【ビジネス解読】「人民元」国際化に中国の野心再浮上 メガバンクは関連ビジネスにのめり込んで大丈夫か

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 中国政府が、通貨・人民元の国際化に向けて再び本腰を入れ始めた。

 当局が、過度の元安を防ぐ特殊な操作を今年に入ってひそかに停止。好調な輸出を背景に元急落や資金流出への懸念が和らいだのを受け、「恣意(しい)的」と批判された為替操作を緩め、国内外の取引で使われる元を増やそうと考え始めたからだ。欧州各国の中央銀行は外貨準備に元を組み入れ始めたほか、三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行が1月、中国市場でそれぞれ人民元建て債券(パンダ債)を発行した。両行とも海外市場で元建て債券を発行してきたが“本丸”の中国市場では初めて。だが、再び活況を呈した始めた人民元ビジネスにリスクはないのか−。

 中国人民銀行(中央銀行)は毎朝、国内の大手銀行からの報告に基づき、元の対ドル取引の「基準値」を算出している。各行は前日終値をベースに報告するが、人民銀の指示を受けて昨年5月からは、元が急落した場合も報告値への反映を小さくする特殊操作を導入。人民銀による裁量の余地も広げた。市場心理の揺らぎや「群集効果」で、相場が一方向へ極度に振れるのを防ぐのが目的とみられる。

 市場関係者からは「元安による資本流出に歯止めをかけたい当局の露骨な為替介入」(為替アナリスト)と批判されたものの、16年末から17年初頭に「1ドル=7元台」に迫った元の対ドル相場は反転し、17年通年では6%高と4年ぶりに上昇した。

 ところが今年に入ると突然、昨年導入したこの特殊操作を撤廃。事実上、元高誘導策を取りやめた形だ。

 人民銀は今回の見直しを正式には発表しなかったため、市場では真意をめぐってさまざまな憶測が飛び交う。

 まず、17年の対米貿易黒字が過去最高になり、外貨準備も17年初めを底に増加に転じたことが挙げられる。投機筋を巻き込んだ元売りや資金流出の懸念が和らぎ、過度の通貨管理の必要性は薄れつつある。

 もう一つは、習近平指導部が再び元の国際化を目指し始めたという事情だ。

 元は16年10月、ドルやユーロ、円、ポンドに続き、国際通貨基金(IMF)の仮想通貨「特別引き出し権」(SDR)に組み込まれ、17年3月には、李克強首相が政府活動報告で、「国際通貨としてお墨付きを得た」と強調したほどだ。

 ただ、元安が加速した15年以降、人民銀はさまざまな資本流出規制や為替介入措置を講じてきたため、投資家の評判は芳しくない。国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、貿易決済などに使われる通貨別シェアで、元は15年8月に2.79%と円の2.76%をわずかに上回り、「第4の国際通貨」にのし上がった。ところが、昨年12月は1.75%と6位に後退している。

 為替相場が落ち着いたタイミングで市場重視の姿勢を打ち出すことで、習指導部は元の存在感が一層低下する事態を避けたい考えとみられる。

 中国当局の動きに呼応するように、ドイツ連邦銀行(中央銀行)は今年1月15日、外貨準備に元を加えると発表。仏メディアは同日、フランス中央銀行はすでに外貨準備の一部として元を保有していると報じた。欧州諸国がチャイナマネー誘致合戦にしのぎを削る中、仏独は国際通貨としての元をいち早く信認したことになる。

 翌16日、三菱東京UFJとみずほの両行が中国市場でそれぞれパンダ債を発行。日本から中国に円を送って元に替える従来の方法は中国の資本規制の影響を受けやすいが、パンダ債であれば日本の大手企業が高い信用力を背景に現地で元を調達する有力な手段となり得る。

 パンダ債をめぐっては日中の外交関係改善を受けて昨年末、日本企業に解禁されることが決まった。仏独当局と邦銀の動きには、元の国際化に再び本腰を入れ始めた習指導部の思惑も垣間見える。だが、中国当局の唱える「自由化」「国際化」を信じ、元ビジネスにのめり込んで大丈夫なのか。

 市場関係者の間では、人民銀による今回の基準値算出手法の見直しは、中国当局が元高ドル安がもたらす貿易面のマイナスに悩まされた結果、打ち出されたとの観測も出ている。足元の対ドル相場は1ドル=6.2〜6.3元台で推移しているが、元高が進みすぎると、輸出産業の価格競争力が失われるからだ。

 2月2日の中国・上海市場の人民元相場は通常取引の終値(日本時間午後5時半現在)が、前日比0.26%高の1ドル=6.2798元となった。約2年半ぶりの元高水準で、人民銀が元の事実上の切り下げを行った15年8月11日の終値を上回った。

 一方、中国政府は17年秋に国内の仮想通貨取引所を閉鎖した。一部富裕層の間で、元と仮想通貨の代表格ビットコインを交換し、ビットコインをドルなどに換え、資金を海外に移す動きが出始めたからだ。

 そこで、投資家が新たに生み出したのが、別の仮想通貨「Tether(テザー)」を使った「抜け道」だ。テザーはビットコインなどと違ってレートがドルに固定されていることから、価格変動が小さく、投機性も低いとして中国当局からあまりにらまれていない。このため、中国の投資家は、香港や韓国の取引所で、元をいったんテザーに交換し、それをビットコインなどに替える取引を続けているようだ。

 この結果、資本の流出はまだ続いているとみられ、「人民元ショック」と呼ばれる元急落のリスクは残ったままだ。また、テザーを発行する企業(企業名=テザー)は十分なドル資産を持っていないとの疑惑が浮上している。テザーを保有する投資家から換金要請があっても、それに応えることができなくなる可能性があるというのだ。

 日本では、取引所大手コインチェックから約580億円の仮想通貨「NEM(ネム)」が流出した問題が大きく報じられているが、テザーの信用が失われると、仮想通貨市場に流れるチャイナマネーが細り、ビットコインを含む仮想通貨の価格大暴落を招く恐れもある。そうなれば、元相場の乱高下は必至だ。

 野村証券の郭穎アナリストは1月29日のリポートでこんな分析を示した。

 「(中国への)資本流入拡大に伴う本格的な元高になるには、政治・政策面の正常化期待の回復を待つ必要がある」(経済本部 藤原章裕)

 人民元相場 当局が一定の範囲での値動きだけを認める管理変動相場制をとっている。中国人民銀行(中央銀行)が朝方に発表する基準値を中心に、1日当たり上下それぞれ2%の変動しか認めていない。人民銀は、前営業日の相場などを反映して基準値を設定していると説明するが、詳しい算出方法は不明で、共産党・政府の意向が働いているとみられている。昨年導入した新たな設定方法では、相場の変動があまり加味されずに当局の恣意(しい)的な運用がさらに広がる可能性が指摘されていた。(上海共同)