by benjgibbs

鋼は非常に硬い材料として知られていますが、「木材を粉砕し、圧縮する」という工程によって鋼よりも強度のある材料を作り出す方法が、科学誌natureに発表されています。

Crushed wood is stronger than steel

https://www.nature.com/articles/d41586-018-01600-6

木材の強度を上げるという研究は長年にわたって行われてきましたが、そのほとんどは植物の細胞壁に含まれるセルロース中の天然の硬質ポリマーである、セルロースナノファイバーを抽出し、組み合わせることで新しい材料を生み出すことに焦点が当てられてきました。

メリーランド大学のリ・テン氏の研究チームは、これまでのアプローチとは違う角度から、木材を強化することに挑戦したとのこと。チームは水酸化ナトリウムと亜硫酸ナトリウムの溶液にオーク材など複数の木材を入れ、7時間にわたって煮込みました。その結果、デンプン質のセルロースはほとんど完全に残ったものの、それ以外のリグニンを含む成分が流出した木材の構造には、多数の穴が空いた状態になったとのこと。

その後、チームは100度の高温で1日かけて木材を圧縮。そして成形された木材は、厚さが元の木材の5分の1、密度は3倍で強度が11.5倍にも向上したとのこと。以前のアプローチでは強度の上昇は3倍から4倍程度だったのを考慮すると、これは大きな成果といえます。



by jasmeet

新しく作り出された材料を走査型電子顕微鏡でスキャンすると、押しつぶされたセルロース繊維が互いに絡み合っているのがわかったそうです。ドイツのマックスプランク研究所のミハエラ・エダー氏は、「これまで木材を圧縮することで強度が得られるのは知られていたが、セルロースナノファイバーの絡み合いが強度に寄与する影響は知られていなかった」としています。

研究チームは材料の強度を測定するため、軍用車両の耐久テストに使用するエアガンから鋼製の弾を秒速30メートルでぶつけたとのこと。すると、新材料の薄い板を5枚重ねた厚さ3ミリの層は、鋼製の弾を停止させることに成功。秒速30メートルというスピードは実際の銃撃よりも遅い速度ではあるものの、車両事故におけるスピードと同程度だそうで、通常の車両に使用するには十分な強度といえます。



by Alessio Michelini

しかし、他の研究者たちからは「他の手法を使えばより安く、より強い材料を作り出すことができる」という意見も出ているとのこと。オレゴン州立大学のフレッド・カムケ氏は「木材のリグニンを除去せず、より高温で圧縮し、最後に樹脂でコーティングすることでほとんど同程度の材料が作り出せる」と述べています。

テン氏の共同研究者であるフー・リャンビン氏は「適度なリグニンを除去することで、木材が持つ最高の強度を発揮させることが可能だ」と述べており、木材から45パーセントのリグニンを除去したときが、最も強度の高い材料を得られたとのこと。リグニンを除去しすぎると密度が低く、もろい材料になってしまうこともわかっています。

エダー氏はテン氏らチームが発表した研究結果について、「私はこの方向の研究に可能性を見いだしています。木に固有の性質を利用して強度を高めようとする点が素晴らしい。実に興味深い材料です」と語りました。