恋愛、結婚、理想の相手……深川麻衣がパンを食べながら考えてみた。

深川麻衣が纏う空気感は温かく、柔らかい。そんな彼女の雰囲気と、映画『パンとバスと2度目のハツコイ』(通称:『パンバス』)の世界観は絶妙にマッチしている。日常の1ページを切り取ったような映像美で見せる本作で彼女が演じた市井ふみは、独自の結婚観を持つ女の子。結婚がひとつのテーマとして描かれ、物語のなかのふみと同様に、深川にとっても結婚は身近なテーマになってきたそうだ。本人は「(結婚は)まだ想像できない」と話したが、自分の周囲の環境を重ね、“恋愛こじらせ女子”を演じてみせた。

撮影/川野結李歌 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.

憧れだった映画の世界…うれしさと不安を抱えて

映画のお話をうかがう前に…撮影ではパンを持ったお写真をたくさん撮らせていただき、ありがとうございました。
こちらこそ! すごくおいしい香りがしたのでお腹が空いてしまいました(笑)。ブタのパンも、耳からしっぽまでちゃんとあって可愛かったです。
そう言っていただけてうれしいです。2月17日から公開される映画『パンとバスと2度目のハツコイ』は、深川さんの映画初出演にして初主演の作品です。まずは、オファーを受けたときのお気持ちを教えてください。
映画は自分のなかでも特別で、いつか挑戦できたらいいなと思っていたお仕事のひとつだったので、まず一番にうれしさがありました。ひとつ夢が叶ったことはうれしかったのですが、映画の現場がはじめてということ、主演という大役をいただいたことに「私で大丈夫かな?」という不安や怖さがありました。
深川さんにとって映画は特別だったのですか?
私は田舎に住んでいたので、映画館へはいつもよりちょっと張り切ってオシャレをして、電車を乗り継いで行っていたんです。そういう思い出があったのと、上映中の2時間は無言の空間で映像を見るじゃないですか。それが不思議であり、面白い空間だなと感じていて、映画の世界は小さい頃からすごく憧れでした。今回、挑戦させていただけるうれしさと不安と半々でしたね。
うれしさと不安が交錯するなか、映画の現場に参加されていかがでしたか?
今泉(力哉)監督はすごく和やかな方で、撮影中もみんなで話し合いながら作っていく感じでした。のんびりと時間が進んでいくようで、その雰囲気にはすごく助けられました。
はじめての現場で戸惑うことはありませんでしたか?
ついてくださったスタッフさんが教えてくださったのと、私もわからないことがあれば聞いていたので、撮影がはじまってからは、最初に感じていた不安はそんなにありませんでした。ただ、最初に撮ったシーンではすごく緊張していたみたいで…。私は緊張すると口角に力が入って笑っているように見えてしまうそうなのですが、マネージャーさんに「笑っていたよ」と指摘されてしまいました(笑)。
最初はどのシーンの撮影だったのでしょう?
私が演じる市井ふみの妹・市井二胡(志田彩良)が、ふみのアパートにやってくるシーンです。撮影前、スタッフのみなさんに挨拶をしたとき差していた日傘がバサッと裏返って笑いが起きたので、気持ちもほぐれたかなと思っていましたが、やっぱり緊張していたみたいです(笑)。
本作は、パン屋で働くふみが付き合っていた彼氏の柏木 芯(勇翔)からプロポーズされるも、独自の結婚観で断ったのち、初恋の相手であった湯浅たもつ(三代目 J Soul Brothers/山下健二郎)と偶然再会したところから物語がはじまります。公式サイトではモヤモヤしながらキュンとする“モヤキュン”ラブストーリーと書かれていましたが、はじめてのラブストーリーへの挑戦という点はいかがでしたか?
今泉さんが描くラブストーリーは、わかりやすい恋愛というより、人間ドラマの要素が大きいんですよね。『パンバス』のなかでも、誰かがわかりやすく告白をして、付き合うということはなくて。日常のワンシーンを切り取ったようなナチュラルな世界観だからこそ、表情がアップになったところの感情の出し方や、「この言葉はどういう意味なんだろう?」っていう、心のなかで考えていることを表現するのは難しかったところです。
ふみはパン屋で働いているので、パンを作るシーンもありました。こちらはいかがでしたか?
私の母がパン作りが好きで、小さい頃はベーコンエッグパンなどを一緒に作っていたこともあり、ある程度の作り方は知っていました。でも、朝の仕込みを手際よくやらなきゃいけないというのは初体験だったので難しかったです。実際に営業しているパン屋で撮影させてもらって、店長さんに卵黄の塗り方などを教えてもらいました。あと、パンを袋に詰める作業はずっとやってみたいなと思っていたので、できてうれしかったです(笑)。

