(写真提供=HARK)イ・ジェヨン監督

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韓国の人気俳優イ・ビョンホンが主演した映画『エターナル(原題:シングルライダー)』が、2月16日から日本で公開される。同作品は昨年2月に韓国で公開され、さまざまな意味で反響を呼んだ作品だ。

イ・ビョンホンといえば、今やハリウッドでも活躍するワールドスター。2016年2月の第88回アカデミー賞授賞式では、韓国人俳優として初めてプレゼンターも務めている。

昨年はアル・パチーノと共演したサスペンス『ブラック・ファイル』、デンゼル・ワシンシン、クリス・プラットら豪華俳優陣と肩を並べた西部劇『マグニフィセント・セブン』など2本のハリウッド映画と、カン・ドンウォン、キム・ウビンらとしのぎを削り合った韓国映画『MASTER』が日本で公開。韓国でも歴史大作『南漢山城』が上映され大好評だった。

そんなイ・ビョンホンが「シナリオを読んで即決した」という映画が『エターナル』である。一瞬にしてすべてを失った男が、オーストラリアで暮らす家族のもとを訪ねるが、そこで衝撃の事実を知り、人生の決断を迫られる人間模様を描いたドラマだ。

このシナリオを執筆し自らメガホンをとったのがイ・ジェヨン監督だ。


(写真提供=HARK)イ・ジェヨン監督


『エターナル』で長編作品デビューとなったイ・ジェヨン監督は、どんな思いで作品を作り上げたのか。

日本公開に先立ってメディア取材のため来日したイ・ジュヨン監督に話を聞いた。

「脚本のベースになっているのは、失敗」

――まずは、『エターナル』の日本公開を控えての感想をお聞かせください。

「韓国公開からちょうど1年ですね。自分の映画が日本で公開するなんて、すごく特別な経験だなと思います。

個人的には、今回の日本公開を通じていよいよこの『エターナル』プロジェクトが幕を閉じる気もします。はたして日本のお客様にはこの作品がどのように映り、どのように感じてもらえるか、楽しみですね」

――監督自ら脚本を執筆されたと聞きました。最近は韓国でも小説やウェブトゥーンを映画化したり、日本の小説などが原型となるケースが増えている中での書下ろしシナリオだけに貴重に思えます。このような物語を書くきっかけは何だったのですか?

(参考記事:韓国で映画化された日本の原作小説・ドラマの“本当の評判”と成績表

「脚本のベースになっているのは、私が社会人として生きてきたなかで経験した失敗、でしょうか。

仕事をしていると、どうしても目先のことにとらわれてしまう瞬間がありますよね。お金や名誉よりも大切なことがあるとはわかっていても、ついつい後回しにしてしまう。私自身、そんな経験をたくさんしてきました」

――現代人が抱えるジレンマですね。イ・ビョンホンが演じる主人公の状況も、まさにそうだったと思います。ところで、舞台になっているのはゆったりとしたイメージのあるオーストラリアなのですが…。

「オーストラリアには撮影で何度か訪れたことがあって、個人的に馴染みのある国なんです。それに、韓国と季節が逆というところも好きです。

私が描こうとしたのは、ソウルで裕福な生活を送っている家族が、より良い未来のために下したはずの選択に失敗する話。オーストラリアは韓国と違って家族や個人の時間、感情などを優先する。いわば韓国とは、人生の価値観が異なる国だと思ったので、コントラストを見せるためにもオーストラリアがいいのではないかと思いました」

――とても印象的な映像美でした。イ・ビョンホンさんに焦点を合わせた『エターナル』メイキング写真集が発売されることも納得です。今回、イ・ビョンホンさんが『エターナル』の脚本に惹かれ、二つ返事で出演を決めたそうですが、“大物俳優”イ・ビョンホンの演技を間近で見た感想は?

