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2月5日、イエレン議長の後任として、パウエル氏が米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の議長に正式に就任した。

ジェローム・パウエル氏は、ウォール街の投資銀行からキャリアをスタート。ブッシュ・シニア大統領の時に金融市場担当の財務次官。その後、投資ファンドのパートナー、ワシントンのシンクタンクの研究員などを経て、2012年5月にFRBの理事に就任した。

パウエル氏の専門は財政や金融などの制度面のようだ。いわゆるエコノミストではないFRB議長の誕生は、実に40年ぶりとされる。トランプ大統領がパウエル氏を議長に指名したのも、金融政策のスタンスよりも、リーマン・ショック後に厳格化された金融規制の緩和を支持している姿勢が評価されたからかもしれない。

もっとも、パウエル氏は過去5年半、理事として金融政策のプロセスに関与してきた。5年間のエンバーゴ(非公開措置)を経て解禁されたFOMC(連邦公開市場委員会)のトランスクリプト(編集なしの議事録)をみれば、2012年の理事就任直後でもパウエル氏が金融政策について積極的に発言する様がうかがえる。

自身の分析に基づいて金融緩和の必要性を辛抱強く説いたと想像できるイエレン議長に代わって、パウエル議長が金融政策をどのように運営していくか大変興味深いところだ。

ところで、パウエル議長が就任した2月5日、米株の主要指標であるNYダウが過去最大の下げ幅(前週末比1175ドル安)を記録した※。

※下げ率では、87年10月19日の「ブラックマンデー」がマイナス22.6%でダントツに大きい。なお、この日(18年2月5日)もマンデー(月曜日)だった。

中央銀行トップの就任当日の株暴落という絶妙のタイミングにメディアが飛びついた結果、「新議長に早くも試練」「新議長、波乱の船出」といった見出しが躍ることになった。

振り返ると、歴代の議長は必ずしも鳴り物入りで就任したわけではなく、難局を乗り越えて初めて金融市場から信認を得ることができた。

18年間の長きにわたって議長を務め、後に「マエストロ」とも称されたアラン・グリーンスパン氏も、87年8月の就任当初は必ずしも認知度が高かったわけではない。グリーンスパン議長は、就任から2か月後に上述の「ブラックマンデー」に直面した。そこで、積極的な流動性の供給を表明して金融市場を落ち着かせたことで、一気に評価を高めた。現在と異なり、当時は金融当局が明確に意思を表明することは稀だったからだ。

グリーンスパン議長は、その後も90年代初頭のS&L(貯蓄貸付組合)危機、98年の大型ヘッジファンドLTCMの破たん、2001年のIT株バブル崩壊などで、極的な金融緩和を推進して名声を高めることになった。

2006年2月にベン・バーナンキ氏がグリーンスパン議長の後を継いだころから、サブプライム・ローンの焦げ付きが増加、やがて住宅バブルが崩壊して2008年9月にはリーマン・ショックが発生した。「100年の一度の危機」が叫ばれるなか、バーナンキ議長は思い切って政策金利を事実上ゼロとし、さらに国債等の資産を購入するQE(量的緩和) に踏み切った。いわゆる非伝統的政策だ。当初は(空からおカネをばら撒くかのごとく) 「ヘリコプター・ベン」と揶揄されたが、バーナンキ議長の積極果敢な金融緩和が危機の終息に貢献したと言えるだろう。

2014年2月に就任したジャネット・イエレン議長は、バーナンキ議長が道筋をつけた通りにQEを終了させる一方で、金融緩和の必要性を訴え続けた。そして、2015年末から満を持して利上げに踏み切り、金融政策の正常化を進めてきた。

もっとも、過去数回の議長交代劇を別の視点からみることもできる。すなわち、グリーンスパン議長がIT株バブルの崩壊に積極的に対応した結果が住宅バブルを生んだ。その住宅バブルの崩壊に対して、バーナンキ議長が極端な金融緩和を行い、またイエレン議長が金融緩和を長期化させたことが、足元で株などの資産価格の高騰という新たなバブル(?)を生んだ、と。

だとすれば、パウエル議長が前任者のツケを払うのは宿命かもしれない。今後、金融市場でどのような展開が待っているかは、もちろん予断を許さない。それでも、パウエル議長の手腕が試される局面が訪れるであろうことは間違いないのではないか。

○執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。