東電の「チーフ・カイゼン・オフィサー」増殖中

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 大手電力会社にとってコスト削減が急務になっている。原子力発電所の再稼働時期も不透明な上に、地域独占が崩れ、顧客の他社への流出が続くからだ。中でも東京電力ホールディングス(HD)は福島第一原発事故の廃炉・賠償費用ものしかかり、「トヨタ式」の導入で高コスト体質からの脱却を急いでいる。

 「(部門によっては)10倍の生産性を目指さなければという話も出ている」。東電HDの武部俊郎統括CKO(チーフ・カイゼン・オフィサー)は業務効率化にかける思いを語る。

 同社では2015年1月にトヨタ自動車元常務の内川晋氏を特任顧問に招き、「生産性倍増プロジェクト」を始めた。火力発電部門など一部の事業会社で先行して始まり、現在では部門だけでなく、関連会社26社にカイゼン担当職であるCKOを置く。

 作業日数や人員、所要時間などで測定する生産性では倍増を掲げたが、すでに5倍以上の事例もあり、着実に成果が出始めている。

 現場での作業時間短縮を皮切りに、資材購入や工事発注で取引先と共同で原価低減にも着手。子会社や関連会社に出向し、外注していた業務のムダの洗い直しも始めた。カイゼン事例はグループ会社で共有しているが、将来的にはAI(人工知能)を活用して、カイゼンの切り口を探すことも検討している。

 トヨタ式を導入するのは、東電HDだけではない。中部電力も17年4月に内川氏を顧問に招き、送配電事業での効率化を始めた。工事現場での工期短縮などを目指している。

 電力会社が地道なカイゼンに乗り出した背景には、電力業界の「三重苦」がある。新電力への顧客流出でトップラインの伸びが見込みにくい。コスト負担も重く、大手電力10社合計での17年4―12月期の燃料費は2兆6745億円と、前年同期に比べて約3700億円増えた。一方、多くの原発の再稼働はいまだに見通せず、短期での収支改善は見込めない。

 カイゼンはトヨタのみならず、自動車業界や電機業界では一般的だ。電機メーカー元幹部は「ようやく地道な自助努力に乗り出したのは、地域独占の電力業界に余力があったことの裏返しでは」と指摘する。

 現在東電でのカイゼン案件は約800プロジェクトが実行中で、中部電もカイゼンの領域を広げていく方針だ。
(文=栗下直也)