東京の勝ち組女である“港区妻”には、純然たる階級がある。

頂点に君臨するのは、生まれ育った東京で幸せに暮らす、生粋の“東京女”。

一方でたった一人で上京し、港区妻の仲間入りを果たした女たちもいる。元CAで専業主婦の桜井あかりも、その一人。

CA仲間だった東京出身の玲奈と百合が、実は着々とお受験準備をしていると知り、地方出身の自分との格差を感じるあかり

信頼する友だち・凛子から慶應幼稚舎の魅力をきき、さらに紹介された教室で出会った美貌の教師・北条ミキに勧められ、受験を決意。

玲奈と百合に受験することを伝えると、東京出身の二人は今まで見せなかった一面を見せ、あかりの受験に対する認識の甘さをつきつけるがー。




「本日からお世話になります、桜井と申します。息子の旬ともども、よろしくお願いします」

教室の初日、差し入れを手に北条邸に着くと、凛子がリビングで子供を待つ2人の女性を「こちら由衣さんと理沙さん」と紹介してくれた。

2人とも、髪も肌もよく手入れされていて、とても園児の母親とは思えない。彼女たちのような母親は、綺麗に身を整えながら、幼稚園や教室に1日何往復も付き添っているはずだ。

子供にプリントを解かせ、たっぷり読み聞かせをしたあとは、幼稚舎受験に関する情報収集と準備が待っている。もちろん家事もあるだろうし、兄弟がいればそれは2倍になる。

あかりは、今まで知ろうともしていなかったお受験ママたちに敬意を持つようになっていた。

「ただいまー!ママ、ハリネズミ作ったよ、見て!」

戻ってきた旬が手にしているのは工作物で、針の細かいところまで良くできている。しかし一緒にいた3人の子どもたちの作品を見て、あかりは息を呑んだ。

段ボールや色紙をつかった、子供の体ほどのキリンのオブジェ、躍動感あふれる南極のペンギンの絵、極彩色に彩られたパイナップルの立体工作。4、5歳の子のものとは到底思えない出来栄えだ。

それでも「良くできてるね!」と旬を笑顔でほめていると、北条から大量のプリントを渡された。

「最初はお母さまが一緒に解いてください。1日20枚から初めて、3か月で1日50枚、1枚2分程度が目標です。幼稚舎はノンペーパー校ですが、ペーパー的思考も必要です」

その言葉に、あかりは必死でうなずいた。

「それから次週までに、福澤先生の『福翁自伝』を読んで、思うことをまとめてきてください。願書に必要です」

“あなたには相当頑張っていただかないといけません”と、初めて会ったときに言われた言葉をかみしめながら、旬とともに帰路に着いた。



その夜、玲奈から連絡があった。

何でも幼稚舎時代の同級生たちとお茶をするので、あかりも情報交換に来たら、と言う。

同級生の集まりに一人で乗り込むのは気が進まなかったが、今は幼稚舎の情報を少しでもキャッチしたい。あかりは思い切って参加すると答えた。

しかしこの集まりで、あかりは真の「幼稚舎出身」の世界を見せつけられ、その格の違いに圧倒されることになる。


幼稚舎内部生の、知られざる華麗な生活とは…?


生粋の幼稚舎生との“格”の違いに驚愕


翌日、白金台からタクシーに乗り、運転手に玲奈の家の住所と旧姓を告げると、「ああ島津山の大きなお屋敷だね」と、ナビに入れることもなく発車した。

島津山と呼ばれるエリアには東京とは思えない豪奢な屋敷が立ち並び、あかりが住む芝浦アイランドとの様相の違いに、思わず目をみはる。

その中でも一際重厚な屋敷の前で、タクシーは停止した。

玄関までの広く長い階段は御影石だろうか。門扉から見上げる屋敷は、屋敷としか言いようのない佇まいだ。

お手伝いさんに案内されて長い廊下をすすむと、ひろびろとした芝生の庭とデッキで繋がった広い部屋で、玲奈たちがシャンパンを飲んでいた。




「あかり!今日は来てくれてありがとう!みんな、私のCA時代の同期のあかり。こちらは息子の旬くん。今度幼稚舎を受けるの、いろいろ情報交換してあげて」

玲奈は旬に、部屋の奥でバルーンを作成している女性のほうに行くように促した。子供たちが次々と好きな形のものを作らせている。

―誕生日でも何でもないこの集まりに、バルーン専属のスタッフを……?