色恋沙汰に真面目すぎ!? “恋愛こじらせ女子”を冷静分析

今泉監督から「ふみをこう演じてほしい」というお話はありましたか?
今泉さんは演者から出るものを信頼してくださる方で、まずカメラテストのときに自分の思ったとおりに演じてみて、そこで今泉さんのふみ像とズレが生じたときなどに指摘してくださいました。「ここはこうして」や「ここはこういう気持ちで」という細かい指示はなく、基本的には自由にやらせていただきましたね。撮りながらセリフが変更になる部分もあったのですが、そこも含めて“今泉ワールド”だなと思いました。
ふみの年齢感や静岡県出身という点、学生時代は美術を勉強していたところ…など、ふみと深川さんは共通点が多いなと思いました。
じつは、撮影がはじまるだいぶ前に今泉監督とお話をする機会があって、私の今までのことなどをいろいろお伝えしたんです。出身地や美術をやっていたというのは、そういったお話から反映していただいたのかなと思っています。環境を似せてくださったというか…。
環境が似ているというのは、演じやすさにつながるものですか?
そうですね。理解できるところが多かったです。ふみは美術の道をあきらめてパン屋に就職しますが、なぜあきらめたのかと二胡に聞かれたときに言った、「自分にしか描けないものなんてないと思っちゃったんだよね」という言葉にはすごく共感できて。私が高校時代に美術の勉強をしていたときも、先輩や同い年の子の作品を見て、「この子の発想は自分がどんなに頭を絞っても出てこない」、「叶わないな」って感じることがあったんです。その気持ちは、ふみが感じていたものに近いのではないかなと思いました。
そんなふみという女の子を、深川さんはどう捉えたのでしょうか?
ふみは恋愛面だけでなく、日常生活に対しても真面目に考えすぎてしまうところがある。真面目ゆえに気付かないうちに周囲を振り回していることもあるんですよね。プロポーズされても、「この人は本当に私のことを好きでいてくれるのだろうか」とか「自分はこの人のことを好きでいられるのだろうか」と考えて断ってしまいますし…。
恋愛や結婚に関して真面目に考えすぎてしまうからこそ、“恋愛こじらせ女子”と言われてしまう、と?
ひとつのことに対して、いろんなことを考えすぎてしまうんですよね。ふみは、喜怒哀楽をわかりやすく表に出す子ではないけれど、ある意味、そういうところが人間らしいなと思いました。
ふみは、中学時代の初恋の相手であるたもつと再会したことをきっかけに、たもつに惹かれていきます。しかし、たもつには結婚歴があり、離婚した奥さんとのあいだに子どももいる状態。しかも、別れた奥さんのことを今でも思っている…。それをすべて知っていながら、ふみが彼に惹かれてしまう理由はわかりましたか?
自分(ふみ)とたもつは似ているところがあると思ったんじゃないかなと。自分に近いものをたもつに感じたから、中学の頃に好きだった相手だし、再会して惹かれた部分もあるんじゃないかなと感じますね。
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