教員の1週間当たりの仕事時間(平成26年度 文部科学白書)

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いま子どもたちは何に悩んでいるのか? 「死にたい」と言うのはなぜか? 10代向けの相談窓口サイトを2年弱運営してきたNPO法人3keys代表理事・森山誉恵氏が綴る、若者の悩みから見えてくる日本社会の課題――。

悩みを打ち明けられない子どもたち

「悩みがあってもだれにも相談できない」

この日本において、中学生の約2割、高校生の約4割が、そう答えています。

私が代表を務める認定NPO法人3keysでは、虐待や家庭環境などで親に頼れない10代の支援を行ってきましたが、いまの子どもたちにとって本音で気持ちや悩みを打ち明けられる環境があまりにも少ないと感じていました。

核家族化が進み、共働き世帯も増えている状況で、子どもたちの気持ちに十分に寄り添っている自信のある親は少ない時代だと思います。

経済状況や社会保障もまだ未熟な点が多く、長時間労働を前提にした働き方がまだ一般的。ひとり親家庭が貧困になりやすく、女性や母親の権利が十分に保障されていないことも相まって、母子家庭やひとり親家庭、もしくは家庭内の不和などが、さらに子どもたちに向き合う余裕のない状況を生んでいるのです。

かつて地域社会があった頃と違って子どもたちの1日は学校(部活も含め)と家の往復でした。家庭で本音が言えない子どもたちが学校で本音が言えるのかというと、そうではありません。

近年、『桐島、部活やめるってよ』をはじめ、スクールカーストをテーマにしたドラマや映画が増えていますが、学校はのびのびと勉強する場所というより、勉強ができるかどうか、どれだけ流行りのものを知っているかなど、「マウンティング」の場になりつつあります。

多くの先生が病んでしまい…

また、日本の学校の先生はOECDの中で最も働く時間が長く、授業以外の業務の種類(部活、事務、学校運営など)が多い国です。

教員の1週間当たりの仕事時間(平成26年度 文部科学白書)
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多様な責任を背負った先生の中で精神疾患などで休職にいたる数は平成11年から20年の約10年間で3倍に増加。先生は一般企業の2.5倍も鬱になりやすいと言われており、子どもと向き合えていないと答えた教員は6割にも上ります。

教員のメンタルヘルスの現状(平成24年1月22日 文部科学省 初等中等教育局 初等中等教育企画課)
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友達にも先生にも本音を言いづらい環境の中で、性の問題、家庭内の不和や虐待、経済的事情などを知られてしまったら、いじめや噂の対象になるかもしれません。そのため、子どもたちは学校でも自分の本音や感情を隠しているケースも多いです。

それでも未成年の犯罪・非行は減っています(14歳以下の「触法少年」のみ増加)。かつて多感な時期の10代は、暴走族、犯罪、非行などという形で様々な感情を吐き出していましたが、近年そういう傾向も見えなくなっています。

平成26年版 子ども・若者白書
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平成26年版 子ども・若者白書
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10代の10人に1人が自傷行為経験

では、10代の悩みは減っているのでしょうか。

実際には、非行・暴力などは減っている一方で、10代の自傷行為や、妊娠・中絶、引きこもり・不登校などは大きな問題となってきています。

国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦氏による研究では、10代の10人に1人は自傷行為をしたことがあるという結果が出ています。

親や先生に迷惑をかけたいわけではないけれど気持ちを吐き出したいときに、インターネットに投稿したり、自分を傷つけたりすることは、誰かを傷つけることよりも気持ちが楽なのでしょう。

かつてより、もっと人に迷惑をかけない形で、ひっそりと感情を吐き出しているのではないかと感じるのです。

そんな10代の現状に対して、私はインターネットやSNSの発展を決してネガティブには見ていません。昔よりも多様な情報が入るようになり、自分と同じ考えの人を見つけ共感しあいやすくなったのは間違いなく社会の進歩だととらえています。

しかし社会の発展に伴って、新しいリスクが生まれ、その対応策が十分かつ迅速に行われないと、一時的に事件や事故が増えるもの。そうしたリスクを踏まえ、解決策を練っていかねばいけない状況でもあるのです。

