ストラスブールのLRT。優れているのは車両だけではない(筆者撮影)

LRT(Light Rail Transit)は文字どおりの意味は「軽量軌道交通」であるが、わが国では「次世代型路面電車」と呼ばれることが多い。このLRTを導入して「まちづくり」を計画、あるいは構想している都市がわが国にはいくつもある。その中の、栃木県宇都宮市と芳賀町の「LRTによる未来のモビリティ都市の創造」計画によれば、いよいよ今年度末にLRTが着工される予定だ。わが国初の新設LRTの開業が近づいた。

宇都宮市で軌道系公共交通導入の検討が始まったのは1993年。当初はモノレールも候補に挙がったが、整備費を勘案してLRTが選択された。宇都宮市長選でLRT導入が争点になり、また、導入に反対する市民団体の活動などもあって、検討を始めてから着工まで25年を要したことになる。

ストラスブールは19年がかりで導入

LRT導入によるまちづくりの成功例としてよく紹介されるフランス・ストラスブール市のトラム(路面電車)復活も、計画から着工までに19年かかった。市長選でトラム復活の是非が争点になるなど、宇都宮市の状況と似ている。

ストラスブールは戦前から走っていたトラムを1960年に撤去した。その後、街路に自動車があふれるようになり、1973年にトラムを活用した都市計画を策定した。1985年にトラムではなく「ゆりかもめ」のような新交通システム「VAL」に計画が変更されたが、1989年の市長選でトラムかVALかが争点となり、トラム復活派の候補者が当選、1992年に着工して1994年に開業した。

トラム派は、「トラムでも2分間隔で運転すれば1時間・片方向に1万人の輸送ができる。VALは、その構造から高架線か地下線となるが、トラムなら地平を走るから乗り場へのアクセスが容易だ。都市の景観と利便性でトラムが優れている。1kmあたりの建設費はVALの4分の1。トラムを活用して街中の自動車を減らすまちづくりをおこなう」と訴えた。

日本とは違い、編成長の大きいヨーロッパの路面電車の実力なら、この程度の輸送力は容易に実現できる。ちなみに、ストラスブールの現用の車両は、長さ40m、定員300(満載375)人であり、2分間隔の場合の輸送力は1万1250人にもなる。

ストラスブールでは、バイパス道路を建設して通過自動車を迂回させ、都心部へ来る自動車利用者は市街地外縁のLRT停留所で自動車からLRTに乗り継ぐ。いわゆる「パーク・アンド・ライド」を導入した。自動車からの乗り継ぎ旅客を受け入れるためにLRTの車両は大きくした。この結果、都心部へ流入する自動車が減少し、幹線街路はLRTのトランジットモールとなり、一部区間には自動車通行帯を設けたが1車線だけとした。

トラムかVALかが争点になった市長選の時、すでにフランスではナントとグルノーブルにはトラムが復活しており、市民は新しいトラム、とくに、グルノーブルの部分低床車の利便性、トラムを活かしたまちづくりについて見聞きしていた。こうした状況の中での論争だったから、市民はトラム復活に合点し、市長選後はスムーズに事が運んだ。

では、宇都宮ではLRT計画は市民に十分に伝わっているのだろうか。LRTで何がしたいのかが見えないとも言われている。「LRTによる未来のモビリティ都市の創造」と言うが、LRTの役目は何か、である。

これまでの路面電車と何が違う?

そもそも、LRTとはどんな乗り物なのか。これについて、宇都宮市のウェブサイトはQ&A形式で説明している。

「LRTってなに?路面電車?」については、「LRTとは、Light Rail Transitの省略です。LRTは、昔ながらの路面電車とは違い、最新の技術が反映された次世代型の路面電車です」と解説している。そして、その特徴として「〜音振動が少なく快適な乗り心地、⊆嵶召両果未肇曄璽燹幣茲蠑譟砲箸隆屬肪丙垢箏箚屬ほとんどない、専用レールを走るため、時間に正確な運行が可能、だ練されたデザインは、「まちのシンボル」になる、テ始上を走るので、ほかの交通手段との連携がスムーズ」の5つを挙げ、動画(福井鉄道、富山ライトレール、広島電鉄で撮影したもの)でも説明している。


ストラスブールのLRT。通勤電車のように編成が長い(筆者撮影)

次に、「乗車方法と支払い」については「LRTは、主に道路上に設置した停留場から乗車・降車し、歩行者信号と横断歩道に従ってアクセスします。運賃の支払いは、ICカードの導入により、スムーズな乗り降りを目指していきます」と説明し、動画(富山ライトレール、広島電鉄で撮影)で、運転士横のカードリードライタに乗客がICカードをタッチする様子を示している。

しかし、ちょっと待ってほしい。これではわが国ですでに走っている路面電車とまったく同じではないか。「LRTは、昔ながらの路面電車とは違い、最新の技術が反映された次世代型の路面電車です」という前段の記述と矛盾し、「これまでの路面電車と何が違うの?」という質問には全く答えていない。

LRTという呼び名はアメリカで生まれた。ヨーロッパ諸国の路面電車活用に触発されたアメリカが1970年代の初めに新しい路面電車の開発を始めた。


ロサンゼルスとロングビーチを走るLRT(筆者撮影)

