半世紀ぶりの国産旅客機として三菱重工業が社運を懸ける「MRJ」。納入開始をすでに5回も延期するほど開発は苦境にあるが、業界再編という新たな試練が降りかかった(撮影:尾形文繁)

「今は会社全体で大きな問題に取り組む『戦闘状態』にある」。2月6日の決算説明会で、三菱重工業の宮永俊一社長はこう語り、危機感を示した。

「陸」と「空」の両方で苦戦

実際、2018年4〜12月期の営業利益は800億円と前年同期比では復調したが、会見では同社の先行き懸念に質問が集中した。懸念の一つが、収益柱の火力発電機器などパワー部門の受注の落ち込みだ。

温室効果ガスの排出削減を求める「パリ協定」の発効で、中核の発電用大型ガスタービンの市場は縮小している。競合の米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスも大規模リストラを発表するなど、「構造的にかなり厳しい」(宮永社長)状況にある。

さらに同社を戦闘状態に突入させた最大の懸案が、開発を進める小型ジェット旅客機「MRJ」(三菱リージョナルジェット)だ。

開発が始まった08年当初は、13年の納入開始を予定していたが、すでに5回も延期。現在は20年半ばを目標にしている。半世紀ぶりの国産旅客機開発ゆえに経験不足が足かせとなり、商業化に欠かせない航空当局からの型式証明取得に時間を要しているためだ。

外国人技術者の大量投入などで開発を急いでいるが、遅延で開発費が膨張。当初想定した1500億円程度から、今は5000億円超に膨らんでいるとみられている。


今春で就任6年目に入る三菱重工業の宮永俊一社長。2016年11月にはMRJ事業を社長直轄の体制に移行するなど、日の丸ジェットに心血を注ぐ(撮影:今井康一)

7年の後ろ倒しにもかかわらず、これまでMRJは427機(正式契約のみ)と少なくない受注数を維持してきた。米メーカー製の最新鋭エンジンの搭載が評価されてきたためだが、1月下旬、米イースタン航空の発注した40機がキャンセルされた。キャンセルはこれが初めてだ。

競合となるブラジルの小型旅客機大手・エンブラエルも目下同じエンジンを積んだ新型機を開発しており、これまでの遅延で、時間的な優位性はほぼ消えてしまった。次は残る受注をどう維持できるかが焦点となる。

顧客でもあるボーイングと競合する可能性も

そんな中、MRJにとって致命傷となりかねない業界再編の議論が浮上。米ボーイングとエンブラエルとの提携交渉だ。ボーイングは両社の商用機部門統合を視野に入れているとされる。


当記事は「週刊東洋経済」2月17日号 <2月13日発売>からの転載記事です

統合にはブラジル政府の承認が必要だが、仮に提携が成立すればMRJは最大手のボーイングと正面衝突することになりかねない。胴体などボーイング向けの部品供給は三菱重工の航空部門の柱であり、この点からも抜本的な戦略の見直しを迫られることになる。

宮永社長は今春で就任6年目に入る。「この事態を乗り切るメドがついたら、若返りを進めたい」とする。就任以来最大の正念場でどんな舵取りを見せるか。