特にインターネットはこれまで以上にまだ精神的・社会的に未熟な未成年が大人の見守りから離れやすいというリスクを負っていることは事実です。

毎月1万人が利用する相談窓口

私たちがいまやるべきことはインターネットやSNSを批判することではなく、インターネット環境を10代にとっても安全で安心できる環境にしていくこと。

そう考え、2016年4月より10代向けの支援サービス検索・相談サイト「Mex(ミークス)」(https://me-x.jp) を立ち上げました。

昨年末、Twitterで「死にたい」とつぶやいた10代や若者を殺害した座間市の事件があり、その中に10代や若者の孤立が世間でも明るみになりました。

「Mex」は月に約1万人が利用しており、その多くは中高生です。このサイトを立ち上げる前から、Twitterをはじめ現在のインターネットやSNSは世代や立場を超えて関わりあえる「相互コミュニケーション」の場としては成熟していると感じています。

悩みをSNSで打ち明けたときに、「わかる」「いいね」と言い合えることで、気持ちが楽になる人も多いと思います。一方、専門的な関わりが必要であったり、大勢の人には知られたくない悩みをひそかに相談したい場合の受け皿はまだ多くありません。

誰にも言えない悩みを抱えたときには

例えば、自殺の相談を行っている「東京自殺防止センター」では、「死にたい」と電話をしてきた人に対して、「死んじゃダメ」という言葉は禁句だそうです。

先述の精神科医の松本俊彦氏によると、自傷行為をする10代に対して、命の大切さを説いたり、必要以上に同情を示したりすることはかえって状況を悪化させる可能性があるといいます。

専門的な研修を受けた人であれば、死にたいなどという深刻な悩みに対して、適切な手を差し伸べられますが、そういった知識を持ち合わせていない人の方が大半です。

専門性のない人だからこそできることと、専門性がある人だからこそできることは異なり、その両方を受けられる環境を整える必要があります。

これは学校に例えていうと、たわいもない話ができる友達はたくさんいるけど、妊娠や虐待など深刻な悩みを打ち明けられる保健室や進路相談室などのような専門的な相談ができる場所が気軽にはない環境がいまのインターネット環境なのです。

座間市の事件はそういう相互コミュニケーションの場だけが異常に身近になってしまった結果でもあると感じました。

特に日本は、カウンセリングや、精神科などを適切に頼ったり、支援機関に早期に相談をするという点が先進国に比べて一般的に行われていません。

インターネット環境の中も同じく、専門的な機関に気軽に、早期に頼る文化ができていないように感じました。

誰にも言えない悩みを抱えたときに、気軽に専門機関に頼れるような文化を作っていかないと、相互コミュニケーションだけでは解決できない問題は結局一人で抱えてしまうことになるとも危惧しました。

中高生の悩みを可視化する

相談機関には実は匿名で相談できたり、メールで相談できたり、24時間相談できるなど、まだ課題はあれども、支援団体・専門機関は確実に使いやすくなってきています。

しかし、私自身も10代の支援を行ってきた立場として8年ほど活動してきて、専門機関の「かたい」「使いづらい」イメージはまだまだ根深く残っているなと感じており、その結果、一人で悩みを抱える人、とりわけ10代が増えてしまうのはとてももったいないことです。

私たち大人が、レストラン検索サイトや、不動産検索サイトなどを使うことで、自分たちの常識以上に多様な選択肢があることを知る体験と同じように、自分の悩みに合わせて自分に最もあった支援機関・相談先を見つけられるプラットフォームを作ることで、少しでも頼りやすい文化を作り、支援機関へのイメージを変えていけたらと思ったのです。

そのような社会背景や思いで立ち上げた「Mex」には、現在10代の悩みに寄り添う民間団体や行政サービス約160サービスを掲載しており、月に1万人がサイトに訪れ、半年間で約2000人がどこかの支援機関を利用している状況です。

予算が限られていて10代にしか広報していないので、大人にとっては「そんなに使われているの?」という感覚かもしれません。

ただ全国の中高生は約700万人いて、中学生の約2割、高校生の約4割が「悩みがあってもだれにも相談できない」と答えている現状からすると、まだまだ十分なサイトではないですが、それでも10代が一人で抱えている様々な悩みが見えてきています。

