アメリカでは、複数の人気トーク番組に出演し、パフォーマンスを見せた(写真:RB/Bauergriffin/MEGA)

韓国の男性ヒップホップグループ「BTS(防弾少年団)」旋風が、アメリカで吹き荒れている。20代の男性7人から成るBTSの勢いは増すばかりで、2017年9月にアルバム『Love Yourself: Her』がビルボード200で7位にランクインすると、12月にはシングル「MIC Drop」のリミックス版がBillboard Hot 100で28位に入り、K-POPグループとしては最高位を獲得した。

昨年11月には、韓国人アーティストとして初めて「アメリカン・ミュージック・アワード」でパフォーマンスを披露。「ARMY」と呼ばれる熱狂的なファンを持つ彼らは、昨年最もツイートされた有名人の1人となり、昨年5月21日に開催された「ビルボード・ミュージック・アワード」では、ジャスティン・ビーバーやセレーナ・ゴメスを抑えて「トップ・ソーシャル・アーティスト賞」を受賞するなど、破竹の勢いだ。

初期のビートルズと類似点が多い

K-POPの波自体は、数年前から押し寄せていたが、アメリカでK-POPが転機を迎えたのは、BTSが昨年11月末に、人気トーク番組「エレンの部屋(Ellen Degeneres Show)」に登場したときに違いない。

このとき、司会者のエレン・デジェネレスは、観客の反応を「ビートルマニア」と比べた。海外音楽として初めてアメリカ人の心をつかみ、米国、いや世界中に大旋風を起こしたあのビートルズのファンを引き合いに出したのである。実際、BTSと初期のビートルズには類似点が少なくない。BTSのメンバーは、みなオシャレで賢く、外見的にも格好いい。そして、時代を読むのが抜群にうまく、ファンの心をどうつかむべきか心得ている。

音楽制作の面でいえば、現在の韓国音楽業界は、1950年代の米国の音楽業界を彷彿とさせるところがある。レコード会社は、ヒットしたシングルの楽曲やアレンジに従って大量生産する方法にのっとって音楽を制作している(そのぶん、シングルが売れないアーティストは後回しにされているが)。

加えて、BTSのようなグループは一糸乱れぬダンスパフォーマンスを披露し、ファッショナブルな衣装をまとい、メディアやファンに友好的に接する。米国にあふれるギターバンドと比べた場合、K-POPグループが多くのファンを魅了する理由も明らかだろう。

とりわけ、BTSのダンスに対する評価は高く、ある文化評論家は芸能ニュースサイトStar2.comに対して、「ダンスのクオリティが高いグループは多くいるが、BTSの動きは本当にパワフルだ。ライブを見ていると、才能に恵まれているだけではなく、パフォーマンスに情熱がこもっていることを肌で感じる」とコメントしている。

ところで、K-POPグループについて話していると、頻繁に「aegyo」という言葉に出くわす。これは、韓国語で、きどってかわいい行動を意味するもので、性別は限定されていない。K-POPのパフォーマンスでは、ハートを作ったり、子どものような声をあげたり、一般的に見てとにかく「かわいい」行動をするのがaegyoだ。K-POPのボーイズバンドでは、だいたいグループの最年少メンバーや、性格が自然に似合うメンバーがこのaegyoスタイルを演じている。

K-POPグループが高度な歌唱やダンス訓練を受けているというのはよく知られているが、一部のアーティストはaegyoの特別レッスンも受けているとされる。レッスンを受けているかいないかはともかく、ウェブサイトのsoompiはBTSを最もaegyoな男性K-POPアイドルトップ10リストで評価している。

韓国政府も全力でサポート

アナログ盤のレコードとラジオが主流だった時代のアメリカでは、シングルがヒットすることが、アーティストの成否を図る1つの基準だった。が、トラックだけでなく、アーティストやジャンルまで簡単にスキップしたり、またいだりできるデジタル時代においては、アルバムこそがアーティストの世界観にファンを引き込む役割を担っている。

長い目で応援してくれるファンを獲得することによって、アーティストたちはかつて求められていた「大ヒット」の型に合わない音楽も自由に作れるようになり、そうしたアルバムをリリースすることで、ファンとの関係をより密にすることができる。

ただし、こうしたスタンスに移行することが、必ずしもビジネス的にプラスになるとは限らない。今の音楽業界を見渡せばわかると思うが、ツアーや商品販売が収益の源泉となっている。これはK-POPも例外ではない。

こうした中、韓国政府がK-POPなど韓国芸能の世界的なプロモーションに力を入れていることはすでによく知られていることだ。文化省は、「アジアのティーンエイジャーや若者の間で人気があるサブカルチャーに成長し、韓国のアイドルグループや歌手のファッションやスタイルへの関心を集めるきっかけとなった」として、K-POPに従事する部門を設立している。

英BBCによるドキュメンタリー「K-POPは韓国の秘密兵器か?」には同部門のトップが登場。「K-POPを含めた韓流文化の波は世界的な注目を浴びており、これは国にとっても文化的なメリットがあるため、国も全力でサポートしている」と話している。

