ペイサーのレオン・メイ・ダニエル社長

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 2017年の訪日外国人数は2869万1000人となり、5年連続で過去最高を記録した。政府が「20年に訪日外国人数4000万人」を目標に据えていることもあり、今後も外国人観光客は増えていく一方だろう。

 そこで求められているのが、インバウンド(訪日外国人)戦略だ。特に注目されているのが、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使った宣伝である。同分野で、訪日外国人向けプロモーションや越境EC活性化を支援するペイサーが存在感を増している。「中国版LINE」といわれる「微信(ウィーチャット)」を活用するサービスを開始し、女性向け動画メディア「C CHANNEL」とも協働しているのだ。

 日本企業のインバウンド戦略はどうあるべきか。ペイサー創業者のレオン・メイ・ダニエル社長に話を聞いた。

●香港生まれのカナダ育ち、なぜ日本で起業?

――香港で生まれ、カナダに移住された後に来日していますね。

レオン・メイ・ダニエル氏(以下、ダニエル) 16歳のときに移民として家族でカナダに渡りました。カナダには世界中から留学生が集まっており、日本人と親しくなった縁で日本語を勉強し、日本に行くことを決意しました。

 日本で3社のベンチャー企業に勤務した後、06年にソーシャルメディアマーケティング事業などを手掛けるマインドフリーを起業。その後、台湾のデジタル広告代理店・カカフライとの合弁で、16年にペイサーを立ち上げました。ペイサーでは、ソーシャルメディアの広告代理事業を行っています。

――香港出身の方は「意思決定がスピーディー」という印象があります。

ダニエル 香港はアジアのハブであり、さまざまなモノや情報が流入します。香港人は、中国語と中国の歴史以外はすべて英語で習うため、英語と中国語の両方が通用します。毎年約2000万人が出入りしており、情報に対する目も肥えています。

 あるイギリスの大学は「香港人は直球のコミュニケーションで勝負する力を持っている」という研究結果を発表していますが、その通りです。情報処理や決断、意思決定の素早さが香港のビジネスを支えているといっても過言ではありません。日本人とのビジネスにおいては、日本人特有の慎重さと香港人の決断力によるシナジー効果で、スムーズに進むことが多いです。

●スタバとドトールでは店員の“距離感”が違う

――マインドフリーおよびペイサーの事業について、教えてください。

ダニエル 企業の販売戦略には「攻め」と「守り」の両方があります。フェイスブックやツイッター、LINEなどのSNSを利用したコミュニケーションや広告戦略においても同様です。「攻め」の面では効果的な広告を打ち出し、新規の顧客を獲得する。「守り」の面では、獲得した顧客を囲い込む。

 09年頃、まだ日本にフェイスブックの支社がないときに、うちはいち早くシンガポール支社を訪問し、アジア展開の戦略を検討しながら、台湾のフェイスブックの広告リセラー最大手であるカカフライと3社で、日本におけるフェイスブックの展開を手伝ってきました。そのため、SNS戦略については一日の長があると自負しています。

――企業のSNS戦略において大切なことはなんでしょうか。

ダニエル SNSマーケティング支援事業において何より大切なのは、「どのチャンネルを使うか」「どのような手法を使って展開するか」ではなく、“距離感の設定”ですSNSを使って企業が情報を発信するということは、お客さまともっとも距離感が近い接点を持つということです。

 ユーザーに対して自分たちは、どのような立ち位置でどのようなかたちで情報発信を行うか。これは、企業風土によっても違います。たとえば、スターバックスとドトールの店員は利用客に対して同じ距離感ではないでしょう。また、ディズニーランドとUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)ではどうでしょう? やはり、違いがあります。

 自社の立ち位置を明確に定義することが、私たちの仕事です。すでにネスレや京セラ、関西電力などと取引をしており、コミュニケーション設計において日本トップクラスの実績を誇っています。特に、企業の「信頼回復」「再構築」というテーマについては臨機応変な対応が可能です。

 最近では、LINEが提供する「LINE@」を活用した販促キャンペーン「LINE@マストバイキャンペーン」というサービスを開始しました。従来のハガキ応募型や専用アプリ型とは異なり、ユーザーが使い慣れたLINEを経由するため参加のハードルが低く、高い販促効果が見込めます。

――SNSを駆使した販売戦略は、より重要になっていくのでしょうか。

ダニエル 今や日常的に使われているSNSを日本企業が活用することは、訪日観光客に向けた来店促進や越境ECなどの面でも重要です。観光客は、来日する前にウェブサイトで情報を得る以外にも、SNS経由で友達から情報を得たり共有されている情報を見たりします。「行ってよかった」という口コミは、“お茶の間”ではなくSNS上で広まります。