このサイトはこれまで見えづらかった10代の深刻な悩みを可視化する機能も持っているなと感じており、ここから見えてきたことが、10代や子どもの権利を保障する社会を作る上で、たくさんのヒントや材料があるなとも感じています。

やっぱり学校や家族の悩みが多い

さて、そんな社会背景のもと、立ち上げた「Mex」ですが、サイトから見えてきた10代の悩みについて、いくつか見えてきたことを共有したいと思います。

「Mex」は自分の悩みにあわせて、悩みのカテゴリを選ぶことができます。現在は図のように大きく6種類の悩みに区別しています。

6種類のカテゴリの中にはさらに細かい小カテゴリにわかれています。

例えば、「家族・学校」のカテゴリ内には「家族」「友人・恋人関係」「不登校」「いじめ」「学校」「ひきこもり」といった小カテゴリがあり、もっと細かく自分の悩みにあった支援サービスを選ぶことができます。

こちらは2017年6月〜10月末までで、どのカテゴリの利用が多かったかを示しているデータになります。


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子どもの生活を占める家族・学校に関する悩みが上位を占めていることがわかると思います。子どもたちにとって学校や家庭がいかに大きな存在で、その分、悩みを抱えやすいかがうかがえます。

大人であれば、経済的にも社会的にも自立しているので、例えば奥さんや旦那さんに不満があれば、ちょっと学生時代の友達と飲みに行ったり、一人でスポーツやマッサージに行ってストレスを解消したりできるかもしれません(経済的・社会的に困窮していればもちろんくいう悩みを解消できる術は大人でも限定されてしまいますが)。

しかし10代は、学校にも家にも相談できないときに、そもそも学校の友達以外にまだ知り合いが少ないですし、経済的にも親に依存しているので、気分転換にどこか出かけられるほどのお金もありません。

「親や先生に相談したらいいじゃん」と思うかもしれませんが、大人であっても上司のことで悩んで上司に相談ができなかったり、職場で家庭の相談を持ち出しづらかったりするのと一緒で、家庭や学校のことで悩んでいるのに親や先生に相談しづらいのは当然です。

もう一つこのデータから気になるのは、学校や家族の悩みと近しいくらい悩んでいるのが「妊娠」と「自殺」ということです。

確かに10代の支援をしていると、学校にも家庭にも居場所がない場合、妊娠や自殺願望などにつながりやすいという実感はあります。

妊娠や自殺願望などにつながったときに、だれにも相談できない状況にあると、さらに自分で抱えて解決しようとしてしまい、問題が深刻化するかもしれません。

親、先生などの立場を超えて、子どもよりも十分な知識や社会資源とつながった人と早急につながり、適切な解決をしていかなくてはいけないテーマですが、それをこれまで一人で抱えてきた子どもたちが一定数いることがわかります。

15歳〜19歳の死因の一位は自殺であり、10代の中絶数は17,854件(厚生労働省・衛生行政報告例 2014)にも上ることからも深刻さがわかります(参考までに10代の母からの出生数は13,011人)。

サイト内には支援サービスの検索・相談機能だけでなく、10代の悩みを解決しうるよみものも配信しています。

妊娠や性にまつわる記事の閲覧数は常に上位となっていて、いかに多くの10代が性のことをはじめ、命に係わる重大なことを一人で悩んでいるかがうかがえます。

自分では悩みを細分化しづらい

サイト内では、カテゴリ検索だけでなく、フリーワードでも検索できるようになっていますが、その中で最も検索されているキーワードは「死にたい」というキーワードです。

でもそれを細分化していくと、実は家庭内虐待があったり、学校でいじめがあったり、自分に自信がなかったり、様々な悩みが絡みあって、その結果「死にたい」という気持ちにつながっていることが多々あります。

自分の悩みを自ら細分化できている子どもであればいいのですが、そうでない子どもも多いので、「なんでも相談してください」といった総合窓口の利用率が最も高いのが特徴です。

最初から「虐待について相談ください」というものよりも、「家族のことで悩んだら相談ください」など、なるべく子ども自身で悩みを細分化しなくてもよいものが利用されています。

