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実証された「ほめる」効果

 バレンタインデーに義理チョコを渡したのがきっかけで上司との人間関係がよくなり、いろいろと気を遣ってくれるようになった、とある女性が語っていた。一方には、チョコレートをもらえないとみじめなのでバレンタインの日は毎年会社を休むという気の小さい男性もいる。たかが義理チョコ、と笑っていられない。

 義理チョコをもらったからといって、誰もそこに特別な好意が込められているとは思わない。それでもたいていの人は、もらうと喜ぶ。顔を赤らめ、相好を崩している姿を目にして「大の男が・・・」とおかしくなることもある。とくに欲しいわけではないが、もらうとうれしい。そして態度も変わる。そこが人間の面白いところだ。

 ほめられるのも、それと同じである。

 他人から認められたい、ほめられたいという承認欲求が最近注目されるようになった。そして上司が部下を、あるいは同僚同士で「ほめる」取り組みを職場ぐるみで行うところが増えている。

 ところが一方には「口先だけでほめても効果がない」とか、「やたらにほめるとかえって逆効果だ」という人もいる。

効果はあるのか? ないのか?

 私は10年ほど前から複数の企業や病院等で実際にほめる取り組みを行い、その効果を測定した。その結果、ほめられると自己効力感や挑戦意欲、内発的モチベーション、処遇への満足度などが高まることが明らかになった(拙著『承認とモチベーション』同文舘、2011年)。

 それ以外の効果もある。人はほめられたら、ほめてくれた相手に対して感謝し、好意を抱く。そして、何らかの形でそれに応えようとする。それが人間関係をよくするのである。

ほめる習慣づくりが第一

 では、どのようにほめたらよいのか?

 私は、あまり深く考えず「ありがとう」「えらい」「スゴい」という3つの言葉を発するように勧めている。相手が何かをしてくれたら「ありがとう」と言えばよいし、決まったこと、たとえば新入社員なら毎日遅刻せずに出勤していたら「えらいね」と言えばよい。そして特別なこと、たとえば部下が仕事をいつもより早く片づけたとか、自分から提案をしたようなときには「スゴい」と言う。

 ちなみにこの3語は、私が学生や社会人に行った「やる気が出た言葉」アンケートの結果に基づいている。

 最近はほめることが大切だという認識が浸透してきたが、実際にほめるとなるとなかなか難しい。急にほめ始めるのは不自然だし、どのようなほめ方をしたらよいか分からないという人も多い。たしかに最初から、相手の長所を見つけ、的確なほめ方をしようとするとハードルが高すぎる。

 だからこそ、簡単に口に出せるこの3語を使えばよいのである。そして、普通にほめ言葉が口に出せるようになったら、ほめる内容を相手によって変えたり、ほめ方を工夫したりすればよい。このように初級篇をマスターしてから上級篇に移ると無理がない。

「ほめられ上手」にするためにも

 気軽にほめる習慣をつくることにはもう1つ意義がある。相手を「ほめられ上手」にすることだ。

 ほめられるのに慣れていないと、必要以上に謙遜するなど、素直に喜びを表現できないことが多い。せっかくほめても、相手が素直に喜んでくれなければコミュニケーションが成り立たない。一方、「ほめられ上手」は素直に喜びを表現し、自分が相手をほめることもできる。だからこそ、ほめる・ほめられる習慣づくりが大切なのである。

 わが国には、他人の長所を認めるより短所や欠点を指摘するようになりがちな風土がある。そのため、とくに若手は萎縮したり引っ込み思案になったりする。その風土を変えるためにも、ほめる習慣、ほめる文化をつくることには意義がある。

 ほめる取り組みを始めた職場からは、人間関係がよくなり職場の空気が明らかに変わったという声が届いている。それがお客さんにも伝わったのか、店員とお客さんとの関係もよくなったという声も聞かれる。

 もちろん職場以外でも、ほめるとよい効果が表れる。ある女性は、まったく家事を手伝わない夫がたまたま食器を洗っていたので「スゴいね」と少し大げさにほめた。すると翌日から夫が食器洗いをするようになり、いまでは部屋の掃除もしてくれると喜んでいた。もっとも最初のうちは食器に洗い残しがあり、その女性がこっそり洗い直していたそうだが。

 このように、ほめることにはいろいろな効果がある。バレンタインデーに義理チョコを贈る感覚で気軽にほめてみてはどうか。

筆者:太田 肇