あかりはそっと部屋を見回す。ソファをしつらえた部屋の、バルーンを作成している反対側では、板前のような男性がネクタイを締めて寿司を一心不乱に握っている。

「あかり、旬君のお料理とオードブルはあっちから好きなのとってね。お寿司は、昼間だから馴染みのお店が、特別に来てくださったの」

よくよく見れば、あかりもいつかは行ってみたいと思っていた名店の文字が布巾に入っている。

「う、うん……。ありがとう。お土産買ってきたから、置いとくね」

あかりは、子供たちが食べるようにと白金台で買ってきた流行りのカップケーキと、大人用のシャンパンをそっとテーブルに置いた。

しかしカラフルな彩りのカップケーキは、その豪奢なテーブルにまるで似つかわしくなく、ぽつんと浮いているようだ。手土産からして間違っている気がして、あかりはめまいがしたのだった。


初日の出はヘリであの山へ!? 華麗なる幼稚舎同士婚


セレブ東京妻との違いが、次々と浮彫に!


「あかりさん、初めまして!」

それぞれがグラスを持ち上げ、乾杯した。

あかりはCA時代に培ったスキルをフル回転させ、華やかに笑い社交的にふるまった。

今日は玲奈の同級生のなかでも、早く結婚して子供がいるメンバー4人で集まったという。

部外者とも言えるあかりに、彼女たちはあれこれと話しかけてくれて、嫌みなく話の輪の中に入れてくれた。さすが本物のお嬢様は、コミュニケーション力もすごいなと感心する。

そういえば玲奈も、CA時代、どんなVIPが来てもまったく舞い上がるそぶりはなかった。

プライベートでお茶をしていたときも、有名なIT起業家を見かけると迷うことなく近づき、名刺交換したあとしばらく話し込んでいた。

今思えば、それは幼稚舎で培われた自己肯定感と自信、場数の違いを表しているのだ。

「このメンバーで、お正月は初日の出を見に行ったのよ」

幼馴染に囲まれて、玲奈はいつになく饒舌だった。

「いいなぁ、家族ぐるみで?旦那さんもついてきてくれたの?」

あかりは美しくセットされたアペタイザーをつまみながら、玲奈を見る。

「うん。私たち、学年は違うけど幼稚舎生同士で結婚したから、旦那さんとも幼馴染みなの」

玲奈がこともなげに言う。

玲奈以外の3人も幼稚舎同士…。子どもも入学を約束されているようなものと聞いたことがある。あかりは羨む気持ちで、ちらりと庭で駆け回る子供たちを見た。

「それが行ってみたら、頂上まではヘリの乗り継ぎが必要で、酸素ボンベもマストだって言うの。だから子供たちに万が一のことがあっちゃいけないって、結局大人しか行けなかったのよ」

―ヘリ…?ボンベ……?

あかりは混乱しながら、また必死で頭をフル回転させる。初日の出というからてっきり九十九里浜あたりをイメージしていたが、どうやら違うようだ。

「ど、どこまで見に行ったの……?」

「モンブラン。初日の出に合わせて、ヘリで山頂から光が差すのを見にいったの」




―モ、モンブラン……!?

映画なんかで見るビジュアルは頭に浮かぶが、どこの国だったかさえ思い出せない。

「結局、子供はパパたちとフランスの麓の別荘でお留守番してもらって、私たちだけヘリで行ってきたの。綺麗だったよねー!」

無邪気に盛り上がる玲奈と同級生たちに、かろうじて「それは、綺麗だろうね…」と声を振り絞る。

その時ノックの音がして、さっき部屋まで案内してくれたお手伝いさんが入ってきた。

「お嬢様、配達の者が参りまして、お届けものをお庭に運びたいと申しております」

「あ、良かった、遅いから心配しちゃった!澤田さん、それ私たち4人からなんです、通していただいてもいいですか?」

同級生の一人が、お手伝いさんに話しかける。初老に近いこの女性と、幼馴染の彼女たちは十分に顔見知りであるらしい。

「玲奈、今日のお土産、先週探してるっていってたから旬くんの自転車にしたよ!14インチでいいよね?」

大きなリボンがかけられたマセラティの青い自転車が、庭にうやうやしく運ばれてくるのを見ながら、あかりはやっぱりシャンパンとカップケーキじゃだめだったんだ、とうなだれた。

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サラリーマン幼稚舎受験は是か非か?揺れるあかりに、凛子の言葉が刺さる。そして旬の意外な行動とは?