その飛距離と姿勢の美しさ、「美しく、遠くへ飛ぶ」ことを競うスキージャンプ。たった数秒のうちに起きているドラマとは?(写真:FINLAND / PIXTA)

みなさん、こんにちは! TBSアナウンサーの出水麻衣です。いよいよ本日、2月8日から、平昌オリンピックのスキージャンプ競技が始まりますね。
スキージャンプは、特にメダル獲得を期待されている選手が多いのですが、その中でも大注目はなんといっても「レジェンド」こと葛西紀明選手。史上単独最多の計8回も冬季オリンピックに出場している葛西選手は、日本だけでなく、世界中からも注目されています。
スキージャンプ競技は昔からなじみのある競技ですが、前回のソチオリンピックでは現地取材をさせていただき、あらためて選手のみなさんのすごさと、スキージャンプの魅力を実感しました。
そこで、スキージャンプをより楽しく、より身近に感じながら観戦していただくために、スキージャンプ競技の奥深い面白さについて、解説していきたいと思います。

知れば、「スキージャンプ」がもっと楽しくなる

「斜度30度!? 絶壁を時速90キロで滑り降りる」――もし、あなたが身ひとつでジャンプ台を滑れと言われたら、どうでしょうか。

こんな荒業を、スキージャンプの選手たちはいとも軽々とやってのけます。それに、空を飛ぶ姿はとてもきれいですよね。


出水 麻衣(でみず まい)/アナウンサー。東京都出身。上智大学外国語学部英語学科卒。2006年よりTBSアナウンサーとして「News23」や「王様のブランチ」などに出演。2008年北京、2012年ロンドン、2014年ソチ冬季オリンピック、その他、世界陸上やWBCを現地取材。現在は、TBS系列「世界ふしぎ発見!」「時事放談」、BS-TBS 「週刊報道LIFE」「外国人記者は見た!」、TBSラジオ「ナイツのちゃきちゃき大放送」などを担当(写真:TBSテレビ)

いよいよ平昌オリンピック。本日2月8日から、開会式に先駆けてスキージャンプ競技が始まります。各種目で選手たちがメダルをかけて果敢に挑みますが、スキージャンプもメダルへの期待がかかる大注目の種目です。

平昌オリンピックが近づくにつれて、スキージャンプの報道がメディアをにぎわせていますが、「よく聞く『K点』『テレマーク』って何のこと?」と疑問に思っている人もいるかもしれません。

また、同じジャンプ競技でも、男子は「ノーマルヒル」「ラージヒル」「団体」の3競技がありますが、女子は着地の際などの身体的な負担の大きさを考慮し、「ノーマルヒル」のみの競技です。しかもオリンピック種目に正式採用されたのは、実はつい最近など、意外に知られていない事実もたくさんあります。

本記事では、スキージャンプを「より楽しく」見られるように、スキージャンプの基礎知識を紹介したいと思います。

まずは、スキージャンプの「スピード」「時間」について、紹介しましょう。

ジャンプは「台風を全身で受け止める」ような感覚

【1】ジャンプ中は、「最大120キロ」で「5秒間」落ち続ける

スキージャンプは、斜度35度ほどのアプローチ(助走路)から時速90キロ以上のスピードで踏み切り、空へと飛び出していきます。トップ選手クラスになると、空中を最大でおよそ5秒間滑空し、美しい着地を目指します。

ディズニーシーにあるアトラクション「タワー・オブ・テラー」の1回の落下時間は3秒弱だったと思いますので、5秒間も落ち続けるのは意外と長いですよね。

しかも、この間の最高時速は約120キロ。とてつもない圧力や、四方八方から吹き付ける風に耐えながら姿勢を保つ難しさは、スキージャンプ経験者に話を聞くと、台風時の暴風を全身で受け止めるような感覚だそうです。

【2】「ノーマルヒル」は108m、「ラージヒル」は140m

スキージャンプには「ノーマルヒル」「ラージヒル」「団体」の3競技があります。平昌オリンピックでは、ノーマルヒルのヒルサイズは108m、ラージヒルのヒルサイズは140mです。

男子は、「ノーマルヒル」「ラージヒル」両方飛びますが、女子は身体的な負担の大きさを考慮し、「ノーマルヒル」のみです。

ちなみに、高梨沙羅選手をはじめとする、多くの選手の活躍ですっかりおなじみになっている女子スキージャンプですが、オリンピック種目に正式採用されたのは、実は前回2014年のロシア・ソチオリンピックからなんです。

