仕事に集中できない人の思考回路とは(写真:hanack/PIXTA)

2018年が始まってもう1カ月以上が経ちました。時間はあっという間に過ぎてしまいます。「時間がない」「あれもこれもやらなきゃ」と、仕事でやることが多すぎて忙殺される日々を過ごす人も少なくないでしょう。より多くの量を、短時間かつ少ない労力でこなす。ITの進化とともに、そのスピードに合わせて生きていかなければならない現代人は、つねにストレスにさらされているとも言えます。

頭が冴えてはかどった午前の仕事も、午後には、上司の一言や、取引先からの電話一本で途切れてしまう。ちょっと気分転換と思っていたネットサーフィンで時間が経っていたり、ほかのことを考え始めてまったく仕事が進まなくなってしまったり……なんて経験は誰でもあるのではないでしょうか。だからこそ多くの人は注意散漫にならないために、集中力を高めたいと考えています。そこで、役に立つのが「マインドフルネス」です。

「今、ここ」に集中できていますか?

このマインドフルネス、一度は耳にしたことはあるのではないでしょうか。私は普段、精神科医として勤務している傍ら、マインドフルネス瞑想についても研究しており、私自身も過去40年にわたって実践してきました。最近では講師としてお伝えすることもあります。

瞑想などと一緒に紹介されることの多いマインドフルネスですが、意外なことにほとんどの人はそれが何なのかを理解していないように感じます。

もともとマインドフルネスはお釈迦様が悟りを開いたときの心の状態でしたが、時代を経ることで、今では禅・瞑想・ヨガ・心理療法・社員研修と、さまざまなところでマインドフルネスの習得を推奨するようになりました。

だからでしょうか……マインドフルネスに対して、こんなイメージを抱いている人が多くいます。

「とても難しい」「そのための時間をとらないといけない」「なんなら何年も瞑想の修行が必要」「難しいヨガのポーズをしないといけない」など……。しかし、コツさえわかれば自宅や通勤の途中、休憩時間、さらには仕事の最中でもマインドフルネスを練習することができる。それもたった10秒のすき間時間でできてしまうのです。

まず、マインドフルネスとは何かというと、「今、ここ」の現実に「リアルタイムかつ客観的に」気づいていることです。ネガティブなことを考えてしまったときに、ハッとわれに返って「自分は『今、ここ』を離れていた」ということに気づき、客観視することができれば、その瞬間はマインドフルネスといえるのです。

上司に怒られて動揺して、「自分はよくミスをするなぁ」と落ち込んだとしても、自分が怒られて気持ちが落ちていることに「気づく」ことができればやるべきことに集中できます。また、大切なプレゼンの前、自分が緊張していることに「気づいて」その状況をありのまま感じることができれば、緊張も緩和して普段どおりに人前で振る舞うことができます。「気づく」とはマインドフルネスです。「気づき」を得ることであなたの意識を、今に集中させるのです。

イライラしているときや気分が下がっているとき、緊張してしまって気持ちが上ずってしまっているときなど、「自分は『今、ここ』を離れていた」と気づき、客観視できたとすれば必要なタスクに戻るという選択もできます。気づかなければそのままネガティブな感情や思考に支配され続けてしまいます。マインドフルネスはその支配に楔(くさび)を打つものなのです。

仕事でマインドフルネスが使える場面

では実際、仕事上においてマインドフルネスが効果的に力を発揮するのはどういった場面でしょうか。たとえば、大切な会議なのに家族や恋人のことを考えている。また、やらなくてはいけないことがあるのにネットサーフィンをしている。こんなとき気持ちや思考は「今、ここ」にはありません。

家族や恋人との時間のことを思い出して「あんなこと言わなきゃよかった」「あのときああしておけば」と後悔し、ネットサーフィンをしながら週末の予定を考えているかもしれません。「今、ここ」にはないもの(=不満や想像)を膨らませている状態です。仕事に集中できない理由はここにあるのです。

「今、ここ」を離れた心は過去や未来、非現実の世界をさまよいネガティブ思考に浸り、そこから抜け出すことを邪魔します。集中できない人は、ネガティブな記憶、不安定な未来に気が散ってしまっているわけです。つまり集中するためにはその意識を「今、ここ」に戻せばいいのです。

しかし、訓練していない人が「今、ここ」に気持ちを集中したところで、長続きしません。2〜3秒気づいている状態が続けばいいほうです。

上司や取引先などにイライラしてしまったときを考えてみればわかりやすいかと思います。腹が立っても「自分は今イライラしている」と気がつき、マインドフルネスを実行できるときは、観的に自分の状況をみることで冷静になれます。イライラにも対処できるわけです。

問題なのは腹が立っている自分に気づいても腹の虫が収まらずに、次の瞬間にはまた腹が立ってしまうことです。そのときにはさっきの気づきはなくなってしまっているのです。いったんマインドフルネスになれたにもかかわらず、すぐにマインドフルネスを失い、その結果、心は「今、ここ」を離れて再びネガティブ思考へと戻ってしまいます。

マインドフルネスは持続しなければ、その効果は半減します。そして、持続するためには、意図的にマインドフルネスになる必要があります。そこで、取り入れたいのが冒頭でお伝えした10秒のマインドフルネスエクササイズなのです。

自分の「呼吸」に集中してみる


たとえば、上司に腹が立った場合、まずは呼吸によって動いているお腹や胸の動きに注目してみてください。息を吸えば膨らみ、息を吐けばへこむ。その場所を見つけるようにします。たった10秒間です。ほかのことを考えずにその動きを感じてみましょう。

呼吸によってお腹や胸が動いているというのは立派な「今、ここ」の現実です。それを感じているとき、きっと何も考えず、そのことに集中している状態です。まさにあなたがマインドフルネスの中にいる状態、ほかの物事にとらわれていない状態です。そうした10秒を連続させるのです。

エクササイズに利用できるのは、呼吸だけではありません。立っているときや、座っているとき、歩いているときだってそのことに集中できる動作であれば、たとえば、銀行や役所、病院の待ち時間でさえも、マインドフルネスのエクササイズを行うことができます。

また、エクササイズは集中力が切れたときだけのものでもありません。満員電車に乗って感じるイライラやプレゼン前の不安、怒りでわれを忘れてしまっているときなど、いろいろな場面で実践することができます。

10秒間、マインドフルネスを継続できるようになったらもっと長い時間にもぜひ挑戦してもらいたいです。しかしまずは10秒。その10秒を大切にすれば注意散漫になったとしても、すぐに目の前のことに集中できるようになります。10秒の習慣を大切にできる人は、平常心を取り戻し、大切な1日を過ごすことができるのです。