NBAレギュラーシーズン前半戦トピックス5

 2017-2018シーズンの前半戦が終了し、NBAはオールスターウィークエンドに突入した。後半戦に入って佳境を迎えるその前に、前半戦の印象的なトピックスを振り返っておこう。


アイザイア・トーマス(左)とレブロン・ジェームズ(右)のコンビはわずか5ヵ月半で解消

(1)キャブスが電撃トレード。ロスター総入れ替えは功を奏す?

 今季のトレード期限は現地時間2月8日。これは例年より1週間も早く、各チームとも5試合ほど消化が少ない状態で期限を迎えることになった。

 プレーオフで勝つためにどう補強するのか。あるいは来年以降を見据え、どの高額選手を放出するのか……。チームの首脳陣は例年よりも少ないデータで決断を下さなければならない。つまり、今年の冬のトレードは「ギャンブル要素が強い」と言える。

 最初に動いたのは、ロサンゼルス・クリッパーズだった。1月29日、昨夏のオフに5年総額1億7500万ドル(約196億円)という長期の契約延長を結んだブレイク・グリフィン(PF)をデトロイト・ピストンズへ放出。代わりにピストンズからトバイアス・ハリス(SF)、エイブリー・ブラッドリー(SG)らを獲得した。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 グリフィン獲得後、ピストンズは5連勝。一方のクリッパーズは昨オフにクリス・ポール(PG/ヒューストン・ロケッツ)やJ・J・デリック(SG/フィラデルフィア・76ers)を放出しているため、昨季のスターターでチームに残っているのはデアンドレ・ジョーダン(C)のみになった。

 期限ぎりぎりでいくつものトレードが決まるなか、最後に大きく動いたのがクリーブランド・キャバリアーズだった。まずはアイザイア・トーマス(PG)とチャニング・フライ(PF)、さらには2018年のドラフト1巡目指名権をロサンゼルス・レイカーズに渡し、それと引き換えにラリー・ナンス・ジュニア(PF)とジョーダン・クラークソン(PG)を獲得した。

 だが、キャブスのトレードはこれだけで終わらない。ドウェイン・ウェイド(SG)をマイアミ・ヒートに放出した代わりに2024年のドラフト2巡目指名権を獲得すると、今度はサクラメント・キングスとユタ・ジャズを絡めての三角トレードを敢行。デリック・ローズ(PG/ジャズ)、ジェイ・クラウダー(PF/ジャズ)、イマン・シャンパート(SG/キングス)を放出し、ジョージ・ヒル(PG)とロドニー・フッド(SG)を手に入れた。

 シーズン中にこれほどロスターを変えることが功を奏すのか、未知数ではある。だが、なかなかチームの状態が上向かないキャブスとしては、その打開策としてギャンブルに踏み切った印象だ。このトレードで泣くのか、はたまた笑うのか――。後半戦のキャブスは間違いなく注目すべきチームだろう。

(2)ジェレミー・リンのドレッドヘアは人種差別なのか?

 某バラエティ番組で、顔を黒塗りにして芸人が黒人俳優をマネて、ひと騒動となったことは記憶に新しい。シーズン開幕直前、NBAでも類似するような出来事があった。

 ニュージャージー・ネッツ(現ブルックリン・ネッツ)などでプレーした元オールスター選手のケニオン・マーティンがジェレミー・リン(PG/ネッツ)のドレッドヘアに対し、SNSでこのように批判(現在は削除済み)したのだ。

「誰か『黒人になりたいのか』と聞いてやれ。気持ちはわかる。だが、お前は”リン”だ」

 黒人選手の象徴のひとつであるドレッドヘアを台湾系アメリカ人のリンがしたことが、マーティンの気に障った模様だ。過去には歌手のジャスティン・ビーバーがドレッドヘアにしたとき、「文化へのリスペクトが感じられない」「文化の盗用」などと批判を浴びた出来事もある。

 しかし、突然の批判に対し、リンはこうコメントを返した。

「あなたが僕の髪型を好きになる必要はないし、どんな意見を持とうがあなたの自由だ。僕は頭をドレッドにして、あなたは漢字のタトゥーを入れている。僕はそれがすごくうれしい。なぜなら、それはリスペクトの証(あかし)だと思うから。あなたがネッツ、そしてバスケットボールのためにしてくれたことには感謝している。子どものころ、僕はあなたのポスターを部屋に飾っていたんだ」

 マーティンの腕には、孔子が言ったとされる『患得患失』という文字がタトゥーされている。さらにリンは、こんな手記を発表した。

「僕のドレッドヘアについての考え方はおかしいのかもしれない。だけどこれが、違いについて対話するキッカケになればと思う。僕たちに必要なのは、批判的な見方を減らし、共感と思いやりの心を増やすことだ」

(3)バックス予想外の低迷でジェイソン・キッドHC衝撃解任

 2013年に現役を引退し、2014年からミルウォーキー・バックスのヘッドコーチ(HC)に就任していたジェイソン・キッドが1月23日、その職を解任された。

 今季のバックスは「勝負の年」だ。オールスターのファン投票で最終的にはレブロン・ジェームズ(SF/キャブス)にトップの座を譲ったものの、中間発表時点で最多投票を獲得してリーグの顔的存在になったヤニス・アデトクンボ(PF)を擁し、昨年11月には得点力の高いエリック・ブレッドソー(PG)も獲得。今季のバックスはプレーオフ出場どころか、上位進出も期待されるチームだった。

