女同士の闘いなんて、くだらない?

美貌・財力・センスのすべてを手に入れた女たちが繰り広げる、ヒエラルキー争い。

男からは求められ、女からは妬まれ、そして羨望の的となるカリスマ読者モデルの世界。

己の自己顕示欲を隠すことなく曝け出す彼女たちは、時に結託し、時に競い合う。

くだらない、と思うならどうか覗かないで欲しい。

優雅で美しくも、水面下で死にもの狂いで闘う、女たちの醜い生き様をー。

読者モデルに応募し、女性ファッション誌『GLORY』の紙面に登場し始めるあおい。

カリスマ読者モデルの景子に気に入られ仲良くなるが、自分だけがInstagramに載せてもらえずショックを受ける。




カリスマ読モからの、お食事会のお誘い


今日は、『イケてるGLORY GIRLSの目元が変わった!』という企画で編集部に呼ばれている。

メイクルームに着くと、他の読者モデル達は既に盛り上がっている。輪に入れずにいると、少し遅れて景子がやってきた。

「あおいちゃん、今日一緒だったの!よろしくね。」

親しげにあおいに声をかける景子を見て、皆が一斉にこちらに視線を向けた。

メイクルームの空気は一変し、全員が景子と自分の話を聞いているような気がする。

「ね、今週の金曜日、お食事会があるの。」

景子が意味深な笑顔を作る。

「私が幹事なんだけど、あおいちゃんにも絶対に来て欲しくて。リナや珠緒も来るし。男性陣もなかなか素敵よ。でも、カジュアルな内輪の集まりだから、気楽に参加してもらえないかしら」

実は、あおいは東京で食事会には行ったことがない。未知の世界だが、好奇心で参加を決める。

撮影に呼ばれた景子がメイクルームを出た途端、あおいは質問攻めにあった。

「木下さんって、景子さんと仲良かったのね!G3とお食事会に行くの?」

今までは自分に見向きもしなかった子達が、急に話しかけてくるなんて…。あおいは、改めてG3の凄さを思い知る。

だが、忘れないうちに金曜日の予定をスマホに入れようとしてハッとした。

その日は優と映画を観に行く約束をしていたのだ。


あおいは、お食事会を優先してしまうのか?


THE・東京のお食事会


帰宅途中の電車の中で、あおいは頭を抱えた。

先に約束をした映画を優先するのが筋だが、食事会の予定をキャンセルして景子達に嫌われるのも困る。

映画は公開期間中ならいつでも行けるし、日程を変えて貰えばいいのではないか。優とは長い付き合いだから、きっと分かってくれるはずだ。

しかし、さすがに食事会の為に予定を変更させて欲しいとは言えず、仕事が入ったと連絡を入れた。

ーなんだ残念。でも仕事なら仕方ないよね、頑張って!

こちらを気にかけてくれる親友の返信に、あおいの胸は少しだけ痛む。だが、そんな罪悪感は日々の忙しさに紛れてしまうのだった。



ー金曜日ー

あおいは、指定されたマンダリンオリエンタル東京へと向かう為にタクシーに飛び乗った。仕事が思ったよりも長引き、既に30分以上遅刻している。

会場である『シグネチャー』のセミプライベート ダイニングルームに通されると、他のメンバーは全員到着していた。




「あおいちゃん、お疲れさま」

景子が皆にあおいを紹介してくれた。丁寧に椅子を引かれ着席し、一息つく。その瞬間、目の前に広がる美しい夜景にあおいは思わず感動してしまう。

だが、G3のメンバー達は景色などお構いなしにお喋りに夢中だ。あおいは努めて冷静なフリをしようとしたが、男性陣の顔触れが目に入った瞬間、思わず息を飲んでしまった。

一体、この食事会のどこが”カジュアルな内輪の集まり”なのだろうか。

なぜなら、テレビでよく見かけるお笑い芸人と、トーク番組でも活躍している有名なスポーツ選手が目の前で親しげに会話をしているのだ。

テレビの中だけに存在すると思っていたような有名人が、自分の目の前で食べたり飲んだりしているのが信じられなかった。

他の2人は今話題のビットコイン長者と資産家だというし、あおいは自分が本当にこの場にいても良いのかと不安になる。

だが、それを悟られたら「負け」な気がして、必死で緊張を隠した。


気に入った男性を見つけたあおいだが…


男より大事な、女同士の暗黙の了解


次々と運ばれるキャビアや黒トリュフなどといった高級食材を食べるのも、あおいにとっては今日が初めてだ。

興奮を隠そうとしても、初めて味わうトリュフの香りに思わず陶酔してしまう。すると、幹事である斎藤という男性が話しかけてくれた。

「あおいちゃん、トリュフ好きなの?」

彼はこちらを退屈させまいと、様々な話題を振ってくれた。

会話をするために改めて向き合うと、彼が俳優と言われても通用する程の整った顔立ちをしていることにも気がつく。奥二重の切れ長な目元に、印象的な鼻筋。

色白の肌には黒子が目立ち、人懐っこい笑顔はまるで年下の男性のようにも見え、不思議と緊張を感じさせない。

あおいが公認会計士として働いていることを告げると、斎藤も自分のことを話してくれた。

数年会社勤めをしたのちに起業し、32歳の若さでその会社を運良く売却できたこと。今はセミリタイア的な生活で、投資をして暮らしていること。

ーこんなに素敵な人がいるなんて…。

その後も会話は盛り上がり、あおいはすっかり彼に心を奪われていた。




帰宅したあおいは、バスタブの中で幸せを噛み締めている。

というのも、斎藤から食事に誘われたのだ。来週にでも、トリュフの美味しい店を予約してくれるという。

食事会にも行ったことがないような自分が、彼のような男性とデートに行けるなんて奇跡に近い。

これもすべて景子のおかげだ。彼女が誘ってくれなければ、こんな体験は出来なかっただろう。

嬉しくて、G3メンバーとのLINEグループでそのことを報告した。景子からは、早速「やったね♥」というスタンプが送られてくる。

だが、すぐにリナから着信があった。

「あのね、あおいちゃん。実は景子も、斎藤さんのことを気に入ってたみたいなの。あの2人は幹事同士で前から仲が良いし、何度かお食事にも行ったことあるのよ。そういうのって、お下がりみたいであおいちゃんは嫌じゃない?」

リナは、斎藤からの食事の誘いを断れと言っているのだろうか。では景子から送られてきたあのスタンプは、一体何だったのだろう。

「お下がりとか、そういう風には思いませんけど…でも、もし景子さんが嫌がるようなら私、お食事には行きません。」

あおいが答えると、リナは満足そうに続けた。

「そう、そうよね。そういうのって、女同士の関係に響くものね。」

呆気に取られていると、次は景子から電話だ。

「ねぇ、リナから何か言われたかもしれないけど、私は全く気にしてないからね。あおいちゃんさえ乗り気なら、斎藤さんとお食事に行ってきて。彼、素敵な人よ」

度重なる着信にあおいはすっかり困惑して、わかりました、と答えることしかできなかった。

女友達といえば優くらいとしか付き合ってこなかったあおいにとって、女性同士のグループ、しかもカリスマ読モと言われる女達の暗黙の了解、というかルールのようなものがイマイチよく分からない。

景子は建前で斎藤と食事に行っても良いと言っているのか、それとも、本気で何とも思っていないのかー。

いつまで考えても正解が分からず、あおいは再び頭を抱えてしまうのだった。

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アッパーインフルエンサーの世界に、足を踏み入れるあおい。