日本はビットコインの活用に乗り遅れている(写真:pinglabel/iStock)

ビットコインをはじめとする仮想通貨とその基礎技術であるブロックチェーン。ここ1年程度の価格急騰を受けて、仮想通貨に対する関心は急速に高まった。一方、仮想通貨はこれまでの投資対象とはまったく異なる性質を持っている。知識がなければ詐欺をはじめとする被害を受ける可能性もある。
そんなビットコインやブロックチェーンについて一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏が、専門的な用語や概念の使用を最低限にとどめ、Q&A形式で基礎からまとめた『入門 ビットコインとブロックチェーン』から一部を抜粋する。

ブロックチェーンは情報を記録する新しい仕組み

Q)仮想通貨とブロックチェーンは、どう関連しているのですか?

ブロックチェーンは、ビットコインの中核的基礎技術であり、電子的な情報を記録する新しい仕組みです。

取引記録を、ネットワークの参加者全員で、公開された台帳に記入し、管理します。10分間に世界中で起きたビットコインの取引データを「ブロック」という1つのまとまりに書き込みます。AさんからBさんに送金、CさんからDさんに送金、EさんからFさんに……という取引を全部書き込むわけです。

主な特徴は、管理者が存在せず、自主的に集まったコンピュータが運営しているにもかかわらず、事業が信頼できること、そして記録が改ざんできないことです。つまり、不正が困難な分散管理型の取引台帳です。ブロックチェーンは、これまでのものとは全く次元が異なる技術で、経済や社会に大きな変化をもたらします。

これまで、送金などの経済的取引は、銀行など、信頼を確立した機関が管理することで行われてきました。ブロックチェーンは、そうした管理主体の代わりに、コンピュータネットワークが取引の正しさをチェックします。しかも、記録を書き換えることが、事実上できないようになっています。このため管理者が不必要になり、低いコストで運用できるのです。

Q)ブロックチェーンの登場はインターネットの登場と同じような重要性を持つといわれますが、それほど重要なことなのでしょうか?

ブロックチェーンの重要性を理解するには、「インターネットでできなかったこと」を考えてみると分かりやすいでしょう。

インターネットは、情報を地球上のどこにでも、ほぼコストゼロで送ることを可能にしました。これは、革命的なことです。しかし、インターネットでもできなかったことが2つあります。

第1は、「経済的な価値を送ること」。そして第2は、「信頼を確立すること」です。この2つを、ブロックチェーンは可能にしたのです。

これによって、経済的な価値を安いコストで送ることが可能になり、またデータが正しいといえるようになりました。いままでインターネットが実現できなかった2つのことを、ブロックチェーンは実現したのです。これは、「革命」です。

ドン・タプスコットは、『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社、2016年)の中で、「従来のインターネットが情報のインターネットであるのに対して、ブロックチェーンは価値のインターネット」といっていますが、そのとおりです。

経済的な価値を送るために必要な条件は…

Q)ブロックチェーンによってインターネットで経済的な価値を送れるようになったのは、なぜですか?

インターネットで経済的な価値を送るために必要な条件は、2つあります。第1は、銀行のような管理者が存在しなくても、取引記録システムを信頼できること。第2は、そこに記録された情報が、「改ざんできない」ことです。

電子的なデータは容易に書き換えられるので、提出された電子データが正本なのか、書き換えられたものなのかを、判断ができません。

そのため、インターネットが登場して以降も、電子的な手段だけで経済的な取引を完結するのは、非常に難しかったのです。

これに対して、ブロックチェーンに書き込まれたデータは、書き換えることが事実上不可能、というのがポイントです。そのため、信頼性が担保されます。このために、貨幣などの経済的価値を、インターネットで送ることができるようになったのです。

ビットコインなどの通貨に限らず、証券取引や保険にブロックチェーンを応用する試みも行われています。金融は、ほとんどの経済活動の裏側にあるものなので、想像もつかないような変化が起きる可能性があります。

また、金融にとどまらず、さまざまなビジネス領域での活用が期待されています。シェアリング・エコノミーなどの分野で大きな変化をもたらすと考えられます。また、予測市場、商品の履歴追跡、IoTといった応用範囲があります。

ブロックチェーンは、情報の世界においてインターネットが登場したときと似た地殻変動を、金融などの経済活動の世界に引き起こすでしょう。

世界経済フォーラムは、2016年8月に発表したレポートの中で、ブロックチェーンを、「今後数年間に世界に大きな影響を与える10大技術の1つ」としました。

Q)ブロックチェーン開発に最も積極的に取り組んでいる国はどこですか?