 ところが、チームはなかなかエンジンがかからず、1月になってもプレーオフ出場のボーダーラインである8位前後を行ったり来たり。そんな不甲斐ない状況に、首脳陣やファンが苛立ちの矛先を向けたのが、チームを率いるキッドHCだった。ゲーム終盤にキッドHCが選択したプレーや選手の起用法などに批判が集中し、首脳陣は手遅れになる前にと解任を決断した。

 キッドHCの指導で才能を開花させたアデトクンボは解任を知ると、「僕に何かできないだろうか? オーナーやエージェントに連絡してみようか?」と、キッドHCに電話をかけて留任を強く希望。しかし、キッドは「君にできることはない。いつかこうなると思っていた」と答えたという。

 皮肉なことにキッドHCの解任劇から1週間後、左ひざ前十字じん帯断裂の重傷で昨季から戦線離脱していたジャバリ・パーカー(PF)が復帰。チーム力も上向いて直近10試合は8勝2敗と調子を上げ、現在イースタン5位まで順位を上げている。

 それまでの不振はキッドHCの指導力不足か、それとも元天才ポイントガードが思い描くスタイルを形にするにはもう少し時間が必要だったのか? 解任劇が正解だったのかどうかは、シーズン終了後にわかるだろう。

(4)過小評価のビクター・オラディポがついに大ブレイク!

 インディアナ・ペイサーズのビクター・オラディポ(SG)は、これまでリーグでもっとも過小評価されてきた選手のひとりだった。

 インディアナ大で活躍したオラディポは、2013年のドラフト1巡目全体2位でオーランド・マジックに加入。プロ入り後も順調に成績を伸ばし、2年目の2014-2015シーズンには平均17.9得点を記録する。しかし、プロ3年目となる2015-2016シーズン開幕前に発表された『SI.com』(スポーツ・イラストレイテッド誌のウェブサイト)のプレーヤーランキングではトップ100にすらランクインしなかった。

 2016年のオフ、オクラホマシティ・サンダーはケビン・デュラント(SF/ゴールデンステート・ウォリアーズ)を引き止めるため、サラリーキャップに空きを持たせようとサージ・イバカ(PF/トロント・ラプラーズ)をマジックに放出。その交代要員として、オラディポは2選手とともにサンダーへ移籍した。

 結局、そのサンダーの策も実らずにデュラントはウォリアーズへ移籍。サンダーに移籍したオラディポはラッセル・ウエストブルック(PG)とコンビを組み、平均15.9得点を記録した。だが、そこでもオラディポの評価は伸びなかった。

 さらに今季開幕前には、ポール・ジョージ(SF/サンダー)を獲得するための駒として、オラディポはドマンタス・サボニス(C)とともにペイサーズへ。このトレードに対し、メディアやファンは「ポール・ジョージを安売りしすぎだ!」と酷評した。いかにオラディポの評価が低かったかわかるだろう。今季開幕前に発表された『SI.com』のプレーヤーランキングでも、オラディポの順位は77位と低調だった。

 そんなオラディポが今季、ついに大ブレイクを果たしたのである。開幕2週目にはキャリア5年目にして初のプレーヤーズ・オブ・ザ・ウィークに選出され、昨年12月10日のデンバー・ナゲッツ戦ではキャリアハイの47得点を記録。現在オラディポは平均24.4得点でチームのスコアリングリーダーとなっており、単純比較はできないものの、サンダーのポール・ジョージの現在平均22.4得点を上回っている。

 ようやく才能が評価されたオラディポは、今年のオールスターに初めて選出。過小評価され続けた男がいよいよ、その真価を発揮し始めている。

(5)もはや恒例行事!? コート外のお騒がせなトラブルメーカーたち

 そして最後は、前半戦に巻き起こった騒動を列挙しておきたい。

 物騒な事件が起きたのは1月15日、ロケッツvs.クリッパーズの試合後だった。このゲームは荒れて、トレバー・アリーザ(SF/ロケッツ)とブレイク・グリフィン(SF/当時クリッパーズ)が退場処分となった。

 試合はクリッパーズが113-102で勝利したが、それに怒りが収まらなかったのがロケッツの面々だ。アリーザやクリス・ポール(PG)など選手数名がクリッパーズのロッカールームに押し入ろうとして、警察が駆けつける事態に発展したのである。結果、アリーザとジェラルド・グリーン(SG)が2試合の出場停止となった。

 一方、実際に警察に捕まってしまったのは、元スター選手のデニス・ロッドマンだ。1月13日、飲酒運転の疑いで米カリフォルニア州の警察に逮捕された。現在56歳のロッドマンは職務質問を受け、その後の聴取にも協力的だったために約7時間で釈放されたとのこと。7年連続7度のリバウンド王に輝いたロッドマンは、飲酒運転で捕まるのは14年ぶり3度目のことだ。

 現役選手はもちろん引退した選手も、後半戦は明るい話題でリーグを盛り上げてほしいと願うばかりである。

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