2月9日、平昌オリンピックが開幕する。日本は各種競技でメダル獲得が期待されているが、やはり一番の注目は、連覇が懸かる男子フィギュアスケートの羽生結弦だろう。12月の全日本選手権を怪我のため欠場、先月から氷上での練習を開始したと報じられたものの、なかなかそれ以上の情報が伝わってこない。周囲から心配の声があがっている。

 怪我は本当に回復しているのか。試合勘は大丈夫なのか……。

 フィギュアスケート取材歴は20年以上に及ぶ、ノンフィクション作家・宇都宮直子氏は、懸命に調整を続ける羽生結弦に向けて、私たちの拍手と声援が必要だと説く。不屈のスケーターに今こそエールを……。

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 羽生結弦は、年末の全日本選手権を欠場した。今季は特別なシーズンで、全日本選手権は平昌オリンピックの選考会を兼ねていた。いつにも増して、重要な大会だった。

 羽生は、その大会に出られなかった。だけど、それで何かが変わるわけではない。終わるわけでも、ない。

 ソチオリンピックで金メダルを獲ったあと、休養を勧める周囲に、彼は言った。

「2個目のメダルが欲しいので、休みません」

 そこからの彼は王者であり、挑戦者でもあった。平昌のリンクに、彼ほど相応しい選手はいない。多くの人が、復活を願っている。出場しないで、いいわけがないのだ。


 平昌では団体戦をパスして、ぶっつけで本番を迎えると言われている。試合から離れていた分、緊張するかもしれない。

 でも、それでいいのだ。個人戦には究極の緊張が待っている。66年ぶりの、連覇の懸かる試合が、だ。

 私は思う。アクシデントは、これまでにもあった。そのたびに、羽生は乗り越えてきた。今度もきっと、そうなるに違いない。

 さて、これから、明るい話をしようと思う。エールを込めて、前向きな話を綴ろうと思う。都築章一觔コーチと、話をしてきた。

 羽生の容姿について話をしていたとき、都築が笑いながら言った。

「私も手足が長いなと思って、結弦に『長い』と言ったことがあるんです、そしたら……」

 羽生は、全力でそれを否定した。

「先生、違います。僕、苦労しているんですよ、手が短いから。いろんな場面で苦労しているんです」

 意外だった。羽生で「短い」なら、誰が長いのだ。ジェイソン・ブラウンか?

「いや、結弦は長いと思います。きれいに使うから、『お前は、長くていいな』と言ったんですが、本人は、短くて困っているらしいです」


 ひとしきり、そんな話を続けてから、都築は言った。

「平昌では、みなさん期待されているでしょうし、本人もそのことは十分にわかっていると思います。

 現在は、(試合で)やらなければいけないことが確実に増えている。怪我の回復次第ですが、ジャンプもきちんと入れてくるんじゃないでしょうか。

 羽生の力であれば、勝利に必要のないジャンプもありますが、なにしろ、負けん気が強いですからね。

 今回のオリンピックは、たいへんレベルの高い大会です。たぶん、5人くらいの争いになります。大舞台に必要なのは、技術もそうですが、精神力です。精神力は、5人の中で羽生がいちばん強いと思います。ただ、連覇が懸かっているので、どこまでその強さを持ち続けられるか。そこが鍵になるでしょう。

 私は当然、金メダルを期待しています。彼のジャンプのすばらしさ。ジャンプを降りたときの姿勢の美しさ。あの姿勢の良さは、ほかのスケーターには、なかなか、まねができないと思います」

 羽生には勝るものが、たくさんある。滾(たぎ)るような勝利への執念も、そうだ。彼はどんな状況でも、勝ちに行く。闘志の塊のような選手だ。

 遠慮はいらない。平昌オリンピックでは、大いに拍手をしよう。怪我の癒えた羽生結弦に。闘いの場に帰ってきた、羽生結弦に。


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