こうした国の支援に加え、徹底した歌唱やダンス、英語や日本語など多言語で歌い、話せるようなトレーニングを受けていることがK-POPグループの強みだろう(ちなみに、前述のBBCのドキュメンタリーでは、BTSはコンサートのために1日15時間近くリハーサルをすることも明かされている)。国ぐるみのこうした取り組みが、韓国のみならず、アジアや欧米でも支持を得られるアーティストの育成につながっている。

BTSに限っていえば、彼らの「独自性」がアメリカでの成功につながったとの見方もある。米ニュースサイトのデイリー・ビーストは、韓国の3大事務所に所属していないBTSは、音楽制作の面で独自性をアピールできていると指摘。

BTSは「パフォーマンスをするだけでなく(彼らのダンスとラップ技術の高さは定評がある)、作曲や作詞にも参加しており、たとえばK-POPアイドルシステムや韓国芸能界における精神衛生問題など、ほかのアーティストでは考えられないようなテーマにも挑んでいる」としている。この唯一無二の姿勢が、BTSを熱狂的に支えているファンの拡大につながっているようだ。

無理にアメリカウケは狙っていない

こうした独自性は米国に進出しても保たれており、BTSは米国でパフォーマンスする場合も、韓国語で歌っている場合が多い。また、衣装についても無理にアメリカウケを狙うわけでなく、「K-POPボーイズバンド然としている」(デイリー・ビースト)。かつてであれば、こうしたグループは「海外のエキゾチックなグループ」ととらえられがちだったが、今ではその個性がむしろ喜ばれている、と分析している(同サイト)。

もっとも、アメリカにおいてK-POPが「エンカ(演歌)」と同じくらいの立ち位置だったのはそれほど昔のことではない。数少ない熱狂的なファンの間では、お気に入りのアーティストに関するニュースのほとんどを、知る人ぞ知るウェブサイトに頼っているのが普通だった。

しかし、K-POPの進化の種はかなり昔にまかれていた。米国でスパイス・ガールズやボーイズIIメンといった多様なグループがビルボードにランクインするようになった1990年代半ばには、ソウル市の中でも感度の高い人たちが集まる江南地区で後にK-POPとして知られることになるグループが生まれている。

K-POPがアメリカのメインストリームの舞台に躍り出たのは2010年のことだ。2011年には、ビッグバンがアメリカのiTunesのチャートでアルバムトップ10入りを果たす。さらに、2012年にはPSY(サイ)の「Gangnam Style(江南スタイル)」が空前のヒットとなり、多くのアメリカ人がほぼ初めてK-POPに触れた。

とはいえ、多くのアメリカメディアは、PSYとBTSを別物として取り上げており、前者については「面白音楽ビデオ」が受けただけと手厳しい。いずれにしても、K-POPアーティストによる米国での公演は年々増えており、CNNによると、2013年には年間13公演だったのが、昨年は5月時点ですでに15公演開かれていた。

K-POPファンの数も着実に増えている。世界最大の韓流フェスの米国版「KCON USA」は、2012年以来、ロサンゼルスで開催されており、毎年6万人のもの韓流ファンが集まる(ちなみに、KCONはこのほか、メキシコや日本でも開催されている)。

今後は、アメリカの若いファンが、シングル以上にアルバムに魅力を感じるようになるにつれ、BTSが自分たちの音楽スタイルをどの程度深く追求しようとしているのかが問われる。

BTSがリスクを取ったとしても

ビートルマニアと比較するなら、ビートルズは、ホワイト・アルバムを発表し、それまでのサウンドから本当に決別した時点で、すでにアメリカで最も人気のあるバンドの1つだった。 一方、BTSは、2014年の『DARK&WILD』から彼らのサウンドを進化させている。それまでのボーイズバンドのスタイルとは一線を画したバンドとしての曲を発表したといっていい。おそらく次のアルバムは、彼らのパーソナルな音楽スタイルに近づいた大胆なものになるだろう。

こうした変化は、ファンに受け入れられるだろうか。K-POPが、たとえばダブステップのように、もっと緻密に定義されたサウンドを持っていたなら、そこから離れすぎると音楽がジャンルに合わなくなり、さらには、ブロステップという言葉がダブステップの派生物を説明する言葉として分裂してしまったのと同じ状態になる可能性がある。

しかし、BTSファンの熱狂的な支持を考えれば、リスクをとってこれまで以上に本当に彼ららしい音楽を見せたことでファンを失うとは考えがたい。結局のところ、本当のファンが関心を持っているのは、彼らの真の姿なのである。「自分たちの音楽を作るために最善を尽くすことが、一番の努力なのだと思う」と、韓国のヒップホップの先駆者であるTiger JKも言っている。

多くの米国メディアが、2017年は「K-POPがアメリカで大ブレイクした年」と評価している。その先導役となったのはBTSである。これを皮切りにさらなる韓流ブームが起きるのか。K-POPファンならずとも気になるところだ。