【3】採点は「飛距離」と「飛型」で決まる

スキージャンプは単純に「飛距離」だけでなく、飛行や着地の姿勢の美しさなどの「飛型」も採点されます

5人の審判員たちが、それぞれ20点満点から減点方式で点数を出し、最高得点と最低得点を除いた、3人の得点を合計した「飛型点」と「飛距離点」を合算して順位に反映します。選手は2回ずつ試技を行い、その合計点で最終的な順位が決まります

次に、スキージャンプでよく聞かれる「K点」「テレマーク」について紹介します。

飛行技術の向上とともに変更されてきたルール

【4】「K点」の意味は「これ以上飛ぶと危険」から「飛距離点の基準距離」に

「K点」はかつて、飛距離において「これ以上飛ぶと危険」という目印として記されていました。また、このK点が、大ジャンプのひとつの「目安」とされていました。

ところが、選手たちの飛行技術やウエア、スキー板などの性能の向上で飛距離が出るようになったため、K点は「これ以上飛ぶと危険」の目印から「通過点」へと変化し、K点は「飛距離点の基準距離」と考えるようになりました。

今は、K点は赤いスプレーで線が引かれています。このK点を基準に1mごとのポイントが加算されるので、観戦するときはぜひココをベースにチェックしてみてください。

【5】着地の「テレマーク」も重要な採点基準

そして、スキージャンプで忘れてはいけないのが着地の際の「テレマーク」。なんだか、音感が楽しくて、つい言いたくなる言葉のひとつです。

「テレマーク」の名前の由来は、ノルウェーのテレマーク地方のジャンパーたちが、「手を左右に地面と平行に広げ、足を前後に開いて着地をする」ポーズをとったことからだと言われています。

しかし、このテレマーク、実は選手たちにとってはかなり気を使うものなんです。

ジャンプの順位は飛行や着地姿勢の「飛型」も採点対象なので、審判員を意識した形の調整が必要です。

理想的なテレマークは、「前後にスキー靴1足分、左右に1足分(肩幅くらい)足を開いた形」だと言われているそうで、トップ選手になると、飛び出した直後に自分がどの地点まで飛んでいけるかが感覚的にわかるそうです。

そのため、ジャンプ会場のどこに審判員がいるかを考慮して、テレマークの際にどれくらい足を広げて着地すると審判員から美しく見えるかを計算しながら滑空することもあるそうです。

選手のみなさんがどんな美しい「テレマーク」をするか。そんなところに注目しながらの観戦もいいと思います。

また、スキージャンプは風の影響や、助走を始める位置によっても得点が左右される繊細な競技。スタンバイからジャンプまでは、次の2つが大きなポイントです!

ジャンプの勝敗を分ける2つのポイント

【6】「風」は敵にも味方にもなる

平昌のジャンプ台は標高約800mの山の頂上にあり、近くには風力発電の風車が設置されているほど、風の強い場所です。

一説によると2月のこの時期は特に風が強く、競技中断や中止の目安となる秒速3〜5m以上の強風が吹き抜けることも。

複数の日本企業が合同で設置にかかわった防風ネットが、風速計と連動して自動昇降しながら風を抑えるそうですが、飛行に有利な向かい風、「神風」を味方につけることができるか、という「運」も大切なポイントになりそうです。

【7】信号が青になったら「10秒以内に」スタート

前の選手が飛び終わると信号が黄色になり、そのタイミングでスターティング・ゲートのバーに腰を掛け、シュプール(スキー板がぴったりはまるように掘られた雪の溝)に脚を置きます。


風などでスタート時間が若干変わりますが、その後、信号が青になったら「10秒以内」にスタートしなければいけません

この10秒で緊張をコントールし、心を整え、成功のイメージを描き、風を読み、そしてスタートを切る……私なら、ここでもう頭がパンクしそうです。

私もアナウンサーの仕事では、生放送前にニュース原稿が差し変わったり時間が短縮になるなど、即座に対応が求められる場面で焦ってしまい、気持ちばかりが先行してしまった苦い経験は、思い出したくないほどあります……。

「たったの数秒」で、日々の努力の順位が決まるスキージャンプ。その数秒の、美しくもダイナミックな飛行の「スピード」「風圧」を想像しながら、葛西紀明選手をはじめとする日本勢の活躍を一緒に応援しましょう!