 それを裏付けるように、世界各国のSNS広告の市場規模は全体の10%前後まで成長しており、今後もさらに伸長することが予想されます。日本は現在6%程度ですが、同様に急成長していくでしょう。単価はどんどん高くなっているので、早急に検討する必要があると思います。

●物乞いですら電子決済…中国のキャッシュレス化

――日本企業のインバウンド戦略は、何がポイントになるのでしょうか。

ダニエル 訪日外国人数は年間2800万人を超えていますが、半分近くは中国圏から来ています。まずは、彼らを取り込むことが大切だと思います。最近、東アジアなどからの観光客も増えていますが、彼らはまだそこまで購買力が高くありません。もっとも人数が多く購買力も高く、さらにこれから増えるのは中国圏からの観光客です。そこを集中して狙って販促活動を行うことが、大きなポイントになるでしょう。

――訪日中国人は、何で情報を得ているのでしょか。

ダニエル 中国人がもっとも使っているSNSは「微信」です。月間約10億人も使っています。日本でいうLINEのようなアプリです。日本ではLINEのほうが知名度が高いですが、中国では圧倒的に微信です。

 今、中国はキャッシュレス社会でモバイル決済が主流です。そのため、食事や乗り物から日々の買い物に至るまで、あらゆる支払いに微信の決済サービス「微信支付(ウィーチャットペイ)」が利用されています。笑い話ですが、中国では物乞いですら電子決済に対応しています。もはや、中国人にとってライフスタイルの一部でありインフラなのです。

 訪日中国人は、以前は団体客が多かったですが、今は個人客も増えています。訪日中国人の約7割が事前に微信などで「買い物リスト」を作成し、日本に来たらリストを基に買い物をし、帰国後は微信に感想や買い物情報をアップしています。

 日本人が1日中LINEを見ているように、中国人は1日中微信を見ています。それを利用して販促キャンペーンなどを行うのが、もっとも効果的といえます。

――微信が訪日中国人を取り込む上で重要なことは理解できますが、ハードルが高いのではないでしょうか。

ダニエル 確かに、中国語はわからないし、そもそも仕組みも理解していないでしょうから、日本企業にとってハードルはあります。しかし、少しでも知っていただくために、我々は定期的にセミナーを行ったりお客様向けに勉強会を行ったりしています。

 開設や運用については、コンテンツ作成、広告配信、24時間のリアルタイムチャットなどのサービスを代行します。もっとも大切なのは、来日中のユーザーに向けて発信することです。来日前の宣伝も重要ですが、本当に日本に来るかどうかはわかりません。PRしたい商品やサービスともっとも距離が近いのは、来日中のユーザーです。そのため、来店時に自社ブランドの微信アカウントをフォローしてもらうのがもっとも効果的です。

 目の前のユーザーとの間に接点をつくり、帰国後に日本で買ったモノやサービスを友達に宣伝してもらう。そうした流れをつくることが大切であり、そのための施策を行いましょう。

 確かに訪日中国人の“爆買い”は減少しましたが、トータルでの購買は減っていません。これからはリピーター向けの中長期的戦略が必要になってくるので、微信の活用、さらには台湾人や香港人などに向けてもSNSを活用したCRM(顧客関係管理)施策を考えましょう。

 多くの日本企業にはインバウンド戦略の専門部署や担当者が用意されておらず、必要な予算も確保できてないのが現状です。実際に多くの企業を訪問して聞くと「スポット的な企画しかできていない」ということが多く、すごくもったいない話だと思います。観光立国を目指している日本の企業は、もっと中長期的な目線でインバウンド戦略に取り組むべきだと思います。

●女性に人気の「C CHANNEL」と協働

――中国をはじめとする海外展開を狙う企業向けに、「C CHANNEL」の動画サービスを利用した共同広告メニューを開始していますね。

ダニエル 「C CHANNEL」は購買力を持つ女性に人気が高いメディアです。特に、中国、香港、台湾、タイでの宣伝に活用できます。

「C CHANNEL」は海外ユーザーを持っており、ペイサーはインバウンドマーケティングについて独自のノウハウを持っています。双方の強みを生かすかたちで、日本企業の海外プロモーションをブランディング、販促、購買などの面でトータルにサポートします。こちらも、インバウンド戦略としては重要なツールになると思います。

 今後は、特定ユーザー層にライブ配信を通じて即売する仕組みをつくっていきたいと考えています。
(構成=長井雄一朗/ライター)