子どもから見たら家族のことで悩んでいることはわかっても、それを「虐待」と定義していいのかはとても悩み相談を躊躇する可能性があります。

例えば、児童相談所が運営している虐待相談ダイヤルに寄せられる相談のうち、被虐待者である子ども自身からの相談は930件と1%にも満たない状況です(平成27年度福祉行政報告例)。

認知との問題もあるとは思いますが、大人ですら「これは虐待として通報してよいんだろうか」と悩むものを、子どもが自ら整理して相談するのは難しいのではないかと推測しています。

子どもたちの悩みに寄り添って、それを細分化するお手伝いをしてくれる大人すらいない前提で関わっていかなければ10代の悩みを拾うことは難しいということもわかってきたことの一つです。

なので「Mex」では、「貧困」「虐待」など、子どもにわたしは使っていい対象なのかどうか悩ませてしまうような言葉は、本当にそれに限定したサービスである場合以外は、極力使わないようにしています。

10代が孤立しやすい社会背景を十分に勉強し理解し、別の形で工夫すれば、あえてそういった言葉を使わずに門戸を広げることもできると思うのです。

匿名性が高い相談先が利用される

最初も述べたように子どもたちは自分が悩んでいることを、家族や学校に知られたくないと思っていることが多いです。このサイトを使っていることすらも知られたくないと思っているのではないでしょうか。

2016年にサイトを立ち上げた時に、意見箱には「匿名で相談できるところを教えてほしい」といった要望もあり、匿名で相談できるところを絞り込める機能も追加しました。

また、電話よりもメール相談のニーズが高いのも実は匿名性にも関係しているのではないかとも思います。

メール相談のニーズの高さは、自分の悩みを細分化しづらい中で、自分のペースで相談できない(自分のペースで相談すると相手を待たせてしまう)ことへの不安ももちろんあると思いますが、自分の情報(性別、年齢など声で特定される情報)の開示量が、電話よりもメールの方が少ないと感じるからでもあるのではないかと思います。

ただこれは想像なので、まだ分析の余地はあります。

他にもまだまだサイトの利用者が増え、機能が充実してくればわかることも増えていくのでしょう。インターネットの一つの可能性は、こういった実社会では見えづらいことを分析できる材料が増えることにもあるのです。

いじめの事件などが起きると、しばしば学校で調査が行われ、「わが校にいじめはなかった」などといった結果になることもありますが、実際、声の大きい人の声だけを拾い、本当に困っている人の声は拾えないことも多いです。

このサイトでも、アンケートなどで「何に困ってる?」と子どもに聞いたら「困ってない」というかもしれないですが、どのカテゴリが多く利用されているか、どのサービスが多く利用されているかなどの行動分析をすることで、「困ってない」の裏にどんなニーズがあるのかわかってくることが多くあります。

10代の支援をしていると、感情的にどうしてもインターネットやSNSに否定的な気持ちを抱く場面も私自身正直たくさんあります。

しかし、それ以上に冷静に社会の進歩・成熟を生かして、さらに支援に生かしていくかという観点をもって関わっていく時期なのではないかと感じています。

公共性の高いサービスを目指して

最後に、本サイトは子どもからも掲載団体からも費用はいただかず、公共性の高いサービスを目指しています。

Wikipediaが寄付での運営を貫いているように、経済・思想的に中立的であることが大切な本サービスは、たとえ苦しくても営利性(広告性)をもってはいけないと思って運営しています。

一方で、このサイトは使っていることすらも知られたくない中で、子ども同士でシェアされづらい特徴も持っており、サイト発展・利用促進にはたくさんの方の協力が必要です。

ぜひ、本サイトを応援いただき、子どもたちのニーズを知り、子どもの支援分野の発展につなげる手伝いをしていただけたら嬉しいです。

10代向けに支援を行っている官民の支援機関のみなさまの掲載、10代向けの記事やコラムの作成・編集、運営のためのご寄付など、様々な形で参加できますので、少しでも興味を持ったらぜひのぞいてみてください。

「Mex(ミークス)」(https://me-x.jp)