クリスマスの贈り物用の新規商品アイデア。伊藤社長が会議中に描き上げたもの。左下の黒いA5ノートは「KOLO」というアメリカ直輸入のもので、日々の会議で使用。青いA5ノートは伊東屋オリジナルのものでアイデアを書き留めるために使用。

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■「言葉」より「絵」の方がイメージを伝えられる

私はノートをよく取るほうで、社内の会議でも発言者の話を聞きながらずっと何かメモしています。

書き方には私なりの流儀があります。ノートを見開きにして、右ページはほかの人が話した内容の要点を記録し、左ページには話を聞きながら自分が気になることや思いついたことを書きつけていくのです。

ただし、1度書いたノートを後で見返すことはまずありません。書く目的が、話を頭に叩き込むことにあるからです。実際、書けばその内容を記憶してしまうので、メモをもう1度見る必要はないのです。

ノートのあちこちには絵を描いています。車のデザインを学んでいたので絵を描くこと自体が好きだということもありますが、たいていは会議に出席していて「こうやったら売れるのではないか」と思い浮かんだアイデアを残しておくためです。文字と違ってノートの左右どちらに絵を描くかは意識していませんが、右ページから描きはじめることが多いですね。

たとえば、今開いているノートの絵を見てください。これは、「クリスマスカードの売り上げが落ちている。しかし、クリスマスに自分で飾り付けをした贈り物をしたいという需要はある」という話を聞いた会議中に描いたものです。

この絵が完成するまでのプロセスを説明しましょう。

まず、贈り物であるクリスマスソングの鳴る飾り付きメロディーカードの商品価値を考えます。すると、メロディーカードをもらったとしても紙であるため、耐久性がなくてきれいなまま保存することは難しいということに気付きます。贈りたいのはカードそのものではなく、クリスマスの飾りです。カードの代わりになって耐久性のある商品は何かと思考を進めます。

そこで、ビンであれば耐久性があり飾っておけることに気付きます。その中に飾り付けをしたクリスマスツリーを入れて、蓋をスピーカー代わりに音楽が鳴るようにし、さらにはメッセージを蓋に書けるようにすれば……、こうして新商品のアイデアが1つの絵になったわけです。

絵は多色ボールペンがあれば、1、2分でサッと描けてしまいます。それをみんなに「こんな感じ」と見せれば、私が意図していることは大体伝わり、到達点やイメージを共有することができます。まず、解釈に齟齬が生じることはないでしょう。

一方、言葉で到達点やイメージを共有しようと思っても、上手く伝わらないことは多い。たとえ意味的には正しい言葉を使ったところで、1つの言葉が受け手によっていろんな意味に変換され、齟齬が生じることもあります。

この前も、今年の4月末に成田空港にオープンした新店舗を説明する資料に、「愚直にアナログに」と書かれていたので、資料の担当者に「愚直」はいらないと注意しました。本人は「ザ・日本の文房具」という新店舗のコンセプトを言い表すために、「真面目に取り組んでいる」という意味で「愚直」を使ったようです。でも私にとっての「愚直」は、「愚か」という言葉にあるように、「前に進んでいない」マイナスの意味に感じられました。

書く行為が思考を塗り替えることもあります。意外に面白いのが、書きなぐってみると思ってもなかった発見があることです。書き間違えた言葉から新しい考え方を学ぶこともあるし、自分の勘違いで書いたメモが結果的に学びになることもあります。

たとえば先日、2020年の東京オリンピックに向けて本店がある東京・銀座の街のイベントをどう変えていくかという話し合いがありました。ミーティングにはコンサルタントも参加していて、私はその人が提示した資料のなかに「大銀座まつり復活」というフレーズを見つけました。

■書きなぐりメモから新発想が生まれる

「大銀座まつり」は、音と光のパレードが主体の煌(きら)びやかなイベントでした。それを今の時代に復活させるなんて予算的にもあり得ないと思い、「そんなのいいはずがない」と、紙にメモを書いては、その思いをコンサルタントにぶつけました。

途中、コンサルタントが何か言いづらそうな表情をしており、資料に目を戻してよくよく見ると、「大銀座まつり復活 それはない」と後に続く言葉があることに気付きました。

コンサルタントも私も大銀座まつり復活はないと考えていた。要は、ドジな私のまったくの勘違いだったのです。

その事実が判明してからあらためて紙に書きなぐっていたメモを見ると、「大銀座祭りを行った理由は何だったのか」「街に人を呼びたかったのか」「それとも街の人たちが1つにまとまりたかったのか」など勘違いした内容に対する私の問題意識が書いてありました。これはこれで、重要なのに今まで考えてこなかった問題だな、と。書き間違えたメモから、議論すべき新しい視点を得ることができたのです。

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伊藤社長の流儀
1 仕事の際、よく「メモ」を取るか
よく取る。数字を間違えず、ストーリー仕立てを意識
2 「手帳」はアナログ派orデジタル派?
スケジュール管理はデジタル
3 手帳やメモを、見返すことがあるか
あまりない
4 メールを記すとき、注意することは?
できるだけ早く返事をする。送る前に文面を読み返す
5 年賀状以外に、手書きの「手紙」や「礼状」を書くか
書く
6 社会人になってから「日記」を書いたことがあるか
ある。特別のことがあると10年連用日記に記す
7 自分だけの「虎の巻」をつくったことがあるか
試みたが、さほど必要ないと感じた

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伊藤 明(いとう・あきら)
1964年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、工業デザインを学ぶため渡米。92年伊東屋入社。2005年より現職。経営だけでなく、店舗のインテリアデザインやオリジナル商品開発も手がける。
 

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(伊東屋 社長 伊藤 明 構成=Top Communication 撮影=竹中祥平)