これまではアメリカでした。しかし、最近では中国に移りつつあります。

中国政府は、2016年に策定した「第13次5カ年国家情報化計画」(計画期間:2016-20年)において、ブロックチェーンを優先プロジェクトとして指定しました。

中国の調査会社「乌镇智库(Wuzhen Institute)」の「2017年中国ブロックチェーン産業発展白書(中国区块链产业发展白皮书)」は、興味あるデータを示しています(この白書は中国語ですが、「区块链」がブロックチェーンであることを知っていれば、読むことができます)。

それによると、ブロックチェーン関連企業の設立数は、2015年まではアメリカが世界一だったのですが、2016年に中国がアメリカを抜き、世界一となりました。

中国の金融機関は、ブロックチェーンをてこに、技術面の後れを一気に挽回し、システムを一新しようとしています。

比較にならないほど後れている

Q)日本でのブロックチェーンへの取り組みの状況は?

ブロックチェーンに関する日本での取り組みは、海外に比べて、スタートアップベンチャーの数も圧倒的に少なく、比較にならないほど後れているというのが現状です。

あるコンサルティング会社の調査によれば、ブロックチェーンに限らず、フィンテック全体の投資額が、日本はアメリカの200分の1といわれています。

また、非上場で評価額が10億ドル以上の「ユニコーン企業」と呼ばれるスタートアップ企業は、ウォールストリート・ジャーナルによれば、2017年10月に全世界で168社ほどあるといわれていますが、その半数以上がアメリカで、その次は中国です。日本は1社か2社で、比べものにならないのが現状です。

これまでの日本の技術は、モノづくりやハードウェアの分野で強みがありましたが、コンピュータサイエンスなどの先端分野では弱かったことが背景にあります。

この分野の教育が他国に比べ後れているのも、大きな原因です。

Q)インターネットで後れをとってしまった日本と日本企業が、ブロックチェーンで逆転を果たすことは可能でしょうか?

変化に対応するには、社内の技術人材の中心をシフトさせる必要があります。

しかし、日本の企業がこのような要請に対応するのは、極めて難しいといわざるを得ません。エレクトロニクス産業の場合には、それに失敗しました。日本の技術が劣化したのではなく、技術の性格が変わり、そのシフトに日本企業が対応できなかったのです。基本的な理由は、日本企業が自己完結的で閉鎖的な構造を持っていることです。

しばしば、技術開発について、「エコシステム」ということがいわれます。これは新しい技術を開発するための体制です。このコンセプトは、技術の開発だけではなく、活用についても重要です。日本企業は、「技術利用のエコシステム」において、大きな問題を抱えているのです。

日本企業によるブロックチェーンの活用事例

Q)ブロックチェーンを活用した日本企業で、注目される企業はないでしょうか?

日本企業によるブロックチェーンの活用事例もあります。


例えば、ソニー・グローバルエデュケーションは、ブロックチェーンを教育分野に応用し、個人の学習到達度や学習活動記録などのデータをブロックチェーンで管理しようという取り組みを始めています。

就職活動をするときに、学校の成績証明書など公的機関の証明書を出しますが、それと同じようなものです。

同社は、「世界算数」というテストを行っていますが、その成績をブロックチェーンで管理するというものです。そうすると、試験でどのくらいの成績をとったかが、「正しいデータ」として分かります。

また、リクルートの子会社であるリクルートテクノロジーズは、転職支援業務の一部をブロックチェーン化する実証実験を行いました。「履歴書」「卒業証明書」などの個人データをブロックチェーンで管理し、転職時に活用することで人的資源の管理、活用を行おうという取り組みです。

事例はまだ少ないものの、こうした事例が日本でも出てきています。