冬が長い。11月の中頃から冬めいていたので、四季が文字通り1年を4等分する期間なら、いますぐにでも春が到来を告げなければ計算は合わない。そうした中で、「新シーズンの到来を告げる一戦」だと言われても、いまひとつピンと来ないのだ。先週の土曜日に行われたゼロックス・スーパーカップ、川崎F対C大阪の話だが、試合前、依然として寒々しいスタンドで、配布された両軍の先発メンバー表に目を通すと、その想いはいっそう強まるのだった。昨シーズンの続きを見るような、春めいたパッとした気分にはなれなかった。

 顔ぶれに新鮮さが乏しいのだ。川崎Fは言わずと知れた昨季のJリーグチャンピオン。JリーグがDAZNと契約を結んだ最初のシーズンの--というおまけがつく。つまり、優勝賞金等々で、実質22億円以上という大金を手に入れた後に迎える新シーズンだ。いったいそのお金はどこに使われたのか。正したくなる。選手の獲得に多くを割いて欲しいと考えるのが自然だ。

 川崎Fが今季移籍で獲得した主な選手は、大久保嘉人(←FC東京)、斎藤学(←横浜F)、赤崎秀平(←鹿島・G大阪)の3人だ。しかし、大久保、斎藤の獲得に大きなお金は動いていない。お安い買い物だ。一番期待が持てそうな選手は斎藤学だが、横浜F時代に負った怪我は重く、復帰の目処は立っていない。それは補強と言えるのか、なんとも言えない状況にある。

 名前のある新外国人選手も獲得していない。面白そうに見えるサッカーで、J1を制した人気チームであるにもかかわらず。「大丈夫か、Jリーグは」と言いたくなる。これではDAZNの契約者は増えそうもない。

 昨季、ルーカス・ポドルスキーが神戸にやってきた時、ネームバリューの高い外国人選手は今後、Jリーグに増えていくものと思われた。神戸のファンではないけれど、とりあえずポドルスキーを見てみようとスタジアムに駆けつけた人が、実際どれほどいたか定かではないが、その手のお楽しみは増していくものと思われた。

 かつてのJリーグには、確かに存在した魅力だった。90年代から2000年の前半頃の話だが、そのチームのファンでなくても、一目見たくなる外国人選手、例えば、ストイコビッチの活躍は、東京のメディアでも大きく報じられたものだ。それは、名古屋の試合が全国区のニュースになったことを意味していた。

 Jリーグのスタジアムはいま、思いのほか盛況だ。観客はよく入っている。だが、東京のメディアの反応は鈍い。東京に一極集中する大手メディアが扱う報道の量は、その割に少ない。

 地域対地域の戦いが繰り広げられるJリーグのスタジアムは、まさにローカル。いかに盛り上がろうと、該当地域以外に住む人に、その良さは伝わりにくい。国土が縦に細長い形をしていることも関係する。東京とその他の地域は離れた関係にある。ドイツやスペイン、フランスのように、国土が丸形ならば、そうならない。北海道や九州のような端は存在しにくい。

 日本では、東京圏に暮らす人、そこに集中するメディアにウケることが、全国区人気を得るためには不可欠だ。世界的に見ても希な、これは日本ならではの話だ。

 日本の特殊事情を加えるならば、クラブ数の少なさも挙げたくなる。プロリーグをJ3までと位置づければ、クラブ数は54。人口に占めるクラブの数の割合は、欧州諸国に比べると格段に少ない。6部、7部まであっても足りないくらいなのに、3部しかない。半径50キロ圏内を、ホームスタジアムに通いやすい範囲だとすれば、そこに暮らす人は、国民の何%いるだろうか。

 それは、応援すべきクラブチームを持たない人が多いことを意味する。彼らの関心は日本代表に傾倒する。代表への関心は、自ずと上昇する。これも日本の特殊事情だが、こうした人たちの関心を、どのようにしてJリーグに向かせるか。スタジアムに足を運ばせるか(あるいはDAZNに加入してもらうか)。

 クラブにとって一番のお客さんは地元ファンだ。彼らを満足させることが、本来の在り方になる。しかし、日本の特殊事情を考えれば、対象範囲はより広くなければならない。

 川崎Fは、Jリーグの中でも地元を意識した密着志向の強いクラブとして知られている。それにまつわるよい話を、実際よく耳にする。日本が欧州にあるならそれで十分だが、日本では、地元以外にもアピールする何かがないと、更なる発展は望めない。人気は広がっていかない。

 第3者をいかに取り込むかを考えれば、大金の主だった使い道は見えている。大物外国人選手、あるいは大物外国人監督は、欠かせぬアイテムになる。

 川崎Fに限った話ではない。浦和、名古屋など、財政的に恵まれているクラブは、もう少し派手な話題を提供していかないと、メディアは積極的に報じてくれない。結果、勝利、そして良質なサッカーの追究だけでは、波及効果は得られない。全国中継に値しないサッカーに埋没する。20数億円は、その域から脱するための軍資金であるべきだと僕は思う。現状は地味すぎ。華のあるチームの出現を願いたい。