「イ・ビョンホンさんとは脚本に対する協議を重ね、一緒に目指すべき部分を確認してからは、お互い自由にやりました。私は彼がジェフンというキャラクターを通じて見せたかった姿を明確に把握していましたし、本人もすごく熱心でしたね。

特に、私とほぼ同じことを感じ取っているんだなと実感したのは、英語のセリフ。やはり舞台がオーストラリアなので必然と英語のセリフが出てくるわけですが、私が望んだのは“中年のおじさんが喋りそうな、本番に弱い英語”だったんです。それをビョンホンさんが自らキャッチして、そういう演技をしてくれたときは感心しました」

――では、今後もまたイ・ビョンホンさんと一緒に作品を作る可能性も?
「機会が来れば拒む理由はありません。演技に関しては彼の右に出る者はいないですし。でも、そんな素晴らしいことがまた起きるでしょうか?(笑)」

――最近の韓国映画を観ると、犯罪やアクションといったジャンルが大多数を占めていています。『トイレット』という社会的に波紋を呼び大炎上した作品もあります。『エターナル』のように人の感情を繊細に描いた作品は少なくなったような……。

「私はまだデビューしたての新人なので韓国映画界の流行をすべて把握しているわけではありませんが、作られる作品の本数を見ると、エンターテインメント映画が主流なのは事実です。昔はもっと幅広いジャンルの作品が存在したと思うのですが……。

ただ、それはどちらか一方の好みで出来上がった現象ではないでしょう。あくまでも商業映画ですし、莫大な資本が投入されるものですから。需要と供給が一致さえすれば、エンターテインメント作品でも、そうでない作品でも作らない理由はありません」

――そのような韓国映画界で、監督ご自身の役割があれば何だと思いますか?

「うーん、私はただ、今後も自分にできることをやっていきたいですね。ただ与えられたミッション、もしくは自分がしたい話をうまく繰り広げるのが大事だと思うし、だからこうやって『エターナル』を作るチャンスをいただきました。

韓国映画界において、自分が大きな役割を果たしたいという欲望はまったくありません。強いていえば、身の丈にあった範囲で自分にできる映画を作るのが、私の役割だと思っています」

――韓国には、女性監督の作品や、女性を主人公にした作品が少ないように思います。

「私の場合、自分が女性だからといって女性の話をしたいとは思わないほうです。あくまでもストーリーが先で、その物語に最も適したジェンダーを決めていくスタイルですので。

ただ、世界的に見て女性が中心となる作品は少ないし、業界で働く人やや決定権者の大多数が男性であることは確かです。それでも最近は業界も変わる必要性があると認識しているようなので、お互い地道に努力すれば徐々に変わることでしょう。

いずれにしても、女性監督や女性が主人公の映画が増えることは、結局のところ観客次第というところとも無関係ではないように思います。どちらかの一方的な問題ではない。いろんな問題が複合的に絡み合っているのは、すべてのエンターテインメント産業が抱える悩みではないでしょうか

――最後に、日本の映画はよく見ますか? 日本映画にはどんな印象をお持ちでしょうか?

「私、アジア映画が大好きです。好きな日本の監督ですか? 多すぎて名前を挙げるのは難しいですが、いわゆる誰もが知っている監督の作品はかならずチェックしています。

ただ、日本映画といえば、昔はいい意味で一風変わった商業映画が多かったように思いますが、最近はそういう独特さをあまり感じませんね。

インターネットの普及で映画館に対するニーズが減ってきているからでしょうか…。そういう状況に関しては、おそらく制作サイドや俳優たちが最も残念な思いをしていることでしょうね。もっといろんなジャンルの映画を撮っていた時代が懐かしくなるというか」

普段から「人間の悩みに興味がある」というイ・ジュヨン監督。「これからも市井を生きる人々の姿を描いていきたい」というのが、映画監督としての目標だという。デビュー作『エターナル』では、40代の男の憂鬱と孤独に焦点を当てた。

その主役を演じたイ・ビョンホンは言っている。

「大勢の観客を集め、万人が喜び面白がるような映画ではないかもしれません。でも、誰かにとっては人生に残る1本になってくれると信じています。少なくとも僕にとっては、人生に残る作品になりました」

韓国で「信じて観れる俳優」「演技の神」とまでいわれるイ・ビョンホンが、その人生に残る映画とさえ語った『エターナル』。スクリーンを通じて、“日常にある小さな幸せ”の尊さに気づかされるのは、私だけではないはずだ。

(文=慎 武宏)