時代遅れの乗り物とのレッテルが貼られた従来の路面電車やインターアーバン(1910年代を中心に活躍した市街地は路面電車のように併用軌道を走り、市街地を抜けると専用軌道を高速運転する都市間電車。全長15〜20mの車両の3〜5両連結で輸送力は大きい)の最新版であることを強調するために、それをLight Rail Transit(略してLRT)と呼ぶことにしたのである。

それゆえに、LRTはインターアーバンを近代化したものと定義されるが、近代化された路面電車もLRTと呼ぶのが一般的である。しかし、近代的な路面電車でも従来どおりにフランスではトラムと呼び、アメリカでもサンディエゴではトロリーと言う。

いずれにしても、LRTとは新しい路面電車のことである。しかし、わが国にとってLRTとは新しい路面電車なのだろうか。

運賃収受に時間がかかりすぎ

わが国の路面電車の利便性と機能は、諸外国で走っている路面電車のそれに遠く及ばない。

第1にバリアフリーではないこと。低床車が投入され、あるいは、ホームがかさ上げされて乗り降りはバリアフリーという例はあるが、乗車扉と降車扉が区分けされているから車内移動が必要であり、全長27mの路面電車もあり最後部に乗車すると降車時には20mあまりも車内を移動する必要がある。ベビーカーや車いす利用者には使い勝手がよくない。これでは、「人にやさしい」とは言えない。

第2に運賃収受に時間がかかること。運転士の監視のもとに乗客一人ずつ順番に運賃を運賃箱に投入、あるいは、ICカードをタッチするから時間がかかり、停車時分が長くなって表定速度が低い。

第3にこうした運賃収受方式のために小型車両しか使用できず、バスに代替できる程度の輸送力しか得られない。これでは路面電車を導入する積極的な理由にならない。輸送力が小さいためにパーク・アンド・ライドやバス・アンド・ライドに対応できない。大型車両が必要な場合には車掌の乗務が必要になる。

「次世代型路面電車でまちづくり」を謳う都市は、その説明にヨーロッパの路面電車の写真を添えている。宇都宮市も同じで、宇都宮駅東口の大看板にも市のウェブサイトにもストラスブールの最新形車両の写真を使っている。

次世代型路面電車とは、こうしたヨーロッパで走っている路面電車を指すのだろうか。確かにわが国の路面電車の現状の水準からすれば、まさに「次世代型」である。ヨーロッパの都市で普通に走っている路面電車を次世代型と呼ばざるを得ないのは情けない話だが。

しかし、宇都宮市のウェブサイトのLRTの特徴の説明には、ヨーロッパの路面電車の肝心なポイントが抜け落ちている。それは運賃収受方式だ。運賃収受方式は、表定速度、ダイヤ、輸送力、必要車両数に影響する。

ストラスブールの全長40m、定員300人の車両には幅広の扉が片側に8カ所あり、この8カ所で一斉に乗り降りする。乗降に要する時間が短いから表定速度が高い。乗った扉から降車できるから車内移動は不要でベビーカーも車いすも楽に利用できる。まさに「人にやさしい路面電車」である。定員が大きくパーク・アンド・ライドに対応できるから、中心市街地へ流入する自動車を減らすことができる。「環境にやさしい路面電車」である。

「人と環境にやさしい路面電車」を担保しているのが、「セルフサービス方式(わが国では「信用乗車方式」とも呼ばれる)」の運賃収受である。乗客は、乗車前に停留場等の券売機で乗車券を購入し、停留場または車内に設置の消印機で消印(改札)する方式だ。運転士は運賃収受に関わらない。

この方式は、1960年代の半ばにスイスで始まり1970年代の初めに西欧各国に普及、その後、アメリカ、東欧、アジア(香港、台湾)にまで普及した。この運賃収受方式の採用で、路面電車は高い利便性と表定速度、大きな輸送力を備えることとなり、今日の地球規模の路面電車大活躍時代が到来したのである。

わが国は、この方式をいまだに採用していない。低床車がいくら増えても、車内移動というバリアが残ったままだ。「人と環境にやさしい路面電車」でなくては現代の都市交通システムとは言い難い。運賃収受方式の革新は急務だ。

必要なのは車両ではなく、サービスの改革だ

わが国の各都市が導入をもくろむ次世代型路面電車とは、現に今ヨーロッパに走っている路面電車を指している。わが国にとっては次世代型ではあっても、諸外国で当たり前に使われているものを次世代型と呼ぶのは不自然であり、胡散臭さを感じる。

利便性の高い路面電車の導入とは、次世代型という言葉に象徴される革新的な電車(ハード)を導入することではなくて、グローバルスタンダードの運賃の収受方式(ソフト)の導入なのである。わが国の路面電車が「旧世代型」なのは、このソフトが伴っていないからである。

宇都宮市はウェブサイトのQ&AのAをもっと詳しくして、利便性の高い路面電車を導入することをハッキリと示すべきである。そのためには、運賃収受にセルフサービス方式の採用が必須であることを説明し、それには市民(乗客)の協力が欠かせないという啓蒙を今から行う必要がある。

セルフサービス方式の採用には、いろいろな抵抗も予想される。それをおそれて次世代型路面電車という「何となくよさそうな電車」と曖昧にしておくのはよくない。物事ははっきりすべきだ。

宇都宮LRTは今年度末に着工される。わが国にも利便性の高い路面電車が導入されることが、ついに現実となってきた。だからこそ言いたい。ヨーロッパでは当たり前の路面電車を次世代型路面電車と呼ぶのは、もう卒業したいものだ。