疲れやすい、立ちくらみする、仕事中に頭がボーッとする……女性に多く見られる貧血気味の症状。つらい状態が長引くようなら、「貧血だから」と軽く見ず、病院で診察を受けましょう。鉄欠乏性貧血、また他の病気の可能性もあります。しかし、そこまでいかないケース、病院で診察を受けても病気とは言えない「貧血気味女子」が多いと思います。今回は、そんな“貧血気味”の対応法を考えてみましょう。

市販の鉄剤にはビタミンCや葉酸も

Suits世代の女性から、よくこんな話を聞きます。

「特定健診の血液検査でヘモグロビンの値が10g/dlで、貧血気味と言われました。ふだんは健康なのですが、ときどきクラッと来ることがあり、ちょっと心配です」、「仕事中にめまいが起きることがあります。貧血でしょうか」、「以前から貧血気味。特に生理中に頭がボーッとするのですが」などなど。そしてこう質問されます。

「市販の鉄剤でも飲んだほうがいいでしょうか?」

鉄分は体の中で作り出すことはできないので、本来なら食べものから摂取しなくてはなりません。ですから貧血気味の人は、まずふだんの食事メニューを見直して、鉄分摂取を心がけてください。その上で、それでも鉄分が足りない……という場合に、市販の鉄剤を試してみるといいでしょう。

前回、病院で処方される鉄剤について説明しましたが、市販薬の鉄剤もあります。ただし、含まれる鉄分量はグッと少なくなります。

たとえば、市販薬「マスチゲン」や「ファイチ」の1日あたりの成分量は「溶性ピロリン酸第二鉄79.5mg」となっていて、これは「鉄分10mg」に相当します。10mgといえば、厚生労働省の食料摂取基準(2015)で推奨する1日あたりの鉄分摂取量とほぼ同じです(18〜49歳の女性の場合)。一方、処方薬の鉄剤は、1日あたりの鉄分は50〜100mgがほとんどで市販薬の5倍〜10倍も含みます。

市販薬には処方薬にない特徴があります。鉄分のほかにビタミンCやビタミンB12、葉酸などが配合された製品が多いです。ビタミンCは鉄分の吸収をよくするため、ビタミンB12と葉酸はヘモグロビンや赤血球の生成を助けます。これら鉄分摂取をスムーズにするための成分が配合されているのは市販薬ならではでしょう。

副作用についてですが、鉄分の含有量が少ないとはいえ、相当の鉄剤を含みますので、処方薬と同じような症状はあり得ます。便が黒くなる、硬くなる、便秘しやすくなる、などです。吐き気や食欲不振なども見られます。食べるもの、飲むものがなんとなく鉄くさくなる、さびた鉄のにおいがする、という話もよく聞きます。こうした副作用が薬による効果(ベネフィット)を上回るようであれば、服用は見合わせたほうがいいでしょう。いくら血中のヘモグロビンが増えても、体調を崩したり、食事がおいしく食べられなくなったりしたら、それは本末転倒だからです。

“レバニラ炒め”は鉄分摂取おすすめメニュー

貧血気味の人はまず食事の見直しが大切です。鉄分の多い食材といえば、よく知られているのはレバー!でもそれだけではありませんよ!

鉄分の種類は大きく「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」に分かれます。血液中のヘモグロビン(酸素を体内に運ぶ運搬役)の成分になるのは「ヘム鉄」のほうです。ヘム鉄は肉や魚、非ヘム鉄は野菜や穀物に多く含まれています。特に多く含んでいる食材は次のとおり。

<ヘム鉄>

・豚レバー ・鶏レバー ・鶏もも肉 ・牛もも肉 ・かつお ・しじみ ・あさり 

<非ヘム鉄>

・ホウレンソウ ・コマツナ ・ひじき ・大豆 ・油揚 ・卵黄

ヘム鉄のほうが非ヘム鉄より鉄分の吸収率が高いことが知られています。その吸収を助ける栄養素のひとつがビタミンCです。ですからヘム鉄の多い肉や魚だけでなく、野菜も穀類もバランスよく食べることで、鉄分の吸収もよりスムーズになります。たとえばヘム鉄豊富なレバーと、ビタミン類と非ヘム鉄を含んだニラを合わせたレバニラ炒めは鉄分補給に適したメニューと言えるでしょう。

鉄分に限りませんが、必要な栄養素は食事から摂るのが基本であり、理想です。食事によってほかの栄養素もバランスよく摂れ、栄養素の吸収がよくなったり、消化がよくなったり、体に必要な成分が生成されやすくなったりするのです。薬やサプリメントで単独で栄養素を摂っても、こうした効果までは期待できません。

とはいえ、レバーが苦手な人が無理にレバニラ炒めを食べることもないと思います。鉄分のため食べるのでは、おいしくないばかりか、食事そのものが苦痛になってしまいますからね。食べ物は体が「おいしい!」と思うからこそ吸収されるのだと思います。栄養バランスの取れた食事をつづけることで、鉄分もうまく摂取されると思います。市販のサプリメントや鉄剤に頼る前に、ぜひメニューを工夫して鉄分もおいしく食べてください!

レバーのヘム鉄、ニラの非ヘム鉄の組み合わせこそ貧血気味女子に最適!



■賢人のまとめ
“貧血気味”の女性が増えています。鉄分豊富な食材を意識した食生活を心がけましょう。それでも不足しがちな場合、市販の鉄剤も選択肢の一つ。ある程度長く飲まないといけない薬ですが、薬だけで貧血が治ることはありません。基本はあくまで食生活の改善からです。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。