設置する余地が残されていないのだ。

アップルがHomePodの発売を12月から2月に延期した影響はほとんどない。その間に登場したいずれの各製品よりも、HomePodの音質は優れており、音声認識の精度も高く、HomePodの製品力が損なわれたとは考えにくいからだ。

一方で、Apple Music登場の2015年にこの製品を登場させていればよかったのに――と考えるのは筆者だけではないはずだ。