米CSPのGFRPが使われた米フォード・モーターの車のフロントグリル

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 素材業界が、自動車分野を中心にバリューチェーンの上流を目指している。三井化学が1月に試作や金型製造など開発支援のアークを買収するなど、各社は材料売りからの脱却をもくろむ。コスト面で優位な中国や中東、米国と同じ土俵で戦っても勝ち目はない。一方、自動車業界も100年に1度の変革期を迎え、産業構造の転換を迫られる。素材各社は「100年に1度のチャンス」を成長につなげる。

 「自動車メーカーの戦線は広がり過ぎている」。化学大手幹部は、トヨタ自動車が1月に米ラスベガスで発表した自動走行電気自動車(EV)『e―パレットコンセプト』を見て、こう漏らした。

 自動車メーカーは人工知能(AI)や電動化など多方面の技術課題を抱える。一方、足元ではエンジン車がまだまだ事業の中心だ。「何でもかんでもやらないといけない時代になって材料のことまで考える余力が少なくなる」化学大手幹部は顧客の台所事情を推察する。その上で『餅は餅屋』とばかりに、軽量化ならアルミニウムメーカーや化学メーカーの出番がより多くなると読む。

 三井化学の淡輪敏社長は「自動車開発のバリューチェーンで当社が全く手がけていない設計・解析に踏み込める」と上流への進出に期待をかける。アークは試作・金型製造のイメージが根強いが、現在の柱は欧州での開発支援サービスだ。

 アークの主要顧客は独BMWのほか、英ベントレーや同マクラーレン、伊フェラーリなどの高級車メーカーだ。バンパーなどの開発を受注し、設計図作成からデータ化、試作、金型製造、量産まで手がける。

 「材料売りだけではモビリティー分野の成長は将来難しい」と淡輪社長の危機感は強い。従来の自動車メーカーとの関係は樹脂の仕様が固まった段階で声がかかる“一方通行”がほとんどだった。ただ、自動車メーカーが開発リソースを社外に求める中、これからは設計段階から素材を提案する、より付加価値が高いビジネスモデルが現実味を帯びる。

 東レは17年10月末に自動車エンジニアリング事業の東京アールアンドデー(東京都千代田区)に資本参加した。ともに自動車メーカーの先行開発に参画すれば、材料や部品の提案を強化できると狙いは明確だ。

 売り込むのは世界トップシェアを誇る炭素繊維だ。いまは高価で量産車への採用が想定ほど進んでいない。普及にはデザインなど新車の開発初期から入り込まねばならない。

 材料売りからの脱皮は日本の素材メーカーの成長には欠かせないが、順調とは言えなかった。自動車産業の変革が強烈な追い風となる。

M&Aで難攻不落に挑む
 自動車分野を開拓する上で、素材各社がターゲットとするのが欧州市場だ。旭化成の吉田浩常務執行役員は「(三井化学のアーク買収は)良い着眼。素材メーカーの提案力を増すための手段だ」とみる。

 各社は世界最大手の独フォルクスワーゲン(VW)をはじめ有力メーカーがある欧州を重点攻略地域と位置付けて体制を強化している。東レは8月に独ミュンヘン近郊に研究開発拠点を新設する予定。旭化成は2016年から独デュッセルドルフ市とその近郊に関連拠点を相次ぎ開設している。

 ただ、欧州の障壁は思いのほか高い。日本の素材メーカーは歴史的に日本の自動車メーカーや部品メーカーとの取引が多く、これまで欧州市場は“難攻不落の城”だった。吉田常務執行役員は「米国の自動車メーカーに入るより欧州のメーカーとのパイプをつくる方が時間がかかる。特にドイツは産学官の絆が強い。そこにアジアから参入するのは容易ではない」と苦悩を明かす。

 その打開策はM&A(合併・買収)だ。旭化成は欧州で樹脂コンパウンド(混練)メーカーの買収に動く。18年度に顧客網を含めてM&Aで一気に取り込んで、欧州市場に食い込む算段だ。アークが欧州に強いのも、05年に独デザイン・設計会社を買